スポットライト
真っ暗な舞台の上でがむしゃらに動いた。
観客の顔はおろか、自分の衣装すらわからない漆黒。
身に纏ったのはきらびやかなドレスか、ピエロのユニフォームか。
踊りとも演技ともつかない稚拙な動きで、精一杯もがくしかなかった。
せめて演目だけでも教えてくれたら、そう思えど劇場支配人が姿を見せたことはない。
残りの尺はどれだけあるのだろう。照明はまだつかない。
照らされない舞台、転んでぶつけてあちこち痛む体。
気持ちがはやる。まだ踊れるか、もう演じてはいられないか。
なにもかも暗闇に包まれた舞台の上。幕が閉じるまでに私ができることは。
長い時間をかけてわかった、たった一つの事実。
そうか、スポットライトが灯ることはないんだ。
それに気づいたとき、かすかな道が私には見えた。
それが私の光、私がなすべき演目のこたえ。
私だけの光に向かって私は這い上がる。もがき続けた体は不思議な力で私を引き上げる。
舞台の上の無骨な照明器具。力の限りスイッチを入れろ。
色とりどりのスポットライトが舞台を照らす。
喜びと期待に満ちた観客たち。
袖から出てきた演者はまっすぐに舞台中央へ。
輝いたあの娘が光をあおいで笑顔を向ける。
スポットライトの裏側で、薄い灯りに焼かれた私。
どんな顔をしているか、いまならわかってもらえるかな。
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