第20話 ルンベルクに到着

 ルンベルクはフォイルよりも大きい建物が並んでいた。

 これが都市か……。


 行き交う人々は多くて、中には首輪を付けた獣人などが見られた。

 奴隷だよな、あれ。

 フォイルでは見たことがなかった。

 何だかとても新鮮な気持ちだ。


「いや~、お二人のおかげで安全な旅が出来たっす!」

「俺達も馬車に乗れて予定よりも早くルンベルクに着くことが出来た。助かったよ」

「そうですよ。またどこかで会えるといいですね」

「期待してるっす! お二人が冒険者としてご立派になられたときは、是非私をご贔屓に!」

「はははっ、商人なだけあってちゃっかりしてるな」

「まぁあんまり商売繁盛してないっすけどね! では、また!」


 馬車から降りて、マーシャと別れた。

 もちろん《アイテムボックス》の中に入れていた装備品は全て返した。


 時刻はもう夕暮れ。

 これからダンジョンに行く気にもならないな。


「とりあえず、今日の宿でも探すか」

「ええ、そうしましょう。……あ、マーシャさんにオススメの宿屋とか聞いておけばよかったですね」

「なるほど、まったくもってその通りだ」

「まぁでもすぐに見つかりますよ。ルンベルクは冒険者を含め、旅人が多いですから。宿屋も多いはずです」

「馬車に乗っていたときもチラホラ見かけたしな。ま、歩くか」

「はい、行きましょう」


 そしてしばらく歩くと、1泊4000ムルの宿屋を見つけた。

 まぁフォイルの時の宿屋よりも高いけど、ここでいいか。

 お金には結構余裕が出てきたし、これからDランクの魔物を倒していくなら、今までよりも収入は増えるだろう。


「ロアさん、部屋ですけど、どうしますか? 節約するということなら相部屋でも私は構いませんけど」

「相部屋かー。ソニアがいると寝れなさそうだしな。早起きとか言ってられなさそうだから、2部屋取るのは必要経費だろう」

「……はい、分かりました」


 ……ふむ。

 しかし、ソニアはもしかすると自分が可愛いことをあまり自覚していないのかもしれないな。

 でなければ、こんな提案はしないはずだ。


 もう少し周りの人間から自分がどう見られているのかを理解させてあげた方がいいだろう。

 ソニアを定期的に可愛いと褒めて、自分の可愛さを理解してもらおう。


「……ハァ、ダメでしたか」


 ソニアが何かボソッと呟いた。

 声が小さくてあまり聞こえなかったが、どことなくガッカリとしたような雰囲気だ。


「ん? なにか言ったか?」

「いえ、なんでもないですよ。宿の部屋を取って、早くご飯でも食べに行きましょう」

「そうだな。昨日からろくなもん食ってないしな」

「あぁ……マーシャさんの料理ですか……。あれは彼女の味覚が少し特殊なんですよ」


 マーシャが料理を振る舞ってくれるというので、ご馳走になったんだが、マジで美味しくなかった。

 マーシャは美味しそうに食べていたが、俺は逆に食欲が失せていった。


「味オンチをオブラートに包めるあたり、ソニアはやっぱり品があるな」

「いえ、そんなことはありませんよ」

「それに可愛いし」

「か、かわ……い、いえっ、別に可愛くはないですよ……」


 さっそく計画を実行してみた。


 ソニアは頬を赤らめて照れている。

 やっぱりこれは可愛い、と言われ慣れていないな。

 つまり、自分のことを可愛いと自覚してないのは間違いない。


 仕方ない、ソニアのために俺も頑張るとしよう。

 これも2歳上の先輩である俺の勤めだ。

 俺はこれからソニアを定期的に褒めてあげようと思った。


「……あの、お客さん。ウチの部屋取るなら早くしてくれない?」


 宿屋の店主が不機嫌そうに言った。


「悪い悪い。二人分の部屋を取らせてもらうよ」

「はいよ。イチャイチャするのも程々にな」


 イチャイチャ?

 してたのか?

 宿屋から出て、冒険者ギルドに向かう途中で俺はソニアに聞いてみた。


「なぁさっきイチャイチャしてたか?」

「さ、さぁ……」

「別にしてないよな」

「そ、そそ、そうですね」

「変な店主だよな。あの人」

「あはは……」


 冒険者ギルドはマーシャの馬車に乗っている最中に見つけていたので、場所は覚えている。

 冒険者ギルドの建物がフォイルより大きくてビックリしたんだよな。

 やっぱり拠点となる場所の規模が大きければ大きいほど、こういった建物も大きくなるのかもしれない。


 冒険者ギルドの中に入ると、フォイルよりも賑わっているのが分かった。

 受付に人は並んでるし、ギルド内の店の数も多いし、冒険者も沢山いる。

 依頼が貼りだされている掲示板も大きいな。


「へ~、フォイル村ってほんとに田舎だったんだな」

「ふふっ、そうでもないですよ」

「そうなの?」

「はい。冒険者ギルドが無いところも沢山点在していますから。フォイル村はまだ栄えている方だと思います。……まぁ私も冒険者ギルドは此処とフォイル村しか知らないのですが……」

「駆け出し冒険者だもんな。知識があるだけで俺は助かってるよ」

「それなら良かったです」


 腹も減ったので、冒険者ギルドでとっとと食事をしよう。

 そう思い、食事のメニューを見て俺は驚いた。


 ──なにっ!?

 食べ物のメニューがフォイル村より豊富だと……!?


 金に余裕はある。

 ここは食べたことのないものを頼もうではないか!


 俺はソーセージ、パン、ポタージュスープ、赤ワインを頼んだ。

 このソーセージというものはジューシーで美味しいな。

 身が皮の中に詰まっていて、なかなか食べ応えがある。

 うまい。


 赤ワインは苦み、というか渋みみたいなものがあって、少し苦手だった。

 俺がいつも飲むエール酒もまぁ言ってしまえば苦いのだが、なんというかのどごしがあって飲みやすい。

 でも酒は飲める方が冒険者って感じがするから、俺は赤ワインが苦手だということを口にするつもりはない。


「ロアさん……もしかして赤ワイン苦手ですか?」

「ん? どうした急に。俺が赤ワインを苦手なわけないだろう?」

「……あの、表情に出てました」

「ちょっと歪んでた?」

「はい」

「そっか、でも美味しいよ」

「ほんとですか?」

「……うん」

「……ふふっ、ロアさんの方が可愛いじゃないですか」

「いやいや、俺は可愛いというよりもカッコいいだろ?」

「んー、頼りがいがあるのに少しだらしないところは可愛いです」

「なるほど、ギャップ萌えだな」

「……使い方あってるんですか? それ」


 分からん。

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