マホロバ

梅月うさぎ

プロローグ

第0話 出会い

一番端の校舎の一室。一つ開けた隣の席に髪の長い女の子が座っている。彼女は私と反対の方向を向きながら私に一生懸命話している。彼女曰く人見知りらしい。彼女は話し続ける。私はひたすら相槌で返す。あとどれだけ待てば劇は始まるのだろう。

高校に入学して二日目。部屋中にきちんと貼られた暗幕で光は断たれ照明は薄暗い。演劇部の新入生歓迎公演なのに観客は私と彼女の二人。あまりの暗さに正直もう帰りたいと思う。


…。

やっと始まった。

緊張からか衝撃的なほどに内容が頭に入らない。

……。


終わってしまった。

面白かった。面白かった。かっこよかった。凄かった。

感想を書いて欲しいと先輩方に言われた。ありきたりの言葉しか出てこない。

隣の彼女は思いのほかスラスラ書く。


部屋を出て彼女と二人になった。彼女が私をしっかりと見て言う。

「うちさ、演劇部入ろうと思ってるんだけど一人は辛いんだよね。入ってくれない?」

同情から わかった と言いかけて 考えてみる と言う。


彼女と別れた後の帰り道。危なかったと心底思う。もし他に誰も入部しなかった時私は彼女と二人でいられるだろうか。自信がない。さっきの劇も記憶にない。


家に着くと母がいた。

「演劇部見てきた。なんか変な子がいてね。でも、話してて面白かったんだよね。」

自分で言って自分で驚く。私はどうやら彼女と話すていて楽しかったらしい。そんな自分になんだか嬉しくなった。


次の日はバドミントン部を見に行った。中学でお世話になった先輩に誘われて見に来た。誘ってくれた先輩がいない。なんとなく逃げたくなって出口に向かう。下駄箱に向かう途中、男の先輩に声をかけられた。

「もう部活決まっちゃってますか?演劇部とか興味ありませんか?」

少し運命的なものを感じる。

今日も結局演劇部に来た。想像以上の歓迎だ。教室は昨日と同じ場所とは思えないほど明るい。昨日の彼女もいる。

しかし、彼女は友達を連れてきている。昨日の会話を振り返り なんだよ と少し思う。

今はエチュードというのをやっているらしい。先輩方がそのエチュードをやって新入生が役を当てるゲームだそうだ。意外と難しい。でも面白い。それから本読みをした。楽しくてたまらない。


帰り道には入部を決めた。


両親はすぐに賛成してくれる。いつものことだ。


次の日、入部届を持って私は部活に行く。昨日よりも緊張する。先輩方にその旨を伝えると飛び跳ねて喜んでくれる。ハグまでしてくれる。入って良かったと心の底から思う。

先に来ていた彼女に 入るよ と改めて伝える。彼女は嬉しそうに

「はやっ。」

と言う。


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