機械と人間

その、切替歯車は

常に噛み合っていて

歯車軸との間を、鍵状の楔で

止めたり、離したり。


歯車軸が中空のパイプになっていて、

そこにスリットが切ってある。


隣り合った歯車を、パイプの真ん中から

棒についた楔で、軸方向にスライドさせて

歯車と軸を、固定したり離したり。



それで、ギアを変える仕組みは


犬が噛むようなので、ドッグ・クラッチと呼ばれていたりする。



その棒を、シフトセレクターと呼ぶが



このモペッドでは、それが


さっきの落とし蓋につながっている。



落とし蓋が、軸方向にズレると


シフトセレクターを押し、歯車を変えるのだ。



機械的な仕掛けに、犬、と言う言葉が

ついていると


その動作が犬の動きを思わせて


犬好きなら楽しいかもしれない。





そんな、精緻なメカニズムを

考えた人々は、すごいと思ったりもする。




もちろん、ふだん

モペッドに乗る時、そんなことを

思う必要もない(笑)。



でも、めぐはプログラムも作れるから

その、仕組みにちょっと、興味を

持ったりもした。




女の子だけど、べつに機械に

興味を持ってもいい、と思うし


魔法も、ルーフィのものは

18世紀の科学、だったりするから

構造を覚える事で、魔法を使いこなせるようになるのも

早い、かもしれない(笑)。



そんなふうに、ルーフィも思った。






モペッドは、ゆっくりと

町に近づいて。


松林のカーブを抜けると、夕暮れが近づいたのか



町明かりが点る。



「ライトつけようか?」と、ルーフィ。



はい、と、めぐは


キー・シリンダを回した。



教わっていないのに。



「よくわかったね」と、ルーフィは驚く。


勘のいい子だ。




あいらしいヘッドライト、まるいそれは

スピードメーターのボディも兼ねて、ハンドルについている。


豆電球のような明かりが、ぽつ、と

点るのは

いかにも詩的で、好ましい。




「明かりがゆらゆら揺れて、素敵」と、めぐはにこにこした。



「ああ、それは回転が低いから」とルーフィ。



この、小さなモペッドは、勿論発電もしている。



それでないと、エンジンに点火できない(笑)のもあるし


ヘッドライトも点かない。



エンジン、シリンダの中で

燃料が爆発し、ピストンを押し下げるには

火花が、このエンジンでは必要だ。


ピストンが上がり切る、その少し前に

燃料の燃える速度を見越して、火花を飛ばすのだが

その火花も、電気である。


ピストンにつながった、連結棒が

エンジンの、クランク状の

出力軸を、押し下げる。


反動で戻る。ピストンが押される。



その軸に、磁石がついていて

ぐるぐる回っている。

エンジン側には電線が巻いてあり、

糸巻きのようになっていて(コイルと言う)

そこを磁石が通ると、電気が起こる。



その電気は、E=IRで関係づけられる。



電圧は、コイルの抵抗と

電流を掛けた値になる。


つまり、磁石発電なら

磁石の力は同じなので


コイルの抵抗、電気の流れ易さが低ければ

電圧は高いが、電流は大きくなる。



つまり、総エネルギーは変わらないが

バランスが変わる。




それは、磁石の回る速度で決まるので


つまり、めぐの言うように


低い速度だと、電力がゆらゆらと

磁石が通った時明るく、離れると暗く、と


おもしろい明かりになるわけだ。

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