第18話 遅すぎたテンプレ

 某日、冒険者ギルドにて。




 俺とドールは依頼を探しに来ていた。


 ホワイトランクの俺は通常、達成が難しい依頼は受ける事が出来ないが、パーティーにシルバーランクのドールがいるので問題無いらしい。




 まあ、側から見たらただの寄生だけど。


 早めにランクを上げたいところだ。


 ギルド内には依頼の用紙を貼り付けているボードがあり、そこで各々受けたい依頼を選んでいる。




 だがここで問題が発生した。




「無い」


「うわ、マジで残ってないのな」




 ここ最近、依頼の数が激減していた。


 原因は魔獣の異変。


 現在、ギルドが調査隊を派遣して調べている。




 その関係で一部の依頼が受注不可になっていた。


 残った依頼は既に他の冒険者に取られたようで、ボードには殆ど用紙が貼られてない。




 折角ドールとパーティーを組んだばかりなのに、出鼻をくじかれたようで釈然としなかった。


 文句を言っても仕方ないのだが。




「どうするドール?」


「帰る」


「ま、そうだよな」




 当然の帰結と言うか、依頼が無いなら雰囲気の悪いギルドに長居する意味も無い。


 今日は黒色冠の仕事は休みだから、文字の勉強でもして時間を潰そう。




「あ、ドールさん待ってください!」




 二人でギルドを出ようとした時、慌てた様子の女性職員が小走りでやって来た。


 彼女は息を整えてから言う。




「実はシルバーランクのドールさんに、魔獣の異変についてご協力をお願いしたくて」


「そう」


「これからお話を伺ってもよろしいですか?」




 職員に聞かれると、ドールはチラリと俺を見る。


 気を使っているのだろうか。


 その気持ちは嬉しいが、俺に彼女を束縛する権利は無ければするつもりも無い。




「ドールがやりたければ、やればいいと思うよ。俺は気にしなくていいからさ」


「分かった。手を貸す」


「ありがとうございます!」




 そして職員とドールは消えた。


 流石はシルバーランクなだけはある。


 ギルドからも信用されているのだろう。




 なんて考えながらギルドから出た瞬間。




「おい、待てや新入り」


「……俺か?」


「そうだ、ちょっと顔貸せ」




 三人の男達に囲まれる。


 全員武装しているから、恐らく冒険者だ。


 一人は怖い顔をしながら俺を睨み、残る二人は薄ら笑いを浮かべていた。




「できれば断りたいんだが」


「そいつは無理な相談だなあ、へへっ」


「黙ってついて来い」


「なあに、痛いことは出来る限りしねーよ」




 場合によっては痛いことになるのかよ。


 内心で突っ込む。


 どう行動するのが最善か、俺は瞬時に考える。




 ここで大声を叫べば、ギルドに居るドールが異変に気付いて助けに来てくれるかもしれない。


 だがそれは余りにも情けなさすぎた。




 男としてのプライドが許さない。


 職員を呼ぶのも同様だ。


 それにギルドの職員は冒険者に仕事以外では積極的に関わろうとしない節がある。




 俺が職員でもそうするから仕方ない。


 あとは全速力で逃げるくらいか。


 追いかけっこが始まるけど。




 ……ついて行くしかないかあ。




「分かったよ、何処に行くんだ?」


「物分かりの良い新入りだ、ついて来い」




 そうして先輩冒険者に連れてこられたのは、先日も世話になった路地裏の空き地。


 つまりは人目の付かない場所だ。




「さあて、お前には一つだけ聞きたい事がある」


「何だ?」


「お前、どんな手を使ってあの女に取り入った?」




 リーダー格と思われる厳つい男が言う。


 あの女って、多分ドールの事だよな。




「偶々知り合っただけだ」


「ほお、しらばっくれるつもりか」


「嘘を言う必要がねーよ」




 厳つい男は手首を鳴らして威圧してくる。




「ひひっ、兄貴はあの女をお前に取られてイライラしてんだよ、新入り」


「え」


「おいガスル、黙ってろ」


「へーい」




 ガスルと呼ばれた男の発言に驚く。


 こいつ、ロリコンかよ。


 俺もあんまり人のこと言えないけどさ。




「まーそういう事だ。お前、あの女俺に貸せ」


「別に俺のモノでも無い」


「話を通す事くらい、出来るだろ? まさか……出来ませんなんて、言わねーよな?」




 厳つい男が懐からナイフを取り出した。


 おいおい、マジかよこいつ。


 ドールの異性の好みは知らないが、少なくともこんな事をする男を好きになるとは思えない。




「出来ないし、するつもりも無い」


「……ガスル、ズイド」


「ひひ、やっと出番か」


「悪いなあ、新入り」




 ガスルとズイド(と呼ばれた男)が近づいて来る。


 実力行使ってか。


 参ったな、こいつら強かったらどうしよう。




「痛い事はしない約束じゃ……」


「忘れちまったなあ、そんなの」


「覚えてるじゃねえか」


「ひひっ! 黙って殴られろ! こっちはロクな依頼が無くてイライラしてたんだからよお!」




 憂さ晴らしも目的の一つだったようだ。


 約束も守れない相手に辟易する。


 俺は魔力操作法で魔力を張り巡らした。


 間に合うかどうかは怪しい。




「あれっ?」


「なっ!?」




 が、あっという間に魔力が行き渡った。


 強化された身体能力で拳を避ける。


 回避されるとは思っていなかったのか、ガスルは顔色を驚愕に染めた。




「ホワイトランクが調子に乗るなよっ!」




 今度はズイドが前蹴りを放つ。


 あちらも魔力操作法で身体能力を強化していた。


 だが、俺には遠く及ばない。




 前蹴りを左手で受け止める。




「おー、すげえ」


「ふ、ふざけやがって! この!」




 片足で立っている状態のズイド。


 不安定な足場では、これ以上の力は出ない。


 俺はそのまま適当に放り投げた。




「ぐあっ!?」




 思った以上に飛距離が伸び、壁に激突する。


 ズイドは白目で気絶した。


 調節が難しい、なんだこの溢れる力は。




「お、お前、ホワイトランクじゃないのかよ!」


「いや、俺も驚いている」


「っ、ナメやがってガキがああああ!」




 ナイフを振り回す厳つい男。


 型も何もないデタラメな動き。


 味方のことを考えてないから、折角数で勝っているのにガスルが割って入れない。




 うん、こいつら弱い。


 丁度良いから練習台になってもらおう。


 迷惑料みたいなものだ。




「このっ、当たれっ!」




 厳つい男が振るうナイフを避け続ける。


 俺の身体能力が圧倒的に勝っているからか、奴が動いた後から回避行動に移っても余裕で間に合う。




 だから確実に攻撃を避けれる。


 体力が続く限り、男の攻撃は一生当たらない。


 しかも男の方が激しい動きをしているから、スタミナ切れでも負ける要素が無かった。




「はあっ、はあっ……!」


「あ、兄貴! も、もう逃げようぜっ!」


「ざっけんな! このまま終われるかっ!」




 荒い呼吸を繰り返す男。


 対して俺はとくに変わらず。


 勝敗は既に決していた。




 いや、最初から勝負にすらなっていなかったか。




「ひ、ひひ、俺は行きますからね!」




 と、ガスルは気絶しているズイドを担いでから厳つい男を置き去りにして逃げて行く。


 放置しても問題無かったが……




「風よ吹き荒れろ『ウィンド』」


「ぐああっ!?」




 念の為、保険をかけておく。


 倒れたガスルの元へ行き、睨みながら告げた。




「ま、魔法……?」


「二度と俺達に関わるな、次は無いぞ」


「は、はいいいいっ!」




 彼は悲鳴を上げながら逃亡した。


 次手を出してきたら、本当に潰すつもりだけどな。


 そして再び厳つい男と相対する。




「で、あんたはいつまで続ける気だ?」


「お前が死ぬまでだ!」


「そうか」




 ナイフを持って突進する厳つい男。


 俺は激突する瞬間に右へ逸れて避ける。


 そのまま男の顎を撃ち抜くように蹴り上げた。




「がっ……!?」




 上空へ吹き飛ぶ男。


 落下し、更にダメージを負う。


 様子を見ると、気絶していた。




 まあ、こんなところか。




「それにしても、スゲー力だ。これも本来の魔力を使えるようになった影響か?」




 漲る力を感じる。


 もしかして、クラスの皆んなが言っていた力ってのはコレのことなのか?




 可能性としてはあり得る。


 勇者は全員、膨大な魔力を保有しているのかも。




「……ま、帰るか」




 余計な道草をしてしまった。


 さっさと帰宅して文字の勉強をしよう。


 気絶した男を残し、空き地から去る。




 そういえば厳つい男だけ名前が分からないままだったな……知りたくもないけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る