第19話 自ら逃した人
栞が部屋へ来るようになって半年が過ぎた
以前に思っていたような
”また急に来なくなってしまうんではないか?”
なんて言う不安は今はない
私たちは長い間、お互いに抱いていた不安や不満を少しずつ埋めていくように
手を伸ばせばすぐに届く距離で恋をしていた
早川からはやはりメールが来る
それは
私がしっかり断らないから・・・
もちろん栞には言えなかった
仕事上での関係にまで影響したくなくて
のらりくらりといい加減な内容のメールをしいた
しかし、食事などの誘いは丁重に断っていた
不思議なことに
あんなに勘の良い早川だから
みなまで言わなくても分かりそうなものだけど
全くもって変わらない態度
分かりやすい断り文句を言われているようなものなのに
それについて
気がつかないふりなのか❓️
怒るわけでも勘繰るわけでもない
”そっか
また誘います”
私は申し訳なさに苦しくて
その短い文を読むことも煩わしいものになっていた
最近では早川が彼の後輩の吉本君と一緒に店に姿を現す
新しい人事で
この店が早川の担当になったらしい
私は接客中だったりするから
彼が視界には入るが話すことはほとんどない
あくまでも彼は私に会いに来ているわけではなく
本社からの伝達や品出し
ポップの展示やレイアウト作業
店内の棚卸の応援に来ている
仕事をしているだけだ
今までの営業担当者はここへあまり来ることはなかった
お店の状況によるし
担当営業の働き方にもよるけど
この状況は珍しいので
みんな素直に喜んだ
彼らがチョイチョイ来るものだから男っ気のないこの場所になんだか色が出ている
早川は
仕事ができて
部下からの信頼があり
誰にでも優しく
誰にでも気が利く
誰にでも笑顔の彼がいるとシングルの女性スタッフたちは彼氏の有無関係なしに
いつもより笑顔で声のトーンだって上がった
普段は雑用なんて嫌いな子たちも
彼にまとわりつくように作業をしている
私は真逆で
バツの悪さから彼の近くでの作業は避け接客を中心に
事務処理などをしていた
彼はやはり大人だから
なにも気にせず
他の子達同様に話しかけてくれるけど
私は愛想笑い程度で
あまり彼らに関わる気にはなれなかった
彼らが棚卸作業で連続してこの店に来た最後の日のこと
一年後輩の恭子が私にすり寄ってくる
「悠さん、今日は早帰りでしょ?
早川さんがみんなを飲みに連れて行ってくれるって
棚卸の打ち上げだって!!
聞きました?
私、遅なんですよ・・・困っちゃって
もしよかったら変わってもらえませんか❓️」恭子
私に上目遣いでお願いをする彼女は
後輩なのにいつも強引
”悠さんだって行きたいかも?”
だなんて気遣い全くしない
よく言えば天真爛漫
悪くとれば自己中心的な子!!
いつもなら彼女の満面な笑顔に嫌気もさすのだけど
今日は特別
「行ってらっしゃい」悠
そう言って彼女の願いを受け入れた
彼女は羽が生えたように喜んで飛んで行った
分かりやすい子
私と主婦パートの宮田先輩以外は早々仕事を切り上げてみんな行ってしまった
少し寂しくも感じる店内で通常通りの作業をしていた
「愁ちゃんは良かったの?」宮田先輩
いつも優しい先輩は
私を気遣う
「はい」悠
閉店作業をしながら私はホッとする反面
勝手なもので
自ら逃した早川への何とも知れない気持ちがこみ上げていた
今頃、ハーレム状態だろうな・・・
男性二人にたいして
女性四人
吉本さんも可愛い顔してるけど
まだまだ頼りないし
きっとみんな早川さんを狙っているんだろうな
彼がここへ来るたびに
同僚たちのキラキラした彼を見る眼差しはすごいもので
いつも早川争奪戦になっていて
”手がきれいでセクシーだよね”
”声が良い”
”笑顔にやられる”
とみんな普段から彼の魅力を言い合って楽しそうにしていた
みんな彼の魅力に引き込まれていたから
今頃は彼のまわりでは彼をどうにかものにしようと
女同士の戦いが行われていて・・・
特に恭子はそういうのが上手そうだから
先輩たちなの事なんてまったく気にしなくて
遠慮なしで
同姓が嫌がるほどの可愛さを全力で武器にして
だけど、男の人はそういうのが好きだから
彼女はまんまと手に入れて
明日、ここでは彼女に対する嫉妬と愚痴を皆がいいあって
彼女は遅出だから
なぜか余裕な満たされた顔で出勤してきて
”恭子が早川さんをものにした”
と皆は嫌悪感いっぱいで噂をするだろうし
私もそう思うだろう
だけど、彼女は全く気にも止めない
だって
勝ったのだから‼️
私も悔しいのかな?
私も嫉妬するのかな?
そんなの身勝手なことは十分にわかっているけど
やはり目前で持っていかれるのはいい気分はしない
自分のものでもないのに
変な感情
やはり私は心の中でブツブツと自分と会話をしながら
今の感情と向き合っていた
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