95 謝罪
残暑がいくらか
現場は、
無事に予定範囲の探査を終え、見つかったオルダ一個を爆破処理した。
片付けを済ませ、道具を車に積み終えたそのとき。
「ちょっと寄り道していいか？」
「あ、はい」
買い物でもあるのかと思いきや、車は来た道を下る代わりに、さらに上へと登り始めた。行き先の予想はつかずとも、その時点で新藤の意図は十分に察せられた。そもそも今日の探査の時間と場所を決めたのは新藤だ。探査の方がついでであり、口実だったのだろう。
まもなく日が暮れようとしており、新藤はヘッドライトを
エンジン音とラジオが車内を満たす。夕方のニュース。交通情報に天気予報。それらがいつも通りのようでありながらそうでなく感じられるのは、一緒に仕事に出たのが久しぶりだからだろうか。それとも……。
会話のない時間がいつになく苦しくて、一希は窓の外に意識を向けた。周囲の景色はみるみる薄暗くなる。
車が停まったのは、車道の脇に設けられた未舗装の駐車スペース。ここからハイキングコースに合流できるようになっている。
新藤に
開けたなだらかな斜面の隅に、古びた木のテーブルとベンチ。ハイキング客用の休憩地点になっているらしい。その向こうには街の灯が見下ろせた。ぼんやりとそれを眺めながら、一希の意識は隣に
「冴島」
「はい」
つい肩に力が入る。が、放たれた言葉は予想を裏切った。
「お前に一つ
「えっ？」
「あの事故のことでな」
一希はますます困惑する。
「謝られるようなことは何も……」
「俺も事故対応に加わったが……みんな亡くなった忠晴君の方にばかり気を取られててな」
「もちろんです。いろいろとありがとうございました。私たち何もできなかったので」
厳密に言えば、何もさせてもらえなかった。お悔やみを述べることも、霊前に参ることも、花を
「そのせいでお前に対する補償や配慮が遅れた。今さらだが……すまなかった」
「やめてください、そんな」
謝罪を受ける
――まるでお別れみたいじゃない。
なぜ今、謝罪なのか。一希は考えたくなかった。
「忠晴君の親御さんが怒り狂うのはもっともだ。その一方、お前とご両親は暴れも叫びもしなかった。だからって忘れていいわけじゃない」
一希は怪我だけで済み、奇跡的に障害も残らなかった。恵まれた方の立場にいて、何を訴える必要性も感じなかっただけだ。
「お前がひどい中傷を受けてたことも、一ヶ月以上経ってから知った。叔父さんたちの方に気を
「それは、私自身も言えずにいたことですから」
忠晴が爆弾を触ったこと。そのせいで爆発が起きたこと。公表されていれば、一希に対する風当たりもいくらかましだったかもしれない。しかし一希は、それが明かされるべきだったと思ったことはない。
「お前の怪我のことだって、突然救急車のサイレンが鳴り出して、そういえばもう一人いたんだと……あの子も重傷を負っているはずだとようやく思い出す始末でな」
――救急車？
生涯忘れることのない、あの日の空気を肌が感じ取る。
「先生……いらしたんですね。あの日、あそこに」
「ああ」
「あの壁の上に」
今度は新藤が驚く番だ。
「見てたのか？」
「ほんのちらっとですけど」
「そういや、大怪我をしておきながらサラナも見つけたんだったな。大したもんだ」
あのときは、頭の中が妙にギラついて興奮状態にあったせいかもしれない。
「当時は中級、でしたっけ？」
「ああ」
「すごいですね。いきなりあんな現場に……」
「補助に行ったわけじゃない」
「あ、じゃあ……」
「俺は遺体を見に行ったんだ」
――遺体を……。
ブルーシートの鮮やかな青が脳裏によみがえる。
確かに新藤は見ていた。あのブルーシートの向こう側を。
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