43 母親
軽トラの助手席で、一希は甘酸っぱいようなくすぐったさを押し隠していた。
時間が合うときには新藤が荷物持ちを申し出てくれるため、こうして何度か米や野菜、洗剤などの買い置きを積ませてもらっているが、そのたびに内心照れてしまう。
今日は食材の買い出しが終わった後、駅前で
新藤がつかつかと入っていくと、奥から聞き覚えのあるしゃがれ声が上がった。
「なーんじゃ、爆弾
一希は作業服のままの新藤をちらりと見上げたが、新藤は恐縮するでもなく言い返す。
「何言ってんだ、自分の方がよっぽどタバコ臭いくせに」
「ちーとも顔出さんから死んだかと思ったわい」
「どっちのセリフだ。こっちは現役バリバリで忙しいんだからしょうがないだろ」
「何じゃその態度は。一人で大きくなりましたー、ってか? ったく、だーれがおしめ
一希がその言葉に驚いて新藤を盗み見ると、思い切り苦い顔をしている。
「大昔に
菊乃はひるむどころか、ますます調子に乗ってはやし立てた。
「だーれがお前なんかの世話になるかい。あーおいケツさらして縁側
「勘弁してくれ。意地の悪い年寄りほどかわいくないもんはないぞ」
一希はようやく真相を悟った。「おっぱいしゃぶらした仲」は本当だったのだ。
「なるほど、そういうことだったんですね」
「こいつにゃあ母親がおらんかったもんで、もらい乳ってやつだわね」
「なんだ、聞いてなかったのか?」
「あ、まあ、私の察しが悪かったというか……」
菊乃は喉の奥でくっくっと笑う。
「そんで、うちの子らも父親早くに亡くしたもんで、なんちゅうか、その先もずーっと二家族で一つみたいなもんじゃったのう。のう、
と、杖の先で脇腹をつつかれた新藤が身をよじって逃れる。
新藤がそんな環境で育ったとは、一希には初耳だ。母親が早くに亡くなったというのが、そんなに早くだとは思っていなかった。この人がお母さん代わりだったなら口が達者になるのは自然の摂理だろう。
菊乃は、おねしょだの赤点だの、新藤の過去の汚点をさんざん暴露し、やがてそれにも飽きたのか今度は実の息子についての愚痴をこぼし始めた。新藤は一通り聞いてやりながらもその息子をかばう。
「まあ、あいつにもそれなりに考えがあるんだろうさ。最終的には収まるとこに収まるだろ。それより、整体はちゃんと行ってんのか?」
「天気が良きゃあね」
「そんなこと言ってたら当分ほったらかしになるだろうが。ケチしないでタクシー乗ってでも
菊乃は子供みたいに唇を
「
「老いた
「
新藤が
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