番外 ニューリバー

 唐突だが、間借りカレー屋をご存知だろうか?俺もその存在を知ったのは恰幅のいい男氏の運営するブログ(インターネットのサイトの形態の一つ)だった。

 間借りカレー屋。バーやスナックといった夜職の店の、昼間の時間を借りて営業する形態のカレー屋である。夜の店主とは別人が店主してるケースがほとんどで、カレーは本格スパイス派というこだわりの店がやはり多い。

 間借り飲食店という営業形態はわりとはやっているようで、たとえば丿貫へちかんというラーメン屋は店舗営業より前に、福富町のスナックに間借り営業をして顧客と軍資金をためたらしいと聞いている。ちょっとした起業ブームでもあるようなのだ。

 と、非常に興味をそそられる。俺は酒が飲めなくなってからバーやスナックへ行くことがまずないという点と、本格スパイス派カレーというのを味わってみたいという点があったのだ。

 そのブログにて紹介記事を読んでから数か月が過ぎていた。たまたま近所に福祉施設があったのでそこへよるついでに、間借りカレー屋……ニューリバーへ行くことになったのだ。ものすごく緊張する。

 南区新川町にあるからニューリバー、新川の英語読みという安直な名前、ダジャレだ!

 夜はOiRA(おいら)というバーで、看板に紙でニューリバーと書いてある。ハイネケンの比較的キレイで真新しい立体看板にチープな紙の看板の組み合わせは単純に目立つ。

 建物自体は三階ほどのビルで、店は階段をのぼった二階。微妙に狭い通路を数メートル進むとドンつきに狭いバー……じゃなかった間借りカレー屋があった。

 階段をのぼっている最中から、クミンとコリアンダーとターメリックの混ざったカレーのにおいが漂ってくる。よだれがわき、腹がぐうとなく。

「いらっしゃいませ」

 店主は中年男性。狭いカウンターの向こうに身体を押し込んでいるが中肉中背。柔和で温厚そうな顔。まじまじと観察した訳ではないがぱっと見るとこんな感じ。

 カウンターの奥にメニューが貼られていた。朝に写真ブログで公開してたやつだ。

●チキンカレー

●魚のカレー

 あいがけ三〇〇円

 横には別の紙でライスの量と料金が書かれていた。ライス二〇〇グラムでプラス二〇〇円はどういう事だろう?

 あとで分かったがこのお米はバスティマスライス(外国産長粒米)を輸入したもので、関税のためにえらく材料費が高いためだった。それでも二〇〇円は安い方だけど……。

 店内はまあ狭い。四人から五人でいっぱいになるだろう。ブルースのレコードジャケットと近藤房之助のポスターが目立つ。酒はなんだろう?ジャックダニエルくらいしかわからない。

 狭く小ぎれいな店内にはカレーの匂い。BGMはない。高椅子の一つに腰かけてどうしたものかと少し考える。

「お客さんはインドカレー、食べなれてますか」

 と店主。質問の意図がよくわからないのだけど、ネパール人経営のインドカレー屋は行きなれているから「はい」とうなづき答える。

「チキンカレー、ご飯二〇〇グラムで」

 あいがけは次回以降にしよう、ご飯は大盛りで。ワンプレートに、ご飯と各種おかずとカレーがのっているのは、記事を読んで予習しているし……などと考えていた。

 注文からしばらくたって料理が出てきた。予想以上に美味しそう。スマホで何枚か撮影してみる。

「いただきます」

 おいしいカレーとおかず各種に舌鼓をうった。根菜の和え物、ニンジンのサラダのようなもの、小松菜、サツマイモのカレー炒め、ヨーグルトと何かをあえたもの。

 そしてチキンカレーとフルーツのカレー煮、銀のプレートの中央には長粒米がどーん。

 ああなるほど、ジャポニカ米じゃなくバスティマス米(外国米の一つで、長粒米ともいう)だから関税の関係で原価が高いのか。だから二〇〇グラム二〇〇円も金をとられるのか!と納得した。

 この手のプレートに日本でいう、おばんざいがのったのをミールスという。この形式でのランチは珍しい。そこらのインドカレー屋ではみない。

 なぜならネパール人経営だから南インド料理ではない、という理由もあるが、原価だろうなあとサツマイモの和え物をフォークでつつきながら思ったのであった。うまい。

 あっという間に夢中で食べ終えてしまった。

 会計は一〇〇〇円丁度。おいしゅうございました。

 会計時に「ブログ記事みてきました、美味しかったです」と言ったが特段反応があったわけでもなく、もっとこだわりのポイントや間借りについてなど、聞いてみたい事がたくさんあったはずなのだが、営業の邪魔になるかも知れないと気後れしてしまった、残念。

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