おまけガーデン。

さんまぐ

アートの女神イロドリ。

24歳の女神と6歳の女神。

第1話 いいよぉ。私の分野なんだから仕方ないって。

「帰ります。お疲れ様でした」

「お疲れ様千歳。今日は残業させて悪かったね」


私の目の前でそう言って謝るのはガーデンの神、東京太郎さん。

私の上司、もう10年の付き合いになる。


「えぇ、別に残業っていってもサードで3時間だけだしこっちなら1時間だよ?」

「それでもさ、ごめんね」

東さんが優しい笑顔で謝ってくれる。


「いいよぉ。私の分野なんだから仕方ないって」

そう言って私は笑う。


今回、サードで出た問題は料理の話でケィの伝統料理は冒険者に不人気で何故かを見て欲しいとお願いされた。

今日は金曜日だったのでこれを逃すと月曜日まで正式に行かない事になるので残業をした。

まあ週末はガーデンにいる事が殆どなのだがメンテナンス作業として日本人伊加利千歳としてサードに入るのは月曜から金曜日までなので今日行くしかないのだ。


「常継は先に帰ったよ。千歳はどうやって帰るんだい?」

「定期代貰っているから電車で帰るよ。わざわざ瞬間移動なんてしないよ〜」

お父さんといい東さんといい何故か私が不精をして瞬間移動で帰ると思われている。


「千歳は偉いね。

じゃあ僕もジョマがファーストから戻ったら帰るよ」


「うん。じゃあまた来週」

「ああ、今週もお疲れ様」


会社の外に出るとムワッとした湿気が顔にまとわりつく。

梅雨特有の湿気と寒暖差が気怠いけどファーストからサードまでのガーデンから帰った実感になるのでありがたい。

濡れた路面が昼間雨だった事を教えてくれる。

もうサードのトラブルから6年になる。

この6年も散々アレコレあったがそれは今後機会が有れば話そうと思う。


私はいまだにビリンさんと付き合っている。

特に離れる理由もないし今も好意はちゃんとある。

だが6年も経っているので結婚するなり考える必要がある。


…のだけど

どうにも日本を離れてガーデンに嫁入りするのもビリンさんに日本に来てもらうのもなんか違う気がしている。


まあビリンさんはそこら辺を理解してくれているので「今のままでいいんじゃね?大丈夫だって国はまだ父さんも現役だし兄さんが2人も居るんだからさ」と言ってくれた。


そんな事を考えながら帰宅をする。

考えてしまうのは明日が週末でビリンさんとずっといられる日だからだ。

会う度に早く考えなきゃと思ってしまうし見破られて「チトセ、また考えたろ?俺達はこのままで平気だって」と笑われる。


「ただいま」

そう言って玄関を潜るとお父さんの「ほら、やっと帰って来たぜ?」と言う声がする。


なんだ?と思っていると「千歳〜!」と言う声が聞こえて来た。


「へ?アート!?あんたどうしたの?」

私はリビングに走るとアートが私の横の席に座ってオレンジジュースを美味しそうに飲んでいる。


「千歳、お帰り〜。お仕事お疲れ様〜」

アートがコップを置くと手を振ってくる。


「さっき急に来たのよ」

お母さんが笑いながら言う。


「京子はうちの前で三角座りして千歳を待ってたんだぜ?まるで鍵っ子が鍵をなくしたみたいだったんだ。俺たちが悪いみたいだった」

お父さんがヤレヤレと言った顔で「京子、普通に家に入って来て千明と待ってて良いんだぜ?」と言う。


「うん。ごめんなさい」

アートはしょんぼりと謝る。


「怒ってないよ。んで?どうした?今度は猫でも拾ったか?」

「…」

アートは暗そうな顔で下を向いて黙る。


「ダメか、千歳が帰って来たから聞いてみたがだんまりか…」

お父さんが困った顔でやれやれと言う。


「アート、私着替えてくるから待っててね」

「うん」


私が部屋に行くとお母さんがついてくる。

「東さんと道子さんには連絡済み。なんかあるみたいだから千歳に頼めないかって…」

「うん。そのつもりだよ。夕飯どうしよっか?」

もうこの状況はなれている。

アートも東さんとジョマに詰め寄られても話す気にはならないだろうからここは私の出番だ。


「私たちがいない方が良いだろうって常継さんが言うから」

「おっけー。じゃあお母さん達は出かけて来なよ」

私は着替えながら東さんに連絡をする。


「アートは私とご飯にするから東さんとジョマはお父さん達とご飯に行っておいでよ」

「すまないね。今度は何があったのかな?」

東さんが呆れながら困った声で言う。

きっと家に居る所を見るとジョマとさっさと瞬間移動をしたのだろう。

そして私との約束を守ってキチンと神の力でアートを見ようとしないでいる事は嬉しい。


「東さんとジョマも偉いよね。私との約束を守って神の力を使わないで育児してくれてるよね」

「それが良いって千歳が言ってくれたから守っているよ」


そう。

私は少し大きくなったアートが東さん達の目を盗んで悪戯をした時に神の力でそれを調べずにキチンとアートに聞いたりするように言った。


東さん達は地球で生きる以上は必要な事と理解を示してくれた。

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