第5話 カーターの陰謀をぶち壊した
翌日、魔法が使えることを証明するために俺はギルドにやってきた。
このギルドには訓練スペースというものが用意されていて、初心者冒険者に戦い方を指南するための設備がある程度揃えられている。
藁を巻いたものに試し切りをしたり、木剣で模擬戦を行ったりも出来る。
俺も冒険者になりたての頃は利用した。
そして俺は今、訓練スペースに立たされている。
前には巻藁が置かれており、これに魔法を撃たなければならない。
「おいおい、ロアがついに盗みを働いたんだって?」
「いやー、いつかはやるだろうと思っていたが、とうとうやったか」
「生活する金も尽きちまったんだろうな」
「「「ハッハッハ」」」
ギャラリーに俺のことを知る冒険者が何人かいた。
俺が無様に魔法を使えずに捕まえられるところを見にきたのだろう。
まぁ魔法は使えるんだけど。
「てめえか! ウチの魔導具屋から魔石を盗んでいった奴は!」
顎髭を生やした強面のおっさんが現れて、俺に怒鳴り散らしてきた。
魔導具屋?
一体何のことだろう。
「へっへっへ……ロア〜? お前ついに僕ん家の店に嫌がらせをしにきたんだなぁ」
強面のおっさんの後ろから現れたのは魔法使いのカーターだ。
「僕ん家……って、お前魔導具屋の息子だったのか」
めちゃくちゃどうでも良い情報を知ってしまった。
「そうだよ! 丁度無くなってたんだよなぁ。ウチの店からEランクの魔石が10個……お前が盗んだんだろ!」
「盗んでねーよ」
「とぼけるんじゃねえ! 昨日、ウチの店からEランクの魔石が10個消えてたんだよ! てめえが取ったんやろがい!」
「はい、間違いありません。この男は冒険者の中でも無能と有名な奴です。無能すぎてパーティも組めないのにEランクの魔石を10個も持ってくるはずがありませんからなぁ。犯人はコイツに違いありません!」
強面のおっさんの横に並んで、俺に色々言ってくるのは昔からギルドで働いている眼鏡を掛けた痩せ型の男だ。
この人、よく嫌味を言ってくるんだよなー。
昨日、カーターに便乗したのもこの人だし。
「だから言ってるだろう? 魔法を使えるようになったんだって」
「魔法? スキルポイントを貰えないお前がどうやって魔法を覚えるって言うんだ? 面白い冗談だなぁ! ハッハッハッハ!」
カーターは高らかに笑った後に、
「魔法っていうのはなぁ、こういうのを言うんだよ! ──《風弾》」
と、魔法を詠唱した。
カーターの足元に魔法陣が展開される。
そして、巻藁に風の塊が放たれた。
ポンッ!
風の塊が巻藁に当たると、衝撃で藁が周囲に飛び散った。
「ハッハッハ! 見せつけてやんなよ! カーター!」
「ロアがかわいそうじゃねーかよ……ぷっ、はははは!」
「へっ、コイツはウチの店から窃盗を働いた奴だからな。惨めな目に合ってもらわねーと俺の気が済まねえよ」
「「「ハッハッハッハ!!!」」」
楽しそうに笑ってるのは、まぁ慣れてるので何とも思わんが……一つ気になったことがあった。
──《風弾》って消費レベル5の魔法だよな?
え、それを俺の前に見せつけて威張ってるの?
マジで?
「ぷっ」
つい笑ってしまった。
「おい何笑ってんだよ」
そう言って、カーターは俺に近付いてくる。
「ーー」
俺はカーターに聞こえないように小声で
「どうせあの魔石は【アイテム作成】で作成したんだろう? 残念だったな。見栄を張ったのかもしれないが、逆に利用させてもらったぞ。魔石は僕がこっそり10個、隠しておいたのさ。お前を捕まえて得た金はあのギルド職員と俺とで山分けにさせてもらうぜ〜」
と、カーターは耳打ちをしてきた。
……あー、なるほど。
コイツらグルだったわけか。
本当は魔石なんて盗まれていないんだろうな。
盗まれたことにして、俺から金を騙し取ろうって訳か。
うわぁ、性格悪いな〜。
しかし、コイツは俺が魔石を【アイテム作成】で作成したと思って、こんなことをしたのか。
バカだなぁー。
今更、魔法を覚えたとか言って見栄を張るかよ。
しかもすぐにバレる嘘だしな。
「俺がちゃんと魔法を覚えてる時のこととか考えてないのか?」
カーターに俺は問う。
「なーに言ってんだよ。お前が魔法を使える訳ねーだろがよぉ!」
「なるほど、分かったよ」
そしてしばらくして、ギルドマスターと一人の衛兵がやってきた。
「ロアの窃盗容疑を晴らすためにこれから魔法の詠唱を行ってもらう。フォイルの冒険者ギルドのギルドマスターである俺が責任を持って証人となろう。ロア、これから詠唱する魔法はなんだ?」
「《火槍》だ」
「ほう《火槍》はDランク冒険者相当の魔法だな。Fランクのお前が本当に使えるのか? 撤回するなら今のうちだ。自白すれば罪は軽くなるぞ」
「なに、今から見せるさ」
「じゃあ見せてもらおう」
俺の堂々とした態度にカーターは動揺しているようだ。
「なぁ、カーター。謝るなら今のうちだぜ。自白すれば罪は軽くなるらしいからな」
「ハッハッハ! そういう手には乗らんさ……。早く見せてごらんよォ!」
「分かった」
今ここで謝ってくれれば俺は許したのにな。
「《火槍》」
詠唱し、魔法陣が展開されると、冒険者たちは「おお……」と声をもらした。
詠唱時間の4秒が過ぎ、《火槍》が巻藁に向かって発射された。
巻藁は《火槍》に貫かれ、炎上し、黒焦げになった。
「な、な……っ! そんな馬鹿な……! お前……本当に魔法を使えるのか! ……し、しかも、ぼ、僕より強力な魔法だと……!?」
カーターは急にガクガクと震え出した。
その額からは冷や汗が垂れていた。
「ああ、何度も言っただろうに」
「……本当に使えるようだな。ではこの窃盗も証拠不十分になるな」
ギルドマスターは言った。
「いや、窃盗じゃないと完璧に証明できる。なぜならこれは、そのギルド職員とカーターによって仕組まれてたからだ」
「な、なにを言い出す! でたらめだ!」
「わ、私は何もやっていません!」
冒険者たちの間でも、ざわざわ、と波紋が広がっていく。
「俺は言ったからな。自白すれば罪は軽くなるってな──《再生》」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《再生》
消費MP:1×秒数
効果:《録音》の音声を流すことが出来る。
属性:無
詠唱時間:0秒
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生活魔法の《再生》を使うと、
『どうせあの魔石は【アイテム作成】で作成したんだろう? 残念だったな。見栄を張ったのかもしれないが、逆に利用させてもらったぞ。魔石は僕がこっそり10個、隠しておいたのさ。お前を捕まえて得た金はあのギルド職員と俺とで山分けにさせてもらうぜ〜』
カーターが耳打ちした声が聞こえてきた。
そう、俺はカーターが近づいてきたときに小声で生活魔法の《録音》を詠唱していたのだ。
わざわざ近付いてくるってことは、何か重大なことを言うんじゃないかと思ったんだ。
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《録音》
消費MP:1×秒数
効果:聞いた音を記録することが出来る
属性:無
詠唱時間:0秒
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《生活魔法》を取得しておいて良かったな、本当に。
おかげで痒い所に手が届いてくれた。
「ば、ばかな! こ、これは何かの間違いだ!」
「おいおい、さっきお前が俺に耳打ちしてきた言葉だぜ。その様子をお前らも見てたよな?」
見学していた冒険者たちに振ると、みんなウンウンと、首を縦に振った。
「おいテメェふざけんじゃねえ! どうしてくれんだ! そんなこと言わなかったらバレなかったじゃねーかよ!」
眼鏡のギルド職員はカーターを怒鳴りつけた。
「お、俺に文句を言うな!」
「カーター……お前なにやってくれてんだ!」
「と、父さん!? ち、違う! 俺はやっていない!」
「うるせぇ!」
強面のおっさん(カーター父)は、カーターの顔面をぶん殴った。
「ぶへっ!」
カーターは殴られて、地面に倒れた。
「なるほど、確かにこれは完璧な証明だな。つまりロアは潔白だった訳だ。……そして、問題があったのはウチの職員と冒険者だったみたいだな」
ギルドマスターが眼鏡のギルド職員とカーターを睨みつけた。
「ひ、ひぃっ! ギ、ギルドマスター! ゆ、許してくださいぃ!」
「黙れ。こっちに来い」
ギルドマスターは眼鏡のギルド職員の肩を掴んで、どこかへ連れて行く。
「お前もだ」
「お、俺は何もしてねえ!」
「窃盗の罪を被せようとしただろうが!」
「ち、違う! なにかの間違いだ! ロアが仕組んだ罠だああァァ!」
「往生際が悪いぞ、黙れ!」
「ごふっ」
衛兵はカーターの腹を殴った。
そしてギルドマスターを追うようにカーターを連れて行った。
「あ、あんた……ウチのせがれがすまねぇ……俺もつい怒鳴っちまったな……」
強面のおっさん(カーター父)が申し訳なさそうに謝ってきた。
「そうやって謝ってくれれば許したんだけどな」
「本当にすまねぇな……」
「あんたは気にしなくて良いぜ。カーターは今頃すげえ反省してるだろうからな」
「わりいな……恩に着る」
そう言って、強面のおっさん(カーター父)は訓練スペースから去って行った。
「ま、色々あったけど、これで疑いはすっかり晴れたみたいだな」
……ん?
見学していた冒険者達が驚いた表情でこちらを見ている。
……めんどくさいから放っておこう。
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