第26話 VS上級勇者ハシマ

 事態は混沌を極めていた。


 俺個人の目的はドールの救出だけだったが、いつのまにか王への反逆に手を貸している。




 ドールに酷い事をしたあの王は許せないから、玉座から引きずり降ろす事には賛成だが。


 奴にはしっかり、罪を償ってもらう。




「こちらです」




 タイダル殿下の案内で王城内を進む。


 途中何度か兵士と遭遇したが、イルザ様の光属性魔法で何とか切り抜けていた。




「深き眠りへ誘え『スリープ』」


「う……」


「あ……」




 七色の光が、イルザ様の指先から照射される。


 その光を直視した二人の兵士は眠ってしまった。


 倒れる瞬間、音を立てないよう兵士を支える。




 光属性の上級魔法・スリープ。




 強い魔法耐性を持つ者や魔力操作法を使用している者には効きづらいが、不意打ちで使えばほぼ眠らせる事が出来る強力な魔法だった。


 その分、魔力の消費は激しいらしい。




「ふぅ……」


「イルザ様、大丈夫ですか?」


「ええ、まだ数回は使えそうです」


「申し訳ありません。イルザ様は知っているでしょうが、あともう少しで隠し部屋に着きます」




 王妃派と分かれて十分以上経過している。


 王城は広いので、目的地に着くまで大変だ。


 生活するには向いてないよな、城って。




「確か、ここの壁に……あった」




 カチリ




 壁に手を這わせていたタイダル殿下。


 すると壁の一部分がめり込む。


 ゴゴゴ……と、反対方向の壁が動いた。




「この先です」


「ドール……」


「ああエルザ、会うのは何年振りかしら……」




 お互い期待に胸を膨らませながら隠し通路へ。


 だがその先に……またも立ち塞がる者が居た。




「うは、こいつらホントに来やがった! マジで流星クンの言う通りじゃん! すげ〜」


「何者!」




 ルピールがイルザ様を庇うように前へ立つ。


 警戒の色を露わにしていた。


 一方で、俺はその男を見て驚く。




 一目見ただけで軽い男だと分かるチャラ男。


 名前は羽島大輝。


 成島と同じで、光山の取り巻きの一人だ。




「羽島、何のつもりだ」


「んん〜? あれぇ〜? どーして追放されちゃった低級勇者くんが居るんですか〜?」


「おい、答えろよ……人の話を聞かないのは中学の頃から変わってねえな、お前」




 そう、俺と光山、そして羽島は同じ中学出身だ。


 とは言え関わりは殆ど無かったが。


 コイツは中学の頃から光山の腰巾着だった。




「は? お前なに調子乗ってんの? あれかな、モブが勘違いしちゃったの?」


「そこを退け」




 奴に話は通じない。


 恐らく光山、成島、羽島は国王側の人間だ。


 強い奴に流されるタイプだからな。




 日本でも成島と羽島は光山の言いなりだった。


 その事実を知らないタイダル殿下は説得を試みる。




「勇者ハシマ殿、我々はその先に幽閉されている人物を救出に来ただけです。貴方と争うつもりはありません」


「あー、殿下ー。悪いけどそれ、ムリムリな相談でっすー、だって流星くんに殿下やその仲間を通すなーって言われてますからー」




 ふざけた声と態度で話す羽島。


 だが、隙は見当たらない。


 俺はいつでも魔法を放てるようにしていたが、奴は既に魔力操作法で肉体を強化しているようだった。




「勇者リュウセイが!? まさか彼は……」


「国王側でしょう。まあ、アイツが素直に人の下につくとも思えませんが」




 魔鋼鉄の剣を抜く。


 交渉は決裂した。


 次は実力行使しかない。




「ルピール、イルザ様、殿下。俺がやります」


「ちょいちょちょいちょーい! もしかして、低級勇者の雑魚が俺と戦うつもりなーん?」


「そのまさかだよ、金魚の糞。お前こそ光山はここには居ねーが、大丈夫なのか?」




 言われっぱなしも癪なので煽り返す。


 すると羽島は愉快そうな笑みを潜め、殺意を前面に押し出した暗い表情を表に出した。




「……お前、本気で殺す」


「三人は下がってください」


「奴とは確執があるようだが……油断するなよ」


「ユウトさん、ご武運を」




 三人が隠し通路から出る。


 羽島は俺を睨みながら詠唱を開始していた。


 全く、散々煽ってた癖して、いざ煽り返されたら直ぐに余裕を無くして殺意剥き出し。


 こんな奴には、負けられない。




「羽島!」


「っちい! クソ雑魚低級勇者が!」




 俺は強化された身体能力で一足に飛んだ。


 地面スレスレの速度で駆け、勢いのまま魔鋼鉄の剣を下からすくい上げるように振るう。




 当たる直前に羽島は回避したが、詠唱のキャンセルは成功したので良しとする。




「はっはー! 俺は上級勇者なんだよ! 一々武器なんて持ち歩く必要ないっつーの!」




 言いながら距離を取る羽島。


 追撃しようと踏み込む。


 だが奴は次の魔法を素早く詠唱した。




「我が手に宿れ『アイスブレイド』!」




 パキパキッと氷の剣が生成される。


 俺は胴体を狙ったが、奴も氷剣を振るう。


 羽島の氷剣と魔鋼鉄の剣が激突した。




「ひゃははははっ!」


「何がそんなに面白いんだ?」


「雑魚を蹂躙してるからに決まってるダロオッ!」




 羽島は氷剣を振り回す。


 俺は最小限の動きで避け、受け止める。


 奴からはそれが防戦一方のように見えたようだ。




 一通り剣の攻撃を受けて分かったが、コイツは剣術に関しては素人以下。


 強化した身体能力でごり押ししてるだけで、技術も何もないチャンバラごっこ。




 知性のない魔獣相手なら通用したのだろう。


 生憎、俺は人間だ。


『技』の重要性を教えてやる。




 氷剣を受け止めた時、奴が追撃しようと剣を戻して刃と刃が離れた瞬間、俺は一歩詰めて鍔迫り合いを仕掛けるような形に移行した。




 反撃されるとは微塵も思ってなかったのか、不安定な姿勢で魔鋼鉄の剣を受けた羽島には力が入っておらず、そのまま腕力で追い詰める。


 技と力は使い分けてこそ真価を発揮するのだ。




「が、ぐっ……て、低級がああああ……!」




 俺は鍔迫り合いの最中に左足で横腹を蹴り上げた。


 羽島は壁際に吹っ飛び、氷剣も砕ける。


 頭に血が上っているから単純な攻撃に気づけない。




 とは言えアイツも上級勇者。


 吹き飛んでる最中に詠唱をしたようで、火属性の魔法を反撃とばかりに放った。




 店長の言葉を思い出し、魔鋼鉄の剣を振るう。


 すると刃は魔法を斬り裂き無効化した。




「なっ……!?」


「凄いな、コレ」




 飛んでいる魔法に当てるのが難しいとは言え、魔法を実質無効化させるのは強力だ。


 使い方によっては魔法使い殺しになり得る。




「や、や、矢野おおおおおおっ!」




 激昂する羽島。


 身体中から魔力を放出している。


 桁違いの魔力量だ……やはり勇者は全員、凄まじい魔力を秘めていると考えた方がいい。




「お、お前は『下』なんだ……! いつも一人のお前は下なんだよっ! 下の下の下だああああ!」


「勝手に俺の価値を決めつけるなよ。まあ、言いたきゃ言ってろ、他人の評価なんてどーでもいい」


「あああああああっ!? 殺すコロスころすうううううううううううううう!」




 バチバチバチッ!




 魔力の暴走現象が起きつつあった。


 恐らく、羽島の感情とリンクしている。


 ずっと下に見ていた俺に手玉に取られているから、奴のプライドが傷ついてああなっているのだろう。




 安いプライドだ。


 勝手に決めつけて、勝手に傷ついて。


 羽島という男への興味が一切無くなった。




 元々ゼロに等しかったけど。


 今ではマイナスに到達している。


 こいつはただの障害物だ。




 ドール救出の邪魔をするなら、排除するだけ。




「雷よ! 我が手に集い紫電となりて––––」




 詠唱を始める羽島。


 雷属性の上級魔法だろうか?


 そんなものは撃たせない。




「風よ吹き荒れろ」




 奴に比べ圧倒的に早い詠唱。


 これが低級魔法の利点。


 ある程度の威力が保証されるなら、魔法の撃ち合いにはとても強い。




「『ヴァイオレッ「『ウィンド』」




 羽島が詠唱を終えるより速く、風の塊が奴の体に直撃して詠唱を強引にキャンセルさせる。




「が、はっ」


「俺の価値は、俺が決める。お前が決めるな」


「や……の……」




 カクンと、白目をむいて倒れる羽島。


 そのまま動く事は無い。


 どうやら気絶しているようだ。




「ふぅ……どうにか、勝てたな……」




 俺も余裕ぶっていたが、かなりギリギリだった。


 羽島が馬鹿だったから勝てたと言える。


 もう少し賢い相手なら、こうはいかない。




 だけどまあ、勝ちは勝ちだ。




「ドール」




 この扉の先に、彼女がいる。

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