第107話 哀しき宿命に立ち向かう機人たち 8
「基紀君、困ったことになったわ。拓の状態がよくないの」
右腕をもがれ、へたりこんでいる拓さんを手当てしていた瑠佳が僕に気づいて言った。
「どういうことです?」
「斧が心肺機能を制御する部分に食い込んだらしくて、脈が止まりそうなの。このままだと動かすこともできないわ」
「どうしよう……阿修羅先生に来てもらった方がいいかな」
「その前に脈と呼吸だけでも安定させないと……基樹君、ひとつお願いしていい?」
「なんですか」
「私の身体を分解して、パーツに分けて欲しいの。やり方は教えるわ」
「なんですって?」
予想外の言葉に、僕は目を白黒させた。身体を分解しろだって?
「私は救急医療用機人として造られたの。非常時には五つのパーツからなる救命装置になるわ。使うのは新人研修の時以来だけど、何とかなると思う」
瑠佳はそう言うと、立ちあがって僕に背中を向けた。
「首の付け根と背骨にある四つのボタンを同時に押すの。押したら後は自動で変形するわ」
僕は瑠佳の指示通りに四つのボタンを押した。するとモーターの駆動音が響いて上半身と下半身が分離し、それぞれ二つづつの医療器具へと変化した。
「頭を外して」
僕は言われるまま、瑠佳の頭を外し床の上に置いた。すると腕のカバーが開いてマニュピレーターが伸び、先端部が拓さんの傷口に差し込まれた。
「マスクを拓の口にあてて」
瑠佳がそう言うと、顎が大きく開いて中からチューブのついた呼吸装置が現れた。僕が呼吸装置を拓さんの口に当てがうと、瑠佳が「行くわよ」と言った。
「――うっ」
マニュピレーターが動くと傷口から火花が散り、拓さんの身体がびくんと跳ねた。頭を含む五つの器具は細いケーブルで繋がれており、それぞれ光ったり唸ったりしながら連動しているようだった。やがてマニュピレーターの動きが止まると、ううんという呻き声と共に拓さんの瞼がうっすら見開かれた。
「……瑠佳」
「また話しちゃだめ。この場所でできるのはここまでよ」
「さすがだな。君は最高の機人看護師だ」
マニュピレーターが引っ込むと、瑠佳は僕に「ありがとう、基紀君。これでひと安心よと言った。
「呼吸が落ちついたら、拓を車に乗せま……」
瑠佳がふいに言葉を詰まらせた直後、ぶうんという音が聞こえて目から光が失われた。
「瑠佳さん!」
僕が驚いて瑠佳の頭部に呼びかけると、拓さんが「基紀、瑠佳はもう限界だ」と言った。
「拓さん……どういうこと?」
「救命モードの時はいつもの数倍のバッテリーを使うんだ。もう限界だよ。アジトに戻れば充電できるから、このまま俺が車まで運ぶ」
僕も手伝うよ、と申し出ると拓さんは厳しい顔になって頭を振った。
「いや、瑠佳の身体は俺一人で運ぶ。他の人間には触らせたくない」
拓さんはそう言うと、片方だけになった腕で瑠佳の頭部を拾いあげた。
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