第10話 キス、しちゃいますからね……?

「雫さ〜ん? おーい! 雫さ〜ん??」


「う、うぅーん……」


 呑み会が始まって3時間。 外はすっかり暗くなり、街灯だけが辺りに光を与えていた。


「雫さ〜ん。 テーブルに寄り掛かって寝ると風邪ひいちゃいますよ〜? ベットに行かないと」


「うぅーん……や」


 いや、そんなそっぽを向いて可愛いことを言われても、周りにあるビール缶に相殺されて、可愛さプラマイゼロなんですけど……。


「雫さ〜ん。 起きてくださいよ〜」


 俺は雫さんの肩を揺らす。 揺らすと雫さんの艶のある髪がユラユラと揺れて、なんだかクラゲみたいだなと、失礼なことを思ってしまった。


「んーん……嫌なものは嫌。 照君、私をベットまで連れてって」


 そう言うと、雫さんはトロンっとした目を俺に向けて、両手を広げる。


 これってもしかしなくても、抱っこかなにかでベットまで連れて行けってことか?


「なに言ってるんっすか。 たった2.3メートルの距離でしょ?」


「私、その2.3メートルの距離、実は歩けないの」


 嘘こけ。 バリバリ毎日歩いてるじゃないか。


 あれはじゃあなんなんだ? 雫さんのドッペルゲンガーかなにかか??


「ったく。 しょうがないですね。 ほら、おんぶしますから、俺の方に来てください」


 俺の言葉を聞いて、雫さんはノソノソと俺の近くまで来る。


 おんぶすると、雫さんの身体の柔らかさが嫌でも全身に伝わってきた。


 うわっ……雫さん、少し控えめかな?とか思っていたけど、しっかり存在感が俺の背中に放たれているな。


「ほら、雫さん。 ベットに着きましたよ」


「毛布かけて〜」


「はいはい」


 俺は雫さんをベットに横にして、毛布を掛ける。


 掛けた瞬間、毛布のモコモコ具合を感じたのか、目尻が下がった。


「雫さん。 そんなに女性が酔ったら危ないですよ。 世の中なにがあるか分からないんですから」


「…………」


「…………雫さん? 天野雫さんー??」


 俺は声を掛けて顔の前で手を振るが、雫さんからの返事はない。


 あれ? もしかしなくても寝ちゃった?


「本当、雫さん隙だらけですよ? キスしちゃいますよー」


 俺は笑いながら言うが、雫さんからは返事がない。


 俺は雫さんを見る。 お酒によって林檎みたいにぷっくり赤くなった頬、艶のある唇、横向きになっていることで見える胸の谷間、全てに目がいった。


 ……………。


「……雫さーん。 本当の本当にキスしちゃいますよー??」


「…………」


「……キス、しちゃいますからね……?」


 俺はそう言って、雫さんの顔に自分の顔を近づける。


 ドンドン近づく雫さんの綺麗な顔。


 俺の心臓は死ぬほどドキドキしていて、煩かった。


 ……ちゅ。


「…………あー。 しちゃった。 途中でビビったとはいえ、キス、しちゃった……」


 俺はどっと疲れが出て、床に座り込む。


 でも、唇には柔らかい感触が残っていた。


「あぁ〜〜」


 俺は頭を抱え込む。


 ビビって唇じゃなくて頬にキスをしたけど、とても柔らかくて気持ちが良かった。


 頬でこれなのに、唇にキスしたら俺はどうなっちゃうんだ?


 更にそれ以上のことって、一体どんな感じなんだ??


 俺の中で欲望や興奮が混ざり合う。


 俺はなんとか雫さんを襲わないように自分を押さえつけたが、雫さんに対する想いは、キスをしたことによって止まらなくなってしまったのだった。

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