第36話 明日なき戦いに挑む機人たち 3


「こんなところまで追ってきたのか」


 僕が身がまえながら言うと、ハリィは「裏社会の情報網を侮ってもらっちゃ困る」と鼻を鳴らした。


「今までのように僕がひるむと思ったら大間違いだ。そう簡単には狩られないぞ」


「ほう……空元気でもないようだな。なぜ急に自信をつけた?強力な武器でも手に入れたか?」


 ハリィの挑発に僕は乗らなかった。『イグニアス』のことを話せばこいつは僕の賞金が上がると見こんで一層、執着するに違いない。


「ちょっと、店内でもめ事は困るね。警察呼ぶよ」


「呼んでみたらいいさ。……なに、心配はいらない。すぐ終わる」


 ハリィがブラスターらしきものを取り出した瞬間、周がカウンターから飛びだして武器の前に立ちはだかった。


「勝手な真似はさせない。ここ、私の店ね」


「そうかい。……それじゃあ悪いが黙っててもらう」


 ハリィはブラスターを操作すると、周の身体に押しつけて引き金を引いた。


「……うっ」


 呻き声が漏れ、周の身体がびくんと大きく撥ねたかと思うとそのまま床に崩れた。


「なにをした?……周さんはおまえと同じ人間だぞ、この人殺し!」


「……ふん、電撃モードにしただけだ。小一時間もすれば目を覚ますさ。……だが機人、きさまはそうはいかん。おかしな真似ができないよう、しっかりと穴を開けてやる」


 ハリィがそう言って再びブラスターを操作し、僕に向かって構えたその時だった。


「おっと、そこまでにしてもらおう」


 ふいに外の方から声が飛んできて、ハリィの背後に複数の人影が立つのが見えた。


「なんだあんたたちは……」


 ハリィが一度構えた武器を降ろすと、三つの人影のうち真ん中の人物が前に進み出た。


「諜報部機人特務課のスティンガーだ。仁間基紀、ある事件の参考人として事情聴取を行う。我々と一緒に来い」


「事件だって?僕は何もしてないぞ」


「それはこちらが判断する。おとなしく連行された方が身のためだぞ、機人」


「おい、勝手な真似をされちゃ困るぜ。この餓鬼は俺の獲物なんだ」


 ハリィが牙を剥くと、スティンガーは「我々に逆らっても無駄だ。非公認のハンターが特務課の職務を妨害すれば、ハンター自身が犯罪者となる。わかるな?」と言い放った。


「……くそっ、汚ねえぞ」


「僕が行かないと言ったら?」


「容疑者に取り調べを拒否する権限はない。……さらに取り調べの結果、容疑が晴れれば即日釈放もありうる。素直に協力した方が君にとっても有益だ」


「人の獲物をかっさらって、自分だけ手柄を立てる気か」


「容疑者が釈放されたあとであれば、狩るなりなんなり自由だ。我々は関知しない」


「その言葉、忘れるなよ……」


 ハリィはスティンガーと僕を交互に睨めつけると、舌打ちを残して店から姿を消した。


「おい、ご店主を介抱して一連の事情を説明しておけ。……ただし、私の名前は出すな」


 スティンガーは僕の前に進み出ると、氷のような声で「来るんだ、機人」と言った。


「僕をどうする気です?」


「一時的に身柄を拘束させてもらうだけだ。態度が協力的だと判断されれば、釈放される」


「僕は何もしていない」


「主張は自由だ。……だが君の無実を証明できる人間はいない。君は君自身で身の潔白を証明してみせる必要がある」


「そんな、無理に決まってるじゃないか。あなた方が信じてくれなければ、同じ事だ」


「そうとも限らない。君が信用できる機人であると我々が判断できれば、即日釈放も夢ではない」


「……どういう意味です?」


「来ればわかる」


 スティンガーはそう言い放つと、僕が従うことを疑っていないかのようにすっと背を向けた。


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