第96話 荒野の風に吹かれる機人たち 28


 扉の隙間から見える玄関ホールの敵は、六人だった。


「ねずみを使おう。スモークでひるんだ隙に全力疾走すれば、正面突破も不可能じゃない」


 拓さんはそう言うと、扉と壁の間にできた十センチほどの隙間に『火花ねずみ』を押しこんだ。僕らが壁を背に息を詰めていると、ほどなく「な、何だっ」という困惑したような声が漏れ聞こえてきた。


「よし、行くぞ。発砲があってもひるむなよ」


 僕らはホールに飛びだすと、徹也を先頭に正面玄関目指して一心に駆けた。白く煙ったホールに「敵だ、撃てっ」という怒号が飛び交い、僕は思わず足を緩めそうになった。


「むやみに撃つなっ、味方に当たるぞ」


 銃声と跳弾の音に怯えつつホールを走り抜けると、体当たりの音がして目の前に外の風景が現れた。


「やった、出られたぞ」


 僕が思わず叫んだ途端、銃弾が頬を掠めた。


「基紀、頭を下げろっ」


 徹也の声に頭を下げると、銃声が立て続けに響き背後で呻き声が上がった。


「徹也……お前が撃ったのか?」


 僕はこちらを向いて銃を構えている徹也と、後ろで倒れている敵とを交互に見遣った。


「この街を出るまでは、誰一人死なせない」


 徹也が鬼気迫る表情で言うと、拓さんが「いい腕だ、徹也。……早く車のところに行こう」と肩を叩いた。広い敷地を一気に駆け、停めてあった車に飛び込むとゴメスの手配なのか門がゆっくりと開き始めた。


「ちょっと飛ばすぜ」


 拓さんがアクセルを踏むと、タイヤの軋む音と共にワゴン車が敷地から外へと飛びだした。


 市街地に出た僕らの前に広がっていたのは、町を訪れた時とはまるで異なる風景だった。


 無人のゴーストタウンだった通りに大勢の住民が現れ、その半数近くが焦点の定まらない目をしてさまようように歩いていた。


「住民の目を覚まさせたはいいものの、どうやら一斉蜂起とまではいかないようだな」


 拓さんがふらふらとあるく街の機人たちを避けるようにハンドルを切ると、徹也が突然「拓さん、車を停めて下さい」と叫んだ。


「どうした、徹也」


「見て下さい、あの人」


 徹也が示した方向に目をやった僕は、思わず息を呑んだ。一人の年配機人が僧服を着た敵に掴まれ、銃を突き付けられていたのだった。


「くそっ、あいつめ」


 徹也は車を飛びだすと「動くな。その人を離せ」と叫んで銃を構えた。

 

「何だ貴様は」


 敵が叫んで目を剥いた瞬間、徹也の銃が火を噴き敵の手から銃がはじけ飛んだ。


「……この野郎、機人のくせに」


「わあああっ」


 徹也は住民を離した敵に躍りかかると、マシンファイトの時を思わせるパンチを見舞った。敵は後ろざまに吹っ飛ぶと、街路樹にぶつかって動かなくなった。


「そこまでだ機人、こいつの命が惜しければ銃を捨てろ」


 ふいに別の方角から声がして、車から降りた僕と拓さんはその場に固まった。


「――ナナ!どうしてここに」


 徹也の目線が向けられた先に、ナナを羽交い絞めにしている敵の姿があった。


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