第35話 ケルピー討伐。そして……。

 ダンジョンに入り、順調に下層へと進んでいく。

 魔物に気付かれた場合は、丁寧に処理をする。

 ただ、今回はダンジョンボスを討伐して戻って来るまでの時間が計測されているため、魔石の回収はしない。


 一度に多くの魔物に気付かれないようにすることが大事だ。

 《稲妻雷轟》は範囲攻撃魔法で多くの魔物を相手にする際に便利だが、同時にソニアに直撃する危険性もある。

 使う場面は少し考えなければいけないので、《稲妻雷轟》に頼ってばかりではいられない。

 これが範囲攻撃魔法のデメリットと言えるだろう。


「《投雷》──ソニア、伏せろ!」

「はいっ!」


 ソニアが伏せて、その前方にいた『リザードファイター』に《投雷》が直撃した。


 ビリビリビリビリッ!


『自身のパーティよりも強い敵を倒したため、経験値が加算されました』

『レベルが1上がりました』


 ソニアとの連携力も段々と上がってきたような気がする。

 この調子ならダンジョンの最下層まで行くのに1時間を切れるだろう。

 ジェイク達に圧勝してしまうかもしれないな。


「良いペースで進めていますね」

「ほんとにな。だが、ここで気を抜いてはダメだ。周囲の魔物たちに注意しながら進んでいこう」

「はい」


 気を引き締めなおした俺たちはその後、無事にダンジョンの最下層へ辿り着いた。


 結界の先にはダンジョンボスの『ケルピー』が待ち構えている。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『ケルピー』

 討伐推奨レベル:400

 ランク:C

 《ルンベルクのダンジョンボス》


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ケルピーは蒲の穂をたてがみに使った馬の姿をしている。

 前脚はあるが、後脚は無く、蛇のように長い魚の尾ビレが見られる。


「ソニア、覚悟はいいか?」

「もちろんです」

「あいつの討伐推奨レベルは400で俺たちは200だ。格上に挑むということを忘れるなよ」

「はい!」

「よし、それじゃあ行くぞ!」


 俺たちは二人で結界を超えた。

 そして、戦いが始まる。


「《鉄壁》《自己標的》」


 ソニアは続けざまに二つのスキルを使用した。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 スキルレベル9の《鉄壁》の能力

『防御力が1.9倍に上昇する』


 スキルレベル8の《自己標的》の能力

『自身に敵のターゲットを集中させ、移動速度が1.2倍上昇する』


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 攻撃を出来るだけかわしながら、ソニアはケルピーからのターゲットを集中させている。

 防御力も上昇しているため、ソニアなら十分に攻撃を耐えることが出来る。


 この隙に俺は《紫電一閃》を詠唱する。

 勝負までの二日間で《紫電一閃》を何回か試してみたが、射程が短く中々使いにくい。

 一人で戦う場合は相手の隙が生まれたときでないと2秒間の詠唱をクリアーすることが出来ない。

 だが、俺にはソニアという優秀なタンクがいるので、時間を2秒稼いでもらうことぐらい楽勝だ。


「《紫電一閃》」


 詠唱を開始すると、足元に魔法陣が展開され、ミスリルの剣に紫電が現れ出した。

 段々と紫電は剣を纏うようにビリビリビリッ、と放電現象が連発して起こるようになる。

 ──2秒経過。


「くらえ、これが《紫電一閃》だ!」


 俺は紫電を纏ったミスリルの剣を縦に振り下ろした。

 魔法名の通り、ケルピーに紫の一閃が走った。


 一閃が走ると、ケルピーは途端に静止した。

 そして、静かに倒れて行った。


 バタンッ。



『自身よりも強い敵を倒したため、経験値が加算されました』

『レベルが70上がりました』

『[ルンベルクのダンジョン踏破者]の称号を獲得しました』



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 称号[ルンベルクのダンジョン踏破者]

 ランク:D

 効果:MP+300

 説明:ルンベルクのダンジョンボスを撃破した者が獲得出来る称号。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 よし、討伐完了だ。

 称号のMP+300も結構でかいな。

 レベルをリセットする身としては、[魔法の指輪]と合わせて最初からMP+700を確保出来るのはとてもありがたい。


「ロアさんすごいですねっ! ケルピーも一撃で倒しちゃいましたよ!」

「属性の有利を確実に狙えるのは大きいな。ダメージ量が2倍になって《紫電一閃》だけで24000のダメージを与えられるのはヤバい」

「24000って中々のダメージですよね……私も耐えられる気がしません」

「はははっ、ソニアに当たらないように気を付けないとな」

「うっ、あ、当たれば笑いごとで済みませんからね」

「気を付けるよ」


 さて、ケルピーの魔法石を回収しようか。



 ──そう思ったときだった。




『条件1 パーティメンバー2名以下を達成しました』


『条件2 最下層までの移動時間1時間未満を達成しました』


『条件3 ケルピー討伐時間30秒以内を達成しました』


『条件4 攻撃回数3回未満を達成しました』


『4つの条件の達成を確認しました』


『エクストラボス──海賊ウィリアム・キッドの亡霊が出現します』



 ダンジョン内で流れる異質な神の声に俺とソニアは戸惑いを隠せなかった。


「一体何が起こっているんだ……?」

「ロ、ロアさん……あれを見てください」


 ソニアが指さした方を見ると、ダンジョンの天井から透明な人影がゆっくりと降りて来ていた。

 その人影は海賊帽子を被っており、右手にカトラスを握っていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『海賊ウィリアム・キッドの亡霊』

 討伐推奨レベル:1000

 ランク:B

 《ルンベルクのダンジョンのエクストラボス》


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 討伐推奨レベル1000だと!?

 こいつは危険すぎる!


「ソニア、転移石を使え!」

「は、はい! 分かりました──って、え?」

「な、なんだと……」


 転移石が使えない……!?


「おいおい……マジかよ。……冗談だろ?」

「ロアさん! エクストラボスが来ます!」

「クソ……! 戦うしかないのか……! ソニア、気合入れていけ!」

「はいっ!」


 俺は明らかな緊急事態に冷や汗を垂らした。

 引きつった笑みを浮かべながら──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る