第8話 満点の星空

「あははっ! 見てよ照君! 満点の星空だ! あれはデネブだね!」


「痛い! 痛いっすよ雫さん! ちょっと強く叩きすぎですって!」


「あぁ、ごめんごめん。 いやー満点の星空を見るとテンション上がるわね」


「いや、絶対それだけが原因じゃないですって。 片手に持ってるビールも原因の一つですって!」


 俺は頬を赤くして上機嫌な雫さんをビシッと指差す。


 今日は以前誘われたキャンプの日。


 昼過ぎぐらいに車に乗って現れた雫さんと一緒に、俺は家から2時間ぐらいかかるキャンプ場へと来ていた。


 着いてからはテントを設営し、少し散歩した後にBBQ。


 俺たちはいっぱい野菜や肉を食べてお腹を満たした後、雫さんが持ってきて望遠鏡を使って、星空観測会を始めた。


 しかし、BBQの時から美味しそうにお酒を呑んでいた雫さんは随分と仕上がっている。


 普段では考えられないぐらい笑っているし、テンションが高かった。


「照君も早く二十歳になっておくれよ。 一緒にお酒呑みたいのに、呑めないじゃないか」


 雫さんはグビッとビールを飲んだ後、少し口をすぼめる。 その行動は幼くて見えて、普段の雫さんからは想像できないような表情だった。


「こればっかりはしょうがないですって。 俺も雫さんとお酒呑めないの残念なんですよ? だから、早く二十歳になりたいです」


「誕生日早めることとかできないのかい?」


「できる訳ないじゃないですか!」


「だよね」


 俺が強く言うと、雫さんはビールをユラユラとゆっくり揺らす。


 その姿は妙に様になっていて、お酒のCMをしている妙齢の女優のようだった。


「あ、ベカも発見」


「デネブとベガを見つけたってことは、アルタイルもあるはずですよね? どこだろ?」


「ん〜……あ、あったあった! あそこにあったよ!」


「どこです?……あ、あったあった! これで夏の大三角形全部見つけましたね」


「照君、随分星の種類とか名称とかが分かるようになってきたよね。 もう立派な天文サークルの一員ね」


 雫さんは嬉しそうに俺の方を見ながら穏やかに笑う。


 その優しい笑みを見ると、俺の心臓はドキッと跳ね上がった。


「そ、そうっすかね!」


 俺は照れくさくて少し顔を横に逸らす。 視界には沢山のテントから光が溢れていた。


「ふふっ。 ねぇ、照君。 あれはなんの星か分かる?」


「分からないっすね」


「あれはね——————————」


 俺たちは満点の星空を眺める。 雫さんの説明を聞き、実際に望遠鏡で見ながら、俺たちは心ゆくまで星空観測会を行った。


 途中、夏の夜とはいえ少し肌寒さを感じたのか、雫さんが少しずつ俺との距離を詰めてきた。


 最終的には肩と肩が触れ合うぐらいの至近距離で、俺たちは星空を眺める。


 偶然訪れていた家族連れの子どもに、『イチャイチャしているカップルがいるー!』と大きな声で指差された時は、少し恥ずかしい思いをしてしまった。

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