第3話 奏
既に一時間近く経過していたカラオケ店は
なんとなくだが
狙いの定まったカップルが数組と
合コン慣れした何人かの集まりが騒がしくしていた
そんな中
いつになく真剣な直輝は彼女を狙っているようで
ピッタリとマークして離れない
俺は遅れてきた手前
なかなか誰とも話せず
彼女と直輝の会話を聞いていた
「奏ちゃんってスイーツ好き❓️
今度、パンケーキ食べに行こうよ」直輝
"奏っていう名前なんだ…"
彼女は小さくうなずく
まだ、声を聞いていない
直輝はその後も
一方的にやけに明るく話しかけるけど
彼女は不機嫌な顔はしてはいないけど
掴めない表情でうなずくだけ
だけど
直輝はめげない
どうやらかなりマジらしい
俺も彼女が気になる
気になって彼女しか見ていない
だけど話せない…
そんな俺の表情を読み取った幸助がふざけた振りをして直輝の肩を組み
半ば強引に少し離れた場所の明るく弾けるような笑い声の輪の中に連れていった
去り際
幸助は俺にあからさまなアイコンタクト
クスッと笑ってしまう
でも助かった
今度、誉めてやろうと思った
残った俺と彼女は直輝を見送ってお互いの顔を見てナゼか微笑む
始めてみた
彼女の笑顔
「はじめまして…じゃないんだけど…」愁(しゅう)
彼女はまた
さらに笑って
「そうよね
そうだと思った」奏
彼女は静かに
本当に静かに笑っている
それは綺麗なものを見ているようで
俺は顔中の筋肉がゆるゆるになっていくのを感じた
俺はなんだか心底安心した
覚えてもらえていた
と言うより
見ていたのは俺の方ばかりではなかった
俺たちは
二人で共有していたあのときの話
そして
今日までの話をした
彼女は音楽が大好きで
友達とバンド活動をしていること
俺はプロサッカー選手になる夢があること
で、お互い公園で練習していたこと
あの時
真面目にひた向きにがんばる
彼女を
俺を
見ていたこと
上手くなりたいと
彼女も
俺も
あがいていたこと
最近、あの公園に現れなかった理由は…彼氏ができて
バンド活動どころか
音楽も自由にできていなかったこと
大好きな音楽をしないことを選ぶほど
彼のことを好きになってしまったこと
来なくなった彼女を
ずっと思っていたこと
″いつか会えたら″と思っていったこと
そして
ここへ今日来た理由は
その彼氏から振られてしまって
落ち込んで
立ち直れないでいるのを見かねた友達から
心配されて強引に連れてこられたこと
彼女は俺に
俺は彼女に
たくさん話しをした
普段はこういう場所で乗り気になれない俺と
一見、大人しそうで無口な彼女の
通常ではない空気感に
そこにいた誰もが遠目で珍しそうに
そして嬉しそうに見守っていた
そこには誰も入って来なかった
さっきまで
本気で狙いを定めていた直輝は一人
面白くない顔で居たけど…
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