第17話 考察とパワーアップ
翌日。
俺とドールは再び裏路地の空き地へ来ていた。
もちろん魔法の練習をする為に。
「その論文なら、読んだことがある」
「ほんとか?」
「着眼点は面白かったけど、殆どの学者からはロクに相手にもされなかった」
「まあ、そうなるよなあ」
俺はやろうとしてる事の詳細を話した。
魔力の過剰投与と呪文詠唱。
オリジナルの技法、スペルブーストについて。
「だけど、現実問題として中級魔法が使えない俺からしたら、唯一の望みなんだ」
「魔法を使って。最初から見たい」
「ああ」
言われた通りに魔法を構築する。
魔力を汲み上げ、放出。
エネルギーが体外に流れる感覚。
呪文詠唱をするなら、今この瞬間。
「炎よ火球となれ『シードフレア』!」
ボワっと炎が生み出される。
火炎は不定形から球体へと形を変え、何もない空間へ向かって射出された。
「どうだ?」
「……」
ドールは俺を見ながら、何かを考えている。
すると近距離まで近づいて来た。
ぺたりと、右手で俺の体に触れる。
「今度はこのままでやって」
「わ、分かった」
彼女の事だ、きっとなにか理由があるのだろう。
俺は同じようにシードフレアを唱えた。
相変わらずの中途半端な威力。
だが、ドールは何かに気づいたようだ。
俺の体から手を離しながら言う。
「やっぱり」
「何か分かったのか?」
「あなたは根本的な間違いを犯している」
指摘されるも、理由が分からない。
根本的な間違い?
標準的なプロセスで魔法を使っている筈だ。
「何も間違っているつもりは無いけど……」
「魔法の手順は間違ってない。間違っているのは、魔力の使い方」
「魔力だって?」
意外な指摘に驚く。
魔力に問題があるとは考えたことも無かった。
何故ならこうして魔法が使えているから。
「ユウトはどんな風に魔力を練り上げてる?」
「練り上げる? 何だそれ?」
「間違っているのは、そこ。間違いというよりは、ユウトの体質の問題だけど」
ドールは丁寧に説明してくれた。
魔力は本来、常に備わっているワケじゃない。
ある程度は肉体に残留させる事は出来るが、殆どの魔法使いの場合、必要な時に必要な量を生み出す。
そもそも魔力とは肉体から生まれるモノではなく、魂を通して別の次元に存在すると言われる所から引っ張ってくる万能エネルギーだ。
故に長時間沢山の量を人体に留めておくと、個人差はあれど悪影響を及ぼす事が多い。
元々は体に無い物質なのだから。
だからこそ一々必要な時にだけ引っ張り出す。
それが『魔力を練り上げる』という事のようだ。
だけど俺はそんな事、一度も意識した事が無い。
「ユウトの魔力量は、人並み外れている。しかも、肉体と魂の結びつきがとても緩い」
「えーと、つまりは?」
「常に魂から体に魔力が供給されている状態。そして収まり切らない魔力が溢れている。ユウトは普段、その溢れた魔力しか使ってない」
俺も知らなかった事実が次々と判明する。
常時魔力が供給されている?
それって危険な事なんじゃないか。
「魔力が常に供給されてるって、危なくないか?」
「理由は分からないけど、多分平気。悪影響が出るならとっくに出てないとおかしい」
逆説的に大丈夫と言われた。
まあ、たしかに体は何ともない。
ドールがもう一度体に触れる。
「すごい魔力量。こんなの、初めて」
「おお……何だかんだで、俺にもその手の才能があったのか……」
才能からは嫌われていると思っていた。
だからこそ感慨深い。
問題点があるとすれば。
「低級魔法じゃ活かしきれないよなあ」
「そんな事は無い」
「え?」
彼女はハッキリと言った。
「魔力には『質』もある。今まで使ってなかった奥底にある魔力を使えば、今まで以上の効果が期待できる」
「ほんとか!」
「試す価値は、ある」
ドールがそう言うなら心強い。
早速試そうとしたが。
「でもそれって、どうやるんだ」
「普通なら魔法を習う最初の段階で『魔力を練る』事を覚える」
だけど俺の場合、体から溢れた魔力をそのまま使っていたから練り上げる必要が無かった。
無意識的に魔力を使っていたのか。
「目を瞑って」
「分かった」
まぶたを閉じる。
ドールは俺の体の胸辺りに手を置いた。
じんわりと、熱いナニカを感じる。
「これが私の魔力」
「……」
「この魔力を引っ張るイメージを作って」
引っ張るイメージ。
日本育ちで幼い頃からアニメや漫画に触れていたからか、想像力には自信があった。
肉体と魂。
その間に道をイメージする。
道を通じて流れるのは、魔力。
海の底からコインを拾い上げるように。
欲しいモノを見つけて……引き込む!
「っ! きた……っ!」
ブワッと、体中にエネルギーが満ちる。
これが本来の魔力。
とてつもない力の流れを感じる。
「魔法を」
「ああ! 風よ、吹き荒れろ!」
体の調子が良い。
流れるような動作で魔法を唱えた。
今までとは違うと、ハッキリ分かる。
「『ウィンド』!」
それはただの低級魔法。
日々の生活を多少便利にするだけの存在。
誰からも見向きされなかった、劣等の証。
だが––––この日、その常識は覆る。
「っ!?」
「すごい」
真上に放ったウィンド。
魔力を帯びた風は、暴風となって上空へ舞う。
さながら荒れ狂う龍の如し。
小規模な竜巻を発生させた低級魔法のウィンドは、明らかに中級魔法の威力を超えていた。
中級魔法よりも短い詠唱で。
「やった……やったぞ!」
拳を突き上げる。
努力は今ここに、実った。
最大級の成果と共に。
こんなに喜んだの、いつ以来だろうか。
「見ろよドール! ははっ、やった、やったよ俺! 凄すぎるだろ! あれが低級魔法だぜ!?」
喜びすぎておかしなテンションになっていた。
ドールは感心しながら魔法を見ている。
「ユウト並みの魔力があれば、こんな事も出来る。魔法の暴発性が他に比べて低い低級魔法だからこそ出来たこと……ううん、今は」
彼女は俺の目を見つめながら言った。
「おめでとう、ユウト」
「お、おう、こっちこそありがとうな。ドールの助言がなかったら、出来なかった事だよ」
心からの言葉だった。
彼女には本当に感謝している。
「でも、早速教える事が無くなった」
「そんな事無いさ。経験はドールの方が圧倒的に多いんだしさ、教えてほしい事は沢山あるよ」
「……なら」
ポツリと、絞り出すように彼女は言う。
「私と、パーティーを組んで」
「パーティー? それって冒険者として?」
「そう。一緒に依頼を受ける仲間のこと」
それは……魅力的な提案だ。
シルバーランクの冒険者とパーティーを組めるなんてこれ以上無いほどの役得だし、何よりこれからも彼女との繋がりが続く。
「俺でよければ、いいよ」
「! 良かった……」
ホッとしたような顔になるドール。
断られると思っていたのだろうか?
あり得ないな、そんなの。
俺は美少女からの頼み事は基本断らない紳士だ。
「じゃあ、これからもよろしくって事で」
「うん」
俺は右手を差し出す。
意図を察した彼女も右手を出した。
手と手を重ね、握手をする。
ぎゅっと、力強く握り返された。
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