第47話 正騎士メリル
「私はダラム王国王都ノーハイム所属の正騎士のメリルだ。其方の身のこなしが見事なものだったので、声をかけさせてもらったのだ」
「はぁ……そりゃどうも」
正直、俺は困惑していた。
いきなりよく分からない騎士に身のこなしが見事だったと声をかけられたら、こんな反応をしてしまうのも仕方ないだろう。
しかし、正騎士ってなんだろうか。
ここにソニアがいれば教えてくれるんだろうな。
「あの〜……俺たちはどうすれば……?」
土下座をしていた冒険者の一人が伺うように頭を上げて視線を送ってきた。
「あー、正騎士のメイルとやら、俺もう行っていいか?」
「すまないが、少し話がしたい」
「ふむ。じゃあ仕方ないな。お前ら、俺に運び屋の1日分の報酬金を渡したらもう行って良いぞ。ちゃんとマーシャにも謝っておけよ」
「「「「はいィィィ!!!! 分かりましたァァァァ!!!!」」」」
報酬金を渡すと、4人の冒険者は駆け足でその場から去っていった。
……これだと俺が悪人みたいに見えるな。
騎士に引き止められたのも取り調べとかそんなのか?
めんどくさそうだな……。
「見た目や言葉遣いに反して、なかなか善人なのだな」
メリルが感心したような口調で言った。
どうやら事の顛末は把握してくれているようだ。
そういうことなら俺も一安心できる。
「見た目や言葉遣いもどちらかと言えば善人寄りだろう」
「確かにそうかもしれないな」
「よしよし、物わかりが良いようで助かる。それで話ってなんだ?」
「なに、ただのスカウトだ。騎士にならないか?」
「ならない」
「ほう……。まさか即答されるとは」
「悪いな。俺が興味あるのは魔法だけなんだ。騎士なんかやってる暇はないんでね」
「魔法? 其方は魔法使いなのか? それならその腰に携えた剣はどうした。なぜ杖を持たない」
「魔法使いだから杖を装備するってのは時代遅れだぜ。俺はある魔法を使うために剣を装備しているだけだしな」
《紫電一閃》の必要ステータスが攻撃力500だったから[ミスリルの剣]を作ったのは間違いないが、その前も[銅の剣]を装備していたことを考えれば、どちらにしろ剣を携えていたのではないだろうか。
そう思ったが、わざわざ説明する意味もないので胸の内にそっとしまっておくことにした。
ちなみに魔法使いが杖を装備するのが時代遅れなのか、なんてことも全く知らない。
「バカな……。それならあの身のこなしは天性のものだとでも言うのか……?」
「さあな。でも俺はよくこんな感じで喧嘩はしていたぜ。それが活かされているだけな気もするな」
「喧嘩でいくら場数を踏もうが、それだけの体術を身に着けることは出来ないはずだ。間違いない。其方は天才だ! しっかり剣術を学べば筆頭騎士に必ずなれる!」
「胡散臭え勧誘だな……。必ず、なんて言葉は嘘つきが使うもんだぜ」
俺も【アイテム作成】しかユニークスキルがないとき、パーティを組もうとよく『必ず儲かる!』ってよく言ってたなぁ。
懐かしいもんだ。
……なるほど、今思えばそういう行いとかも相まって「無能」って言われていたんじゃないか?
いや、違うな。
俺が勧誘を始める頃には既に「無能」って言われていた。
小さな村だ。
噂が広がるのは早い。
よかった。
それならば俺の交渉術が優れていないことの証明にはならない。
ふぅ、やれやれ。
「なんて勿体ない奴なんだ……」
「悪いな、これが俺なもんで」
「ならば私と模擬戦をしてくれないか?」
「模擬戦だと?」
「ああ、頼む! 受けてくれ!」
そう言ってメリルはお辞儀をした。
「模擬戦を受けるメリットが俺になくないか?」
「なにかお礼はさせてもらう! だから頼む! お前の才能を確かめさせてくれ!」
才能を確かめる、か。
結構良い響きだな。
それに、ここまでお願いされて断るなんて男じゃないよな。
「断る!」
しかし、俺はここで敢えて断ることが出来る。
つまり男の中の男というわけだ。
まあ別に断る理由もなかったんだけど、断った方が面白そうかなって。
「くっ、分かったぞ……! 金か! 金を払えばいいのか!?」
「金は別にいらないが、俺が勝ったら俺のために働いてくれ。アルムントのダンジョンを攻略する間だけでいい。もちろん給料は出す。それさえ呑んでくれれば後は何もなくていい」
アルムントのボスはBランクで結構な強敵だ。
パーティ人数が2人から3人になれば、その分討伐が容易になる。
魔法でボスを一撃で倒せなかったとき用の保険だ。
こういう条件で手伝ってもらえるなら、パーティに入れなくても許してくれるだろうし、経験値の効率は大して変わらない。
「……ふっふっふ。そんなことでいいのか? 私が其方に負けるはずないだろう。なにせ私は由緒正しき騎士家の5代目なのだからな。実力も騎士の中でも上位だ。その条件で本当にいいのだな」
「ああ、もちろん。勝ち負けにこだわらないと戦っていても燃えないだろ?」
まあ俺は負けても何もリスクがないのだけど。
「ふっ、そうだな。確かに其方の言う通りだ。では、冒険者ギルドに移動しよう。あそこならば模擬戦を行うに十分なスペースがあるはずだ」
そして俺はメリルと共に冒険者ギルドに向かった。
うーむ、随分と変なことになってしまった。
まさか先ほど出会ったばかりの騎士と模擬戦をすることになるとはな。
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