第二十二話 一持院胤光と鬼宿星――ワールド・トラベラーズ 5


 むき出しのブロック片に腰かけるキラリと背を預ける胤光。廃墟同然のコンビニから失敬したチョコバーをキラリは気だるげに齧り、胤光は弥勒菩薩の恩恵で空腹を紛らわせる。

 一戦交えたカニバリストたち。黒い肌ダークスキンの女は取り逃したが、正気を取り戻した男たちは間もなくして逃げるように去っていった。

 潰れたトマトのような死骸には食欲もさすがに失い、場所を移動してみたものの、どこも同じような景色には変わりない。

 静寂の通り。色の無い建造物。乾いた空気。混じり合った煤の臭い。滅んだ世界の旅行者二人ツーリスト。見慣れぬ町並みと現地で調達した食べ物にも、異邦人気分とは世辞にも呼べぬ見渡す限りの終末観。

  

 と、離れた空から排気音。

 

 一転、瞳を輝かせたキラリはチョコバーを口に放り込むや、


「みひぇおけい、胤光。偉大なる尊の御業を」


 モグモグ言いながら親指を立てた。

 

 神仏の御業か、口の端にチョコレートがついたままで尚更に少女らしさを増して見せたがゆえか、間もなくしてやってきた黒のライトバンは道端に停まった。

 運転席から、孔雀みたいな柄物のシャツを着たボサボサ頭の男が飛び出してくる。


「小学生がこんなとこうろついちゃ危ないだろ!」


 開口一番、男が怒鳴るのを見て――(やはり後者だったか)思いながら胤光は一歩前に進み出た。


「あ、一応保護者が付いてますんで」


 自尊心を踏みにじられた外金剛部院げこんごうぶいんの端に名を刻みし我が神仏が頬を真っ赤にして肩を震わせているのを傍目に、胤光は取り繕う。


 すると助手席が開いてもう一人がその輪に加わった。それはキラリより三つ四つ年上に見える女の子で。黒髪ショートの前髪にピンクメッシュを入れ、いかがわしい英語が羅列されたダボティーに、目玉柄のグリーンのニーハイソックスというやけに攻撃的なファッションをしている。

 瞳の模様が最近のトレンドなのだろうか、ぼんやりとそんなことを考える胤光の目前で、彼女はキラリの前までやってくるとしゃがみこんでその両手を握った。


「怖かったよね。でも大丈夫。あのボサボサ頭は声が大きいだけだよ。だから怒られたわけじゃないんだよ」


 ポップなパンク風といった攻めたいでたちに似合わず、彼女は優しい瞳と声でそう言った。

 キラリはこくりと頷きながら、


「うん。お姉ちゃん。大丈夫だよ――」


 か細い声で応えながらも、下駄を脱ぎつつ右手に装備し始めるのを見て、胤光は急いでキラリを羽交い絞めにした。


「離せぃ胤光! この不届き者に尊が天罰をっ!」


「キラリさん、こらえて! 堪えてつかあさい」


 そんなやりとりに男は目を丸くして後じさりしたが、女の子の方はといえば、物怖じする気配もなく着ていたパーカのポケットから取り出したものをキラリの口に突っ込んだ。



    ☆



 瓦礫を避けつつも、黒のライトバンはスムーズに走っていた。


「ぬふー。甘露じゃー。イチゴミルク飴の甘露は別次元の甘露じゃー。のう、娘よ」


 後部座席のキラリはといえば、紅のひかれたまぶたを緩めっぱなしで大人しく座っている。

 ライトバンの後部席は座席が外され、パイプ椅子としつらわれた棚、その上にパソコンが二台とプリンターやらの各機器が積まれてあった。それは男の――ルイージと呼ばれた青年の――プライベートな空間も兼ねているらしい。

 雑多な機器のせいで狭さは感じるものの不快ということもなく、意外なほど安全運転なルイージのハンドル捌きでパイプ椅子もそれほど揺れを感じなかった。


「イチゴミルク飴、まだあるからね。キラリちゃん、欲しいとき言ってね」


 助手席で振り向きながら、女の子――黒丸リオ――の声。小柄で攻め気ファッションな彼女は、「通信制だけど、一応高二」と自己紹介した。


「で、コミュニティが一部機能再開したエリアまで運べば良いのか?」


 視線真っ直ぐの安全運転でルイージが訊いてきた。

 満面の笑みを浮かべる連れ合いをちらと見た後で、


「えっと、多分、一応それで大丈夫だと思います」


 心ここにあらずなキラリに代わって胤光は答える。敬語で。

 リオの相棒のルイージは胤光の二コ下。大学留年中の二十二歳とのことだが、この車のオーナーでいらっしゃる。下でに出るのが世の習いであろう。

 世の習い――社交辞令的に胤光は会話を続ける。


「だけど、ルイージさんとリオさんは俺たちに付き合ってくれてて大丈夫なんですか? 時間とか」


 振り向いたリオが、


「うちらもちょうど友達送っていった帰りだから時間の縛りもないし。特にエリアの限定がないなら、うちらの目的地寄りで降ろせばいいだけの話だから問題ないよ」

 

 瞳を緩めながら言った。翡翠色のカラーコンタクトで彩られた大きな瞳は、どこか悪戯っぽい猫を連想させる。


「リオさんたちはどこを目指しているんです?」


 八歳年少のリオ相手にも胤光は一応敬語で尋ねる――社交辞令的に。

「初対面との距離感って普通そんなもんだよね」独り言のようにリオは呟いて、ルイージがびくっと体を震わせる。その後で、


「うちらは、まあ、しっかりとした目的地っていうんじゃないけど。言うなればトレジャーハント目的というか」


 宝探しトレジャーハント――その単語にそぐわない声音でリオが応えた。どこか興味もなさげに。


 と。


「いいのう、宝探し。せっかくじゃから尊らも付き合うぞ」


 一転して、我に返ったかのような張り切り声を上げたのはキラリだった。

 キラリが輝かせる瞳に、ちょっと困り顔のリオ。窘めるように継いだのは、真っ直ぐ前を向いたままのルイージだった。


「ものの例えで宝なんて言ってるけどな、きっと一般人にはなんの価値もない代物だろうぜ。ま、マコニストにとっちゃお宝なのかもしんねーけどさ」

 

 聞きなれない単語に、胤光は思わず訊いた。


「マコニスト?」


 ルイージはルームミラーをちらと覗いた後で、


「ボーイズラブ系作家の瑠花和マコトの心棒者ってこと。んで、リオは生粋のマコニスト。瑠花和マコトに憧れてBD同人誌も描いてる。最新作は『イーメソッド・悪の方式』ってんだ。縁があったら読んでくんな」


 不良パンクな衣装に、夢見る乙女の瞳でリオは言った。


「瑠花和先生はうちの憧れなんだ」


 間延びしたトーンでルイージが続ける。


「そんで、その瑠花和大先生がこの騒動が起こる間際に自身のサイトにこう記されたわけだ――『サガシテミロ ワタシノスベテヲソコニオイテキタ』。そしてヒント、『人魚』というワードと北緯35度51分25秒、東経139度38分56秒」


(BL界の海賊王かよ――)さすがに言えない胤光は、しかしキラリへと耳打ちする。


「いいんですか? そんな付き合うとか悠長なこと言ってて」


『熱海から都内まで来るのに二日も要するとは――』明王めいた憤怒の相で破戒僧に説法なさっていたのは今からついぞ一時間ほど前の話だ。


「莫迦じゃのう。『不空羂索観音ふくうけんさくかんのん』の加護、心念不空の索をもって秘められし真理へと至る恩恵があるじゃろうが。なに、悠長なぞといういとまも味わわぬよ」


 キラリはぬっふと笑んだままで、


「一宿一飯、一期一会、一人一殺。これも何かの縁じゃ。娘、男よ、お主らの宝、尊らが見つけてしんぜよう。大船に乗ったつもりでおるが良いぞ」


 ところどころ違うワードが含まれていた気もするが、なによりかによりパッと見中学生になったかならないかといった少女の大見栄に、なんとも言えない空気が流れた。

 そんな少女の言動に周囲が付き合う、といったテイで車は一路お宝があるらしき赤羽を目指す。


 赤羽への道中、キラリとリオはスマホ片手にスイーツ系女子トーク(キラリは新たな甘露、『プリン・アラモード』を教えてもらう)。それをよそに、胤光はルイージのご高説に付き合わされた。


「視界を光の輪が覆ったら、それがゾンビ症状発症のサインって噂知ってる? でもあれってちょっと前までは、約十年単位、三年周期で九人の選ばれし者に天啓が授けられる幸運のサインていう噂だったんだぜ?」


 それは都市伝説に始まり、胸に刻まれたEmethからEの文字を消すと真実methいう意味になって消滅するユダヤ教の泥人形、『ゴーレム』の話に移り、妖精やUMAの話題へと変わって、最終的に政府の陰謀論へと至った。


「今から十三年前に集落のほとんどが水底に沈んだウロコザワ村の話って知ってる? あれはね、政府にとって都合の悪いことをさ、ダムを決壊させて村ごと沈めて隠蔽いんぺいしたっていうのが濃厚らしいんだよね」


 ルイージは矢継ぎ早で話し続ける。胤光はそれを合いの手代わりの溜息を吐きつつ、曇った表情で聞いていた。



    ☆



 目的地に到着したのは、それから三十分後のことだった。

 そこにあったのは焼け焦げてなお残った建物の残骸。詰まるところ純然たる廃墟だった。

 煤の匂いが立ち込める高層階の建築は、立地的に高級に属するマンションだったろうが、火災発生時に例の騒動によって消火が施されなかったらしい。そしてゾンビの繁栄に比例して廃墟化が加速度的に進んだ、ということなのだろう。


「地方じゃ早くも以前の生活に戻りつつあるってな。慰霊祭目的で火葬場もフル稼働らしいが……」


 他意もなく話し始めたルイージが言い淀む。

 惨状を目の当たりにした誰もが二の句は継げなかった。


 ――人もゾンビも関東じゃ、建物ごと火葬する。


 それはジョークにしてはブラックに過ぎた。

 ガラスの散乱する入り口近くに車を停め、無言のままで全員が降りる。手つかずで伸び放題の雑草が鬱蒼と生い茂っていた。

 気まずくなった空気を払拭するように、リオが口火を切る。


「いつ緊急放送が入るか分からないからね。これは必需品だよ」


 リオが持ち上げて見せたのは、ダイヤルをツマミで調整するタイプの旧式ラジオだった。


 リオとルイージが宝探しに取り掛かったのは三ヶ月以上も前のことだと車内で言っていた。今回の騒動で中休みを挟みつつも、落ち着くのを見計らって再開したらしい。


「最初のヒントに記された場所に行ったら、新しい位置情報のヒントをゲット。んでその場所に行ってはまた新しいヒントを手に入れて、ってなことを繰り返してここで四ヶ所目。さすがに四度目の正直といってほしいけどな」


 懐中電灯片手にルイージが仕切り直した。


 当初は、女子高生と留年大学生のコンビにどこか違和感を覚えた胤光だったが、こうして見ると意外とバランスが取れているような気もしてきた。自己中心的なところもあるけど引っ張るタイプのリオと、グズグズ言いつつも付いていくルイージ。

 そんな二人の背中を追いかけるように、胤光たちも後を追う。まあ、和装コスプレ少女を連れたプリンヘアーのイケメンホストが、組み合わせをどうこう言うのもおこがましい話だな――なんて思いつつ。


 階段を昇った廃ビルの二階は鉄筋がむき出しで、支柱に支えられるだけの無駄に広いフロアだった。

 フロア中が煤けて黒く、歩くたび焦げた臭いが鼻孔を突く。住居ごとに区画されていたはずの壁は、重機が入ったかのように悉くが取り壊されていた。等間隔に並んだ窓はことごとくが叩き割られており、懐中電灯がその役目を果たす必要もない程の採光が入り込んでいる。最奥には、おそらく非常階段へ続くと思わしき扉が外れかけてあった。


 そして、そのフロアの中央に宝はあった。


 正確には中央の支柱、その一部がくり抜かれてあった。地震でもあったように散らばるコンクリの欠片と、焦げ跡の残る歪んだプレート。おそらく目隠しに使われていたはずのそれらが転がる様は、ここで生じた火災、そして暴動の名残でもあった。

 経緯と結果は別々でも、労せずして宝を見つけたことに変わりはない。胤光という器を介して不空羂索観音の恩恵を授けていただく必要もなくなったということだ。

 

 リオは宝――くり抜かれた支柱から取り出した、細工の細やかな小箱――を手に取る。

 

 と、同時のことだった。


「おいおいおいおいマジか? マジでか? マジでお宝ってヤツがあったってことかぁ?」


 怒りともつかない大声が響いた。


 胤光たちは後方――二階フロアの入口――へと振り返る。

 そこに三人の男がいた。

 声を上げた男は、Tシャツと黒のニットパンツにサンダル履きというラフな格好。ツーブロックに刈ったモヒカン風の黒髪を後ろでひとつに結っていた。

 プラスチック製のオモチャみたいなサングラスを外して放り捨てる。どこか侍を思わせる髪型に、眼光はギラギラと輝いていた。


「バ、バ、バ、バンキッシュ!?」


 ルイージが悲鳴じみた声を上げて尻餅をつく。

 ぎらついた眼光の隣に立つ、バーテンみたいなスーツ姿の男が眉をひそめる。氷のように鋭い瞳はルイージを真っ直ぐ捉えていた。


「それって前に言ってた用心棒バウンサー崩れの連中ってヤツ? 確か自分の格闘技のイニシャルがそのまんま呼び名になってるっていう」


 リオが早口で確認する。しかし問われたルイージは返す言葉もなく震えている。

 その問いに反応したのは、スキンヘッドの大男。右頭部には悪趣味なタトゥー――十字架を包みこむ骨の両手。無言のまま、腰を落とし両手を広げる。

 対照的に侍ヘアーの男は豪放に笑う。


「俺らのこと分かってんなら、話は早ぇーなあ。そうだよ、略奪者様りゃくだつしゃさまだあ! 黙って奪われるか、殺されて奪われるか、好きな方を選びなあ!」


 空気がひりついていく。場の主導権が掌握されていく。

 その間際。


「神罰を下してやれい、胤光!」


 キラリが主命オーダーを下す。主導権を取り戻すために。

 導きのまま一歩前に出る胤光。男たちの視線が射るのを感じるままに。


「そうこなくっちゃなあ。久方ぶりのお楽しみだ、どいてろ『W』」


 腰を落としたスキンヘッドを制して豪放に言い放つ。髪をしばるゴム紐を外し、侍ヘアーから癖の強いオールバック――ライオンのたてがみにも似た――へ変じた男が、獰猛な本性を撒き散らす。


「トロッちいゾンビの相手ばっかでいい加減飽き飽きしてたとこだ。褒美に、殺してやる前に名ぁくらい聞いてやる。名乗りなあ」


 舌舐めずりするように叫んだ。五メートル程の距離を置いて、対峙。男の無造作に立つ姿に格闘家の、いわゆる構えらしい所作は見受けられない。


 自分の格闘技のイニシャルがそのまんま呼び名になってる――リオはそう言っていた。タックルの予備動作に頭文字の『W』で、スキンヘッドの男の方は予想がついた――レスリング。だが、構えらしい構えもとらないこの男は何を使う?

 胤光は戸惑いながらも名乗った。


一持院胤光いちじいんいんこう


 巡らす思考。だとして結果は恒久不変。ゾンビに限らず悪心を払う大日如来の恩恵の前に格闘技なぞなんの意味も持たない。結局、ノープランで法界定印を結ぶ。なんなら三人まとめて浄化を施してやるつもりで。先刻のカニバリストたちとは違って、目前の連中は肌が露出している。


「俺の名は『D』――」


 男が名乗るのと同時に真言を唱える。


「ナウマク・サンマンダ・ボダ……」


 しかし。


「――の『D』だっ!」


 真言は間に合わない。ライオンのたてがみを震わせ、男はただの一足飛びで五メートルの距離を縮めていた。気づいた時には胤光の眼前で右拳が弾ける。

 全身のバネを利用して、加速度的に生じた運動エネルギーを拳に乗せてただ叩きつける――単純明快シンプル・イズ・ベスト。戦略なんて皆無。しかしてその衝撃。一瞬、首から上がなくなったかと錯覚するような。

 意識はあった――しかし理性が追いつかない。それでも現実に胤光の体は宙を舞っていた。


「なんとっ! 身体型フィジカル・タイプ天与級チート・クラスか!」

 

 吹き飛ばされながら、キラリのそんな言葉が聞こえた。


「胤光! 遠距離特化の大日如来では相性が悪い。不動明王の加護で身体能力フィジカルを底上げするか、金剛夜叉明王の全身金剛石の絶対防御でいったん立て直すのじゃ!」

 

 胤光は我に返る。続けて発せられたキラリの一流トレーナーみたいなアドバイスにたたらを踏んだ。それでも確かに着地した。両の足で踏ん張りながら――不動明王印を選択。


「ナウマク――」

 

 だが。


 Dと名乗った男は、吹き飛んだ胤光に二足飛びで追いついていた。再び真言は間に合わない。今度は左の拳が胤光の顔面で爆ぜた。


 たたらを踏む余裕すらなかった。朽ち果てた窓の残骸を突き破って、胤光は二階から落下していった。


 完全なる意識と戦線の離脱。抗いようのない重力に身を任せ、ジャンクの小山で大の字に転がる。

 すべてが他人事のようだった。いったいどれだけそうしていたのか。やがて盛大に割った頭部から流れる血の色、真紅に覆われた視界の中で胤光は二階を見上げる。

 聴きとれはしない。それでもあちこち破れた窓を通して、喧噪らしきものが聞こえた。

 ようやくにして胤光は覚醒する。


「早く戻んないと、本当にキラリさんに殺されるな、こりゃ」


 第一ラウンドはこれ以上ないくらいの完敗。だが第二ラウンドで取り戻せばなんとか帳消しにはなるだろう。たちどころに傷を治すための薬師如来印を選択。しかし――


「印、組めないじゃんっ!」

 

 落下の衝撃で複雑骨折した胤光の両腕はあちらこちらに捻じ曲がっている。印を組むことはおろか、動かすことすらままならない。


(終わった――)そう思うのと同時に、二階の窓からひるがえす影が映った。転がった胤光の間近に、キラリがきれいに着地する。

 キラリは有無を言わせぬ一瞥をくれた後で、胤光の両腕を針金細工みたく力任せに整形する。悲鳴を上げ終える間もなく、歪な両手は薬師如来印を組まされていた。

 真言を唱え終える暇も与えず、胤光の首根っこを掴んでは駆け出すキラリ。とても和装ロリとは思えぬ膂力りょりょく


「ど、どうするんですかっ、これからっ!」

 

 引きずられながら胤光が訊いた。頭部で噴出する血がこれでもかってくらい口に入ると、心情に似た鉄の苦い味が広がる。


「どうするもこうするもないわっ!」


 キラリが自棄やけ気味に言った。


「戦術的撤退じゃ! 仕切り直すぞ、胤光。こんなものっ、甘いモンでも喰わにゃあ腹の虫がおさまらぬわっ!」

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