第18話 魔法の練習へ(3)

 私はちゃぽちゃぽと小川に手を浸して上げてを繰り返した。


 しばらくそうしてるうち――『精霊と対話する』とアルヴィンが言っていたことが何となく、わかるようになった。じっと水の冷たさに意識を集めていると、目を開けていても、閉じていたときに見えた渦巻きのようなものの存在や姿を感じることができた。


 私が心の中で話しかけると、それは、水面をうねらせたり、むくっと盛り上がらせたりいろいろな反応を見せた。


 アルヴィンはそんな私の様子を見ながら、水の渦巻きを起こして草の船に乗った妖精をぐるぐる回して遊んであげていた。

 

 そうしてるうちに私は疲れを感じて河原にお尻をついて、はぁと息を吐いた。

 アルヴィンは立ち上がると、私の傍に来て、手を伸ばした。


「良い感じだな。初回でこれだけできれば、すごいもんだ」


 ――すごいの?

 自分なりに進歩は感じられたものの、魔術師のアルヴィンにそう言われると嬉しい。

 私は笑って彼の手を借りて立ち上がると、また疲労感を感じてため息を吐いた。


「――でも、何だか疲れたわ」


「ふだん使わない力を使うから疲れるよ。今日はこのくらいで帰ろうか」


 見上げるといつの間にか太陽は傾いてきている。

 アルヴィンは持って来た木桶に川の水を汲んだ。

 そう、あの桶、何で持って来たのかしらと思っていたの。


「それ――、水を持って帰るの?」


 アルヴィンはどこからでも水を出せるのに、と思って首を傾げる。


「君の練習に。ここの水の精霊と親しくなっただろ。だから持って帰ってこの水で練習すると良いよ」


 水の精霊というのは場所によって違うらしい。

 私が桶に近づくと、桶の中の水が『よろしく』とでもいうようにぐにゃりと持ち上がって、ぱしゃんとまた桶の中に落ちた。


「さて、戻ろうか。ジャック! 戻るぞ!」


 白い犬の姿は周りになかった。アルヴィンは口に指を当ててピィーっと指笛を噴いた。すると、水をはね上げながら川上から元は白かった犬が泥だらけになって駆けてくる。


 あの茶色い犬はジャック……?

 目を凝らすと、さらにその犬は口に何かを咥えていた。


「……きゃあ!」


 私は思わず悲鳴を上げる。ジャックが咥えているのは兎……?のようなものだった。

 ジャックはアルヴィンの足元にそれを置いて座ると、ぱたぱたと尻尾を振った。


「また獲って来たのか……」


 茶色い犬の頭を撫でながら、アルヴィンはため息をつくと、それをささっと袋に入れて担いだ。


「ジャックは元々森で迷ってた狩猟犬で、森に入るといろいろ獲ってくるんだ。ジャック、 泥落として来い」


 アルヴィンが川の方を指差して言うと、ジャックは川に突進して、少し深いところでごろごろと毛を洗うように転がる。それに合わせてアルヴィンがくるっと手を回すと、川の水がジャックの泥汚れを落とすように回転して、あっという間に元通りの白い犬が戻って来た。


“もう帰るの?”

“まだ遊ぼうよ”


 妖精たちが私の髪の毛やら服を引っ張るけれど、私は「今日は疲れたから、帰るわ」とそれを振り払った。

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