第40話 恩返しと次の街

 ギルドカードが金色(ゴールド)になり、冒険者ランクもCになった俺とソニア。

 ダンジョンも攻略して、もうルンベルクでやることは済ませた。

 そろそろルンベルクを旅立ち、Cランクのダンジョンに向かうべきか。

 ギルドで遅めの朝食をとりながら、俺はソニアと今後の方針について話し合う。


「ソニア、陸竜買うぞ」

「と、突然どうしたんですか」

「もうルンベルクにいる意味もないかなと思ってな」

「んー、そうですね。ダンジョンの称号も手に入れましたし、ロアさんの実力ならCランクのダンジョンにも通用するでしょうね」

「そうそう。だから今後移動する機会が多くなるだろうから早めに陸竜でも買っておこうかなって」


 陸竜は四足歩行で翼のない竜種だ。

 馬よりも速いスピードで移動することが出来て、スタミナも馬よりある。

 全てにおいて馬よりも上だ。

 値段、陸竜の大きさ、その点に関して言えば、馬よりも上であることはマイナスか。

 温厚な性格をしており、草食であることから人間を襲うことはあまりない。

 怒らせると勿論、反撃してくることがあるけどもそうなる場合はよっぽどらしい。


「陸竜……購入するのに1000万ムルぐらいかかりますね」

「よし、それじゃあ購入は次の機会にしよう!」

「ははは……」


 もう少し安ければ十分買えたんだけどな。

 1000万ムルはちょっと高い。


「その話、聞かせてもらったぜ」


 俺たちの前にエリックが現れた。


「こんにちは、エリックさん」

「ん、よう。エリック。どうして冒険者ギルドにいるんだ?」

「さっき冒険者を正式に辞めてきたんだ。その手続きをしにギルドにやってきたんだけど、食事中の君達が見えてさ。声をかけに近づいていくと、話が聞こえてきたってわけ」

「なるほど、じゃあ実家の道具屋を継ぐことにしたんだな」

「ああ。それでロア達は陸竜が欲しかったんだよな? あげるよ」

「……ほんとか?」

「……ほんとですか?」

「もちろん! 俺は君達に命を救ってもらったからな! 何かお礼がしたいとずっと思っていたんだ」

「いいって。気にするなよ」

「君達がルンベルクを旅立ってしまったあとでは恩返しが叶わなくなる。是非受け取ってくれ!」

「……そこまで言うなら貰っておこう」


 それにほら、俺貰えるものは貰っておく主義だから。



 ◇



 エリックの実家の道具屋に行くと、そこには大きな建物が待ち構えていた。

 店の規模も大きそうだ。


「……もしかしてエリックは金持ちなのか?」

「あはは、そんなことないよ。でも見方によってはそうかもしれないね。こっちに厩舎があるんだ。ついてきて」


 エリックの後をついていく。

 店の裏には広い敷地があり、そこには厩舎があった。


「冒険者や旅人が多いから馬や陸竜は結構需要があったりするんだ。だからウチでは結構な数を飼育していてね」


 たしかにエリックの言う通り、厩舎の中では馬や陸竜が沢山飼育されていた。


「あの、本当に陸竜を1体貰ってしまってもいいんですか?」

「まぁくれるって言ってる訳だし、あまり気にしなくていいだろ」

「ははっ、そうそう。ロアの言う通りだよ。命はお金で買えないからね。あのとき、君達が助けてくれたのを本当に感謝しているんだ。助けた後も親切にしてくれて……そんな君たちに恩を返さないなんて罰が当たるだろ?」

「くっくっく、俺なんかよりよっぽどお人好しの奴がここにいたな」


 そしてエリックから陸竜を貰った。

 陸竜の全長は大体3mほど。

 横幅も馬より大きく、亜麻色の鱗で覆われている。

 乗り心地は馬よりも良そうだ。


 陸竜の頭をポンポンと撫でてみると、気持ちよさそうに目を閉じた。

 ……ふむ。

 可愛いじゃないか。


 試しに陸竜にそこら辺に生えてた草をあげてみた。

 俺をジーっと見つめた後に草をムシャムシャと食べた。


「おおー」

「結構かわいいですね」

「人懐っこくて人間の言葉も分かるから、すぐに言うこと聞いてくれると思うよ」

「凄いな、陸竜」

「ヤオゥ」


 陸竜が返事した。


「本当に言葉が分かっていそうですね……タイミングとか完璧でしたよ」

「はは、そういうところも可愛いよね。それにしても陸竜はもうロアに懐いてそうだね。人懐っこいと言えども、これはちょっと驚いたよ」

「あー、昔から動物には懐かれるんだ。なんでだろうな」

「ロアさんって何気に色々と凄い一面がありますよね……」

「うんうん。陸竜がこんなに懐いてくれるなら僕もロアに譲って正解だったよ」

「そういえば、この陸竜をエリックさんの一存で譲ってもらっても大丈夫なんですか?」


 ソニアの言うことももっともだ。


「大丈夫。もともと経営方針や戦略については僕が指示していたんだ。だから冒険者をやめた今、僕は正式にこの道具屋の店長になったわけさ」

「なるほど、エリックは商才に優れていたわけだな」

「本当は子供の頃からの夢だった冒険者を続けていきたかったんだけどね。でも、いつまでもそう言ってもいられないから」


 そう言ってエリックはニッコリと笑った。


「陸竜に乗るための道具も揃えておいたから、遠慮なく使ってくれ」

「何から何まで助かる」

「気にしないで! 僕がやりたくてやったことだから! それでいつ旅立つんだい?」

「……ソニア、どうする? 俺は陸竜を手に入れることが出来たし、もう旅立っても良いと思うんだが」

「そうですね、私もそれに賛成です」

「というわけで、これから次の街に向かおうと思う」

「そっか。寂しくなるね。次の目的地はどこだい?」


 俺は《アイテムボックス》からフォイルのギルドマスターから貰った地図を取り出した。

 そして地面に広げる。

 広げると、エリックはいくつものダンジョンが記載されていることにビックリしていた。

 俺は地図に向かって、次の行先に指先を当てた。


「ここだな。火山地帯にある街『アルムント』に向かう予定だ」

「なるほど、次はCランクのダンジョンに挑むんだね」

「その通りだ」

「君達なら絶対に攻略出来ると思うよ。それだけじゃない。冒険者として大成することを僕は確信しているよ」

「確信か。大きく出たな」

「まあね。商人の勘って結構当たるんだよ」

「流石、鋭いな。エリックの言う通り冒険者としての成功は俺にとってもう通過点でしかない。──なにせ俺は魔法を極めるんだからな」

「……ふふふ、ロアは本当に凄い奴だね。遠くからだけど君達のことをずっと応援しているよ」

「ああ、俺もエリックが商売繁盛することを応援してるぜ」


 俺はエリックと握手を交わした。

 そして陸竜に乗って俺とソニアはルンベルクを旅立った。


「……ちょっと寂しいですね」

「ルンベルクで出会った人達は良い人ばかりだったもんな」

「はい。でも、また次の街で色々な人達と出会えますよ!」

「そうだな」


 次に向かう『アルムント』は火山地帯にある街だ。

 冒険者達に聞いた話では、『アルムントのダンジョン』は火属性の魔物が出現するらしい。

 火属性の弱点は水属性だ。

 水属性の魔法を取得するのが今から楽しみだ。

 それに、Cランクの魔物相手なら今まで以上のレベルアップも見込めるだろう。

 でもそのためにはソニアの力が必要だ。


「ソニア、お前と出会えて本当に良かったぜ」

「……へっ!? も、もしかして聞こえてました!?」

「……聞こえてたって何がだ?」

「あっ、い、いえ何でもないですよ。わ、私もロアさんと出会えて本当に良かったです!」

「はは、変なソニアだ。とにかく、これからもよろしくな」

「はいっ。ロアさんが魔法を極めるまで精一杯頑張ります!」

「ヤオッ!」


 陸竜も鳴き声をあげた。


「ふふっ、陸竜もよろしくって言ってるみたいですね」

「ふむ……。これから陸竜って呼ぶのもなんか違うよな。名前でもつけるか?」

「あ、良いですね」

「……ヤオッ、って鳴くしヤオウとかカッコよくて良いんじゃないか?」

「ヤオヤオッ!」

「喜んでるみたいですね」

「おお、お前も気に入ったか! これからよろしくな! ヤオウ!」

「ヤオッ!」


 元気なヤオウの鳴き声が辺りに響いた。


 俺は空を見上げた。

 雲一つない快晴だ。


 つい最近まで底辺冒険者だったことを考えると見違えるぐらいに生活は一変した。

 そして魔法を極めるという目標も出来た。


 これからのことを考えると、今までにない程のワクワク感が心の底から湧き上がってくる……そんな気がした。





『底辺冒険者だけど魔法を極めてみることにした』 第一章 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る