第21話 食事(3)
「――俺の家はごく普通の農村の村長の家で――、ただ母親が使用人だったから、俺も使用人扱いで、それに加えて妖精と話してたもんだから気味悪がられて――、9《ここのつ》くらいの時だったか、母親は実家に帰ったんだけど、俺だけ置いていかれてね」
アルヴィンは空のコップの上で指を回すと、そこに水を注いで私にくれた。
冷たい水を一口飲んでから、彼がお皿に取ってくれた焼きたてのお肉を食べる。
硬い肉は噛み締めるたび、爽やかな香草の香りが口に広がった。
アルヴィンはぽつりぽつりと話を続けた。
「それで部屋もなくなって――馬小屋で寝起きしてたんだが――、ある夜、妖精が『寂しいでしょ』とか『可哀そうだね』とかうるさかったから――いつもみたいに焚火をしたんだ。火を起こすといなくなるのが何となくわかってたから。そしたら、――
アルヴィンも焼けた肉をとって食べると、水を一口ごくっと飲んでから私を見た。
「家中大騒ぎで、俺はどこだって捜してて――死ぬほど殴られるだろうなって思って、そのまま逃げだして、ついうっかり妖精に誘われてあの花畑に足を踏み入れかけた。それで、師匠に拾われて――それだけだ。馬に悪いことしたな、とは今でも思ってる」
肩を持ち上げて、軽く笑顔を作ると網に向き直ってひょいひょいと良く焼けたお肉を拾って私のお皿に載せる。
「君のが腹減ってるだろ。どんどん食べろよ」
「うん、ありがとう」
私は頷くと、お皿の上のそれを口に入れてもしゃもしゃとそれを食べた。
行儀とか、そういうのはもういいやと思った。
ここには私と、この人しかいない。
馬小屋で寝起きする黒髪の少年を思い浮かべる。周りの人間からの
私とアルヴィンは一緒だ、と思った。
空腹感が満たされるとともに、心が安心感で満たされる。
ここでは、誰かに怖がられるとか、そういうことを気にしなくていい。
思ったことを口にして、大丈夫。
「美味しいわね」
と呟くと、アルヴィンも「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます