第108話 哀しき宿命に立ち向かう機人たち 9
「はい、これで背中の装置は元に戻ったよ。これからは物騒な誘いにおいそれと乗らないことだね」
阿修羅先生は施術台に伏している僕の背をぱんと叩くと、満足げに言った。
「ありがとうございます。認めたくないですが、やっぱり『タナティックエンジン』は僕の心と一体の装置なんですね……」
「そういうもんだと思って気にしなけりゃいいんだよ。……それと、不意の事故に備えて身体にエアバッグを仕込んどいたよ。身体をすっぽり包み込むぐらいの奴をね」
「エアバッグ?」
「ああ。衝突や落下の際に大怪我をしないための保険さ。技術料はいらないよ」
阿修羅先生は眼鏡をかけ直すと「さて、あんたの兄貴分にもつけてやるとするかな。そろそろ腕もくっついたろう」と言った。
僕は身を起こすと、施術台の上に腰かけた。瑠佳の救出には成功したものの、そのために払った犠牲はあまりにも大きかった。その上、僕は敵に捕らわれてひとつもいいとこなしのまま、終わった。いっそ敵にバラバラにされていた方がましだったかもしれない。
そんなことを考えていると、阿修羅先生が戻ってきて「基紀、お客さんだよ」と言った。
お客さん?と僕は訝った。お客さんは僕たちじゃないか。ここに僕を訪ねてくる人なんて、いるわけがない。
僕は台から降りて服を着ると、待合室へ通じる扉の方へ移動した。どんな客だろう、そう思いながら扉を開けた瞬間、僕はえっと叫んでその場に棒立ちになった。
「ジュナ……」
「こんにちは、基紀君」
待合室のソファーに腰を下ろし、はにかむような笑みを浮かべていたのは、ジュナだった。
「どうしてここに?」
「リーダーの行方がわからなくて、あちこち調べてるうちにだんだん怖くなってきたの。それで、護身用の武器を先生に教えてもらおうと思って……」
僕は絶句した。オーギュスト、つまりオスカー博士がまだ戻っていないこと、そしてジュナが場合によっては敵と戦うことも厭わないと覚悟していることに衝撃を受けたのだ。
「リーダーのことが気になるんだね?だけどこればっかりは僕らがじたばたしたってどうにもならないよ。警察が手出しできないような相手と戦って、ジュナの身に何かあったらみんな悲しむよ」
「心配してくれてありがとう、でも……」
口ごもったジュナに、僕は戸惑った。こんな時、なんて声をかければいいんだろう。
「ジュナ、リーダーはきっと見つかるよ。僕も協力する。だから危ない場所に近づくのは止めてくれないか」
「協力って、でも基紀君は旅の途中なんでしょ?」
「少しくらい、目的地に着くのが遅れたってどうってことないさ。それよりリーダーの救出に力を貸してくれそうな人を探そう」
僕がその場の勢いで安請け合いを口にした、その時だった。診察室の方から誰かが叫ぶ声と、物が倒れるような音とが聞こえてきた。
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