第19話 撫で撫で
「ごめんねっ、うっ」
まだ嗚咽は治まらなそうだったので悩みはしたが、背中をさするようにして悠里を落ち着かせる。
少しずつ、少しずつだけど彼女の嗚咽の声が小さくなっていく。
両手でとじた彼女の顔が開かれると、彼女のくりっとした瞳が赤くなっている。ごしごしと腕で頬を拭っている姿に少し胸が熱くなる。
「いいよ、むしろ俺のために泣いてくれてありがとう」
「ううん……」
正直な話俺は嬉しかった。
彼女がここまで考えていてくれた。その友達想いな部分は素直に美点だろうな。
悠里の隣に並ぶように腰掛け、正樹の買った飲み物をグイッと
「あのさ、駿……」
「ん? どうした……?」
泣いたことで赤くなった瞳や、まぶたを冷やすため飲み物を目元に当てながら悠里は俺になにかを言いたげに声をかけてくる。
「いや、ごめん……なんでもない」
「そうか……」
「…………やっぱ頭撫でて」
「しゃあないな……」
俺はポニーテールを崩さないよう気をつけながら、彼女の頭を撫でる。
なんというか普段は意識したことはなかったが、女子の髪の質のようなものは人によって違うのがあまり他人の頭を撫でたことの無い俺にだってわかる。
さらさらとしつつも、ふわふわしたような柔らかい質感の髪で撫でているこちらも気持ちよくなってくる手触りだ。ずっと撫でて居たいような気持ちもあるが女子の髪を必要以上撫で回すこともあまりよろしくないだろう。
一撫で、二撫でと後ろから前に手の平を動かして、その手を放そうとする。
「あっ……」
その手を名残惜しそうに見つめる。その手を追う悠里の目と俺の目がばっちりと合う。
一秒……二秒……三秒と目が合う。彼女の黒い瞳に吸い込まるような錯覚を覚える。
「やめちゃうの……?」
それを見ているだけで俺自身もどこか満足な気分だ。
コツン、悠里の温かみのようなものが俺の肩から感じられるようになった。
端的に言えば悠里は俺に寄りかかるようにその頭を俺の肩に乗せた。
「実菜ちゃんはいいよね……」
ポツリと、俺の耳元で悠里が囁く。
「なにが?」
「なんでかな。自分から離れていったのに未だに想ってもらえて……」
「いや、別に今も想ってるというわけではないと思うけど……」
「本当に……?」
「ああ、少なからず今は、落ち着く時間にしようというか」
「そうなんだ。それなら今はいいかな……」
「今はいい……?」
「こっちの話だよ」
それだけ言うと満足したのか俺の肩から頭を離しぴょこんと立ちあがる。彼女のテールが今日も揺れる。ぴょこんという擬音がとても似合っているように感じた。
「なんか泣いちゃってごめん! 今はもう大丈夫!」
「そうか、それなら安心したよ」
「それじゃあ、残り時間ももったいないから遊び尽くすぞ!!」
「まかせろ!」
「まずはバドミントンじゃぁぁあ!」
「勝負だな! 美織も実菜ちゃんも誘ってバドしよ!」
「あいよ!」
この時間のおかげもあって悠里の中で何かが吹っ切れたようだ。
前を走る悠里を追いかける。
なんだか、今日来た中で一番の笑みを見ることが出来たような気がした。
そんな笑顔を引き出すことが出来た自分を少しだけ誇ってもいいんじゃないだろうか?
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