第5話 トラブルはティータイムの後で。
体育祭は前半戦を終え、俺はバレーに、正樹はバド、悠里は女子のバレーとあまり多くない種目数の中で、それぞれの種目をこなしていた。
男子の種目はサッカーとバレーにバドミントン、女子はバレーとバドミントンにソフトボールと言った感じに少し違った種目があったりする。
ちなみに亘理くんはというと、男子のサッカーの中にいる。
午前中の種目としてはバレーとバドが中心に行われ、外種目は午後から行われる。
そして、体育祭の締めという形で各学年ごとでリレーが行われるという形だ。
男子も女子も別々に試合を行なっていることもあって悠里とはちらっとしか顔を合わせていない。
というのも、今日は授業という扱いよりも自分の種目の時間に合わせての自由登校という形がとられているので意外にも悠里と顔を合わせることが少なかった。
「やっほー!」
パァッと輝く笑顔と共に悠里の明るい声が俺の元まで届く。
俺と悠里がバレーを選択していたということもあって試合後すぐに声を交わすことができた。
「お疲れ悠里、女子の方は残念だったな」
「いや〜、決勝まで後少しだったんだけどな……」
悠里率いる女子バレー組は二セット先取のあと一セットが取れず準決勝で敗退となった。
その後は俺ら男子バレー組の応援に回っている。
途中で敗れてしまった彼女らの熱烈な応援の甲斐あってか俺ら男子組は二年の中でトップ、全体を通しても準優勝という形で終えることができた。
この時期の三年生は学生生活最後のイベントを受験や就活の合間を縫って全力で取り組む傾向にある。
それもあってかやはりトーナメントを見ても三年生が比較的上位を占めている。
そのなかに入り込めたんだ、よくやった方だろう。
「外種目は午後からだけどこの後どうする?」
「正樹の様子を見ながらご飯でも食べようかな〜」
それを聞いて、ぱぁっと周囲にたんぽぽを咲かせた……かと思えば急にモジモジとした様子になる。
「あの……ね、私さお昼多めに作ってきたんだけど、よかったら一緒にどう……?」
落ち着かない様子、それに上目遣い。そんな態度を取られたらこれがどういう意味を持って聞いてるかなんて俺にでもわかる。
ちょっと自意識過剰気味に捉えるとするのならば「俺のためにお弁当を作ってきたから一緒に食べたい」ってことだろう。
普通の受け取り方をすれば、「お弁当を一緒に食べない?」ってことだろう。
悠里の気持ちが俺に向いていることを加味すれば前者の方が有力だろうか。
「わかったよ、俺は二人分の飲み物でも買ってくるから教室ででも待ってて」
落ち着きのなかった表情に、嬉しさの色が差して、彼女の魅力的な笑顔がより輝いて見えた。
まだお昼と呼ぶには少しだけ早い時間ということもあって、生徒ホールにはあまり人気がない。ホールの外側から聞こえる声援やキュッキュというシューズの楽しそうな音が、この場所の静けさを際立たせる。
自分の出場種目を終えたことと、この静寂の心地よさからか体育祭以外に思考を切り替えるができた。
「(そういえば、実菜のことまだ一度も見てないな……)」
こんなことを考えるのも、実菜からすれば図々しいのかもしれないがそれでも思わずには居られなかった。
というのも実菜は、昨日一昨日と体調不良で休んでいた。
遠からぬ原因の一つに俺のこともあるのかもしれない。それだけに俺がこんなことを考えるのも身勝手なのかもしれない、しかしそれでも考えずにはいられなかった。
実菜の種目の割り当ては確か、外種目のソフトボールだった筈だ。
お世辞にも運動が上手といえない実菜らしい選択で、彼女らしさを感じさせる。
飲み物を買った帰り、階段の窓からグラウンドを覗いてみる。
外ではそのソフトボール組が軽くウォーミングアップを始めている。けれどその中に彼女の黒く輝く長い髪は見当たらなかった。
どうやら今日も休みらしい。
そのことだけが少しだけ寂しく感じた。
「どう……かな?」
「普通に美味しくて驚きを隠せない……」
二段重ねのお弁当箱の上段には、唐揚げや、綺麗に層ができた卵焼き、タコさんウィンナーにミニトマト、そのほかにもお弁当に入っていたら思わず嬉しくなってしまうようなメニューが揃えられていた。
それに続き、下段を開けてみると一口サイズのおにぎりが敷き詰められている。
意外なことにどれも美味しくて悠里に対する評価が少し変わる。
「いや、あの、俺もいること忘れないでくれると助かるんだけどな?」
「もちろん忘れてないよっっ?」
「まるで二人しかいないみたいな空間作らないでくれ……」
正樹の決勝戦まで少し時間があるため、こうして俺らは昼食を共にしている。
和気藹々とした雰囲気で、俺が正樹を、正樹が悠里をいじる形でふざけている。そんな中に、もう一人はいない。
「正樹の決勝が終わればいよいよリレーだね!」
「おい、亘理のサッカー忘れるな〜〜」
「も、もちろんだよ!」
そんな俺らに嫌な知らせが届いたのは食事がそろそろ終わろうかという頃合いだった。
————ガラッッ!!
一際大きい音が教室の中に響き渡る。
「亘理が、練習中に怪我したって————」
同じサッカーに所属していたクラスメイトが、俺らの元に嫌な知らせを運んできた。
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