第48話 メリルとの模擬戦
冒険者ギルドに入ると、ざわざわとしだした。
その様子を見るにメリルは少しアルムントで有名なのかもしれないと思った。
「ロア様ァ! あなた様のおかげで私の運び屋の報酬がたんまりと頂けたっす!!!」
模擬戦をするためにギルドの訓練スペースに向かっていると、マーシャがダッシュでやってきた。
そして俺の足もとに綺麗な土下座を披露してくれた。
なんて奴だ。
その間の動作に一瞬の無駄もない。
研ぎ澄まされた動きだった。
「なに、ただ好奇心を刺激されただけさ。これからは運び屋なんてやらずにちゃんと行商人として成功しろよ」
「分かったっす! 肝に銘じておきます!」
「うむ。精進したまえ」
「ハイっす!」
なんだかんだマーシャみたいに素直なやつが成功しそうな気もする。
商人は信頼が命だろうからな。
「あれ、ロアさん。その隣のお方はどうしたんですか?」
少し遅れてソニアがやってきた。
「ちょっと今からこの正騎士のメリルと模擬戦をするんだ」
「随分と急な話ですね……」
「すまない。私の我儘でロアと模擬戦をさせてもらうことになったのだ」
「私は別に構いませんが、ロアさんがよくその申し出を受けましたね。ロアさんはこういうのめんどくさがると思ってました」
ソニアのやつ、俺のことをよく分かっているな。
だが、俺はもう少しミステリアスな男でありたい。
「何を言う。俺は人が良いからな。どうしてもと頼まれたら、断るのがかわいそうになったのだ」
「私が負けたらただ働きをする条件を提示されたけどな」
「ロアさん……」
じとーっ。
ソニアが俺を横目で見つめる。
「ははは、それはただの照れ隠しだ。さて、とにかく早く模擬戦を始めよう」
「うむ。私も早く其方と模擬戦がしたい」
「……ロアさんらしいですね」
◇
訓練スペースはフォイルの冒険者ギルドよりも広く、もはや円形の闘技場のようだった。
アルムントに住むドワーフ族はとても職人気質なため、このように凝った作りになったのかもしれない。
闘技場の中央で俺とメリルは向かい合う。
お互いの利き手には、木剣が握られていた。
ちなみに俺の利き手は左で、メリルは右だ。
「先ほどの身体の重心移動の仕方を見ていて思ったが、やはり利き手は左か」
「それがどうかしたか?」
「いや、多くの者の利き手は右だからな。少しやり辛そうに思っただけだ」
「お、そうか? やめるなら今だぜ。負けて恥をかいてからじゃ遅いからな」
挑発は相手のペースを惑わすのに効果的だが、メリルはどうだろうか。
「ふっふっふ……。私が負けるだと? 戯言は勝ってから言うことだな。──さあ、どこからでもかかってくるがいい」
メリルは木剣の先をこちらに向けて、余裕を見せた。
ふむ、あまり挑発の効果は無さそうだ。
この模擬戦のルールは、刃物以外なら何を使っても良いらしい。
魔法の使用も許可されているが、詠唱時間のかかるものは通用しないだろうな。
そして、勝利条件は互いに異なる。
俺の勝利条件はメリルに一回でも攻撃が当たれば良い。
一方でメリルは俺に十回攻撃を当てる必要がある。
これは大きなハンデだが、十回当てられるまで模擬戦は続行されるということだ。
俺の才能をはかるのには最適だ。
……と、メリルは思っていることだろう。
なにせこの勝利条件はメリルの方から言ってきたのだからな。
狙いが見え見えだ。
俺から言わせれば、こんな勝利条件は何も意味を持たない。
なぜなら俺がギブアップすれば、すぐに模擬戦は終了になるからだ。
なんなら戦いが始まる前にギブアップしても良いぐらい。
そこまでメリルが必要かと問われれば、別にそんなことはないだろうし。
まあそれはメリルがかわいそうだから流石にしないけど。
よし。
とりあえず、模擬戦をしてみるか。
まずは《身体強化》を使わずに戦ってみよう。
メリルとの距離を詰め、木剣を一振りするも簡単にメリルにいなされる。
カンカンッ、と木剣を何度か交える。
だが、メリルの動きは俺よりも圧倒的に上をいっているようで、すぐに浴びせられた。
「いたっ! ……くない」
木剣は身体に当たる直前で止められていた。
「これで1回だ。あと9回で私の勝ちだな」
「なるほど、これなら俺は痛くない」
「なに、これぐらいの配慮は騎士として当然」
当然なのか。
すごいな、騎士。
「さて、其方は早く本気を出すことだな。出し惜しみしているとすぐに負けてしまうぞ」
そりゃバレるよな。
さっきの喧嘩を見ていたなら、動きの違いに気付かない訳ないか。
「《身体強化》」
もちろん《身体強化》の倍率は3倍。
俺は、先ほどよりも速い動きでメリルに攻撃を仕掛ける。
「ほう……! ここからが本領発揮というわけか!」
「さぁ、どうだろうな」
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