53 実践
防爆衣を着けるところまでは練習と同じ。しかし、今度こそ本物の爆弾に触れることになる。
安全化済みの子爆弾を相手に
半径二メートルを粉々に破壊し、破片の
あの事故のときに一希がいた位置は、爆弾から三メートル以上離れていたと推測されている。それでもあれだけの破片が体に刺さり、忠晴の血が飛んできたのだ。
――だめだめ、物理と科学に集中!
一見おもちゃのような紫色の円筒と、一希はいつまでもにらみ合っていた。
「どうすんだ? 俺がやっちまってもいいのか?」
「いえ」
処理士を目指すと言いながら、最初の一歩で
「やります」
「よし、いつでもいいぞ」
そう言うなり、新藤はヘルメットを被ってしまった。一希は覚悟を決め、ヘルメットを着けた。
精神を統一し、手袋をはめた手でレンチを取り上げる。いつもの手順に従い、円筒型のストロッカの端にある金属の
信管を留めているネジを回すべくドライバーに持ち替えようとしたとき。
――あっ……!
どこへ行ったのかと見れば、ドライバーは床に落ちていた。防音ヘルメット越しだから音はほとんど聞こえていない。
もし爆弾の方を落としていたら、と考えると、冷や汗が一希の背中をつたい落ちた。視界の端にはじっと
すでに解体しかけているストロッカを作業台に置いて手を離すのは危険だ。床に落ちたドライバーをかがんで拾うことは
――そっか。こういうときのためにも予備は必要なんだ。
何とか気を取り直して信管を外す。用意しておいた保存容器に爆薬を移し、蓋を閉める。最後に指差し確認をし、安全化を終えた。
急に力が抜け、一希はへなへなとその場に座り込む思いだった。もっとも、防爆衣の厚みゆえ
練習と本番の差を痛感する。ヘルメットを外し、何度か深呼吸した。
「すみません。こんなことでいちいち
「いや、むしろ怖さを忘れたら終わりだ」
一希は驚いて新藤を見やる。
「恐怖をまったく感じないなら、それは死ぬはずがないと高を
――あ……。
「動機の弱い人間はある時点から必ず成長しなくなる。どんな使命感も正義感も、死を恐れる感情ほど強くはない」
「そう、ですね」
「つまり、死ねない理由がある人間は強いってことだ」
――死ねない理由……?
前に新藤とそんな話をしたことがあるような気がする。
「さて、腹減ったな。続きは後にするか」
「はい」
一希が防爆衣を
「たまには外で食うか?」
「あ、はい」
それはありがたい。さすがに今日は料理をする気力も残っていなかった。新藤は、珍しくどこか得意気な表情を見せた。
「とびっきりうまいコロッケを食わしてやる」
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