英雄幻想5

◎デイ・オブ・カタストロフ◎

  


いろいろな事があった。つらいことも悲しいこともあった。すべて笑い話にしよう。最後に勝ってすべて笑い話にできたらよかったのにね。

  


◉ヒーロー・ファンタジー◉

  


マキータは最終決戦を控え、パープルアップルへの出現準備をしているはずだった。そのマキータがこの首都郊外放棄都市に愛機アナザーエイジで出撃していた。その理由は謎の手紙だった。

『予想外の再会を控えたおまえにもう一つの再会を、俺が代わりに鍛えてやる』

差出人はヒレーの名を騙っていた。

  


この時代にヒレーが居るはずがない。あの事が無くても流石に寿命だろうというのがマキータの気持ちであった。それでも思うことがあってマキータは自分のアームヘッド を持ち出したのはマキータが歳をとったからだろうか。5個目のドーナツを齧っていると突如センサーが反応した。

  


この感覚はかつて横綱のアームヘッド と戦った時に似ている。例の教団という組織だろうか。レインディアーズの同僚達から変質した自分がタイムスリップ教団にいたという話も聞いている。まさかタイムスリップしたヒレーが居るとでもいうのだろうか。だがヒレーはあの時……。

  


だがその認識は間違いであるというかのように深葱色のアームヘッド が青白い光とともに出現した。その姿はまるでヒレーの愛機ゲイボルグを歪めたかのような風貌をしていた。

『久しぶりだな、そしてはじめましてだ。マキータ・テーリッツ。立派になったようで俺は嬉しいぞ』

その声は確かに忘れない。

  


『俺はタイムスリップ教団、ラウンズが一人タイムスリップ・ヤリヒコである』

『……?』

『ガハハハ!』

ヤリヒコが大笑いするとヤリヒコのアームヘッド が縮んでいき人間の姿になった。

『ついに出会えたな、いや俺はおまえの最終決戦に立ち会ったばかりだが、まあ、おまえがアレに勝てるかは、これから次第だ』

  


『ヒレー……なのか?これはいったい?』

『そんなにも似ているか!だが俺はヒレーであり、ヒレーでない』

ヤリヒコは笑う。その格好は緑色のローブを纏った教団幹部服であるものの顔は確かにかつてのヒレーそのもの。

『サダヒコと礼三郎の違いはなんだ?ヤマビコとテルミの違いはなんだ?わかるか?』

  


ヤリヒコはアナザーエイジの中のマキータを指差した。

『俺とヒレーの違いはな。マキータ、おまえだよ』

タイムスリップ教団の幹部達、堕ちたラウンズの違いは大切な者との関係性そのものにある。

『俺は、おまえの記憶を削除されて創造された時空間産まれたの存在だ。いわばヒレーの紛い物だ』

  


タイムスリップ・ヤリヒコは現行宇宙への復讐者として代替特異点に直接創造された。その執行者としてヒレーが選ばれた。ヒレーは世界にすべてを奪われた存在、代替特異点はヒレーはこの世界そのものを憎んでいるはずと認識していた。それは間違いだった。そしてもう一つの過ちが記憶を弄ったこと。

  


ヤリヒコとヒレーの最大の違いはマキータに関する記憶の欠落。

『俺はおまえがどういう奴か。ヒレーにとってどんな存在か、興味があった。だがおまえに触れようとするたびバロールの呪いが俺を蝕んだ。そこで俺は考えたのだ。俺の記憶を再び弄ってもらおうとな』

  


代替特異点がムスタング・ディオ・白樺を汚染しようとした時、ヤリヒコはムスタングに提案した。自身の特異点性とムスタングの特異点性を切り離しその際にヤリヒコのマキータの記憶のロックを外す。代替特異点はその時既に過去と未来の特異点性を取り込みつつあり、ムスタングに抵抗は難しかった。

  


ムスタングはヤリヒコの記憶を覗き、あるいはヒレー・ダッカーという存在に賭けた。過去と未来を繋ぎ、無限の代替特異点が顕現しようとする際にヒレーがこちらにつく可能性に賭けたのだ。ぶの悪い賭けであったがその時のムスタングに出来ることは少なかった。そしてその結果は。

  


ヤリヒコはマキータという存在を認識した。ヒレーという英雄が最後に救世主から救った少年。ヒレーの復讐者となった少年。そして……。

『俺よりよっぽど英雄になったな』

ヤリヒコはヒレーなら必ずそう言うだろうと考える。

『そんな、俺なんて……』

『まだまだか?その通り。まだ越えるべきものがある』

  


ヤリヒコが再び巨大化しアームヘッド の姿になる。

『これこそがクルージーンなり!』

『ヒレー……いやヤリヒコ!やる気か!』

手紙には鍛えてやるとあった。

『俺は感謝してるんだぜ。老後の楽しみをくれたおまえにな!』ヤリヒコは既に教団での役目を終えている。

『来いマキータ!捻り潰してやる!』

  



ゾディアークアナザーエイジ、マキータのアームヘッド は未知なる敵との戦いに備えて普段のバスターソードとフィジカルライフルのほかに同型機アンチアサルトのスターシステムノヴァを背部に装備し出撃した。これはかつてのゾディアークのようにテトラダイの毒矢を飛ばす現代の投槍である。

  


スターシステムの投槍がクルージーンに向かって投擲される。

『いつまでも愛している』

ヤリヒコは呪詛を唱える。オルタナティブデーモンの権能を自身に憑依させているのだ。

権能、英雄幻想パワー・ヒーローファンタジー

そのパワーは即ち英雄の再現である。クルージーンから牙めいた刃が出現する!

『メイルチーター、そして!』

  


クルージーンが消失!

『マンハント!』

消えたクルージーンがアナザーエイジの背後に出現!牙の剣をアナザーエイジの背中に振るう!だがアナザーエイジは見ているかのようにバスターソードで防御!牙の調和は初見!だがマンハントの瞬間移動は見慣れている!『バイバイバビロン!』

  


また見慣れぬ能力!牙の調和で射出した牙が加速しているのだ!アナザーエイジはマントでかろうじて防ぐがマントが失われる!

『どういう能力だ!』

『喋っている余裕があるか!?ムーンサークルキリング!』

更に新たな能力!アナザーエイジはかわそうとするが機体が動かない!別の能力だ!

  


今アナザーエイジは前後左右の動きをプロティコドンによって封じられている。更に上空には牙の斬撃が〝再現〝されている。

『これが英雄の力だ!……そしてそのすべてをあの救世主は撃ち破った。おまえが越えようとしているのはそういう相手だ』

ヤリヒコは完全にマキータを詰ませようとしている。

  


メイルチーターとバイバイバビロン、ムーンサークルキリングの複合攻撃がアナザーエイジを撃った時既にアナザーエイジは姿を消していた。

『俺が越えるのはあなただ!』

アナザーエイジがクルージーンの影から出現!調和能力フォールだ!バスターソードでクルージーンの背中を斬りつける!

『ぐっ……』

  


アナザーエイジは更に追加の斬撃を浴びせようとするも、突如出現した盾めいた存在に妨害される。

『……流石だ。英雄に祭り上げられるだけのことはある』

クルージーンが振り向く。

『ならこれはどうかな。彼はセイントメシアに敗れた訳ではないが』

クルージーンが分身した!

『リアルナイトメア』

  


複数のクルージーンが縦横無尽に動き回る!それに気を取られるうちに廃墟ビルの陰から蜘蛛めいた存在が複数現れる!マキータに知れぬ事だがヒレーは特異点として神徒の召喚が出来る。そして神徒や分身でマキータを倒すつもりはない。あくまで攻撃に出るのは本体だ。

『マンハント!』

  


ヤリヒコの権能、英雄幻想は英雄という存在のイメージを力にする能力だ。しかし複数の能力を完全に再現できる訳ではない。もしそうならマキータは南無三と言って選択ロスが無くても敗れただろう。マンハント以外の調和は一部の再現、あるいは単純な使用のみが可能で当人なら出来た応用は不可能だ。

  


クルージーンの本体は悪夢分身リアルナイトメアの背後から出現。アナザーエイジに斬りかかる!だがアナザーエイジも消失!

『……その調和……』

『その通り』

クルージーンの背後からマキータの声がする。

『俺にとって英雄はあなただけです』

『……俺の真似をしてもロクな事は無いぞ』

クルージーンが振り返った。

  


アナザーエイジの調和もまた瞬間移動だ。

『これで決めるぞ』

牙の剣が消失しクルージーンは背中の剣を握る。

『これがすべての始まりだった』

クルージーンの筋肉が更に肥大化!

『行くぞ!』

クルージーンとアナザーエイジ、二機の剣がぶつかった!アナザーエイジはフィジカルライフルを棄て両手持ちに!

  


『……やはりそうか』

ヤリヒコはアナザーエイジのフレームもまた成長しているのを感じ取る。『だが、まだまだだ!』

クルージーンがアナザーエイジを押し任す!バスターソードを持つ手が片方外れ、片手持ちに!

『俺の勝ちだ!』

クルージーンがとどめの斬撃を放つ!

  


その時!クルージーンの足が何かに引っ張られて転ぶ!

『なんだ!?』

『スーサイドブラック』

クルージーンの足を影の手が引っ張っている!アナザーエイジがクルージーンを更に押し倒す!

『これで俺の初勝利だな。ヒレー。調子に乗って多芸アピールするからだぞ』

マキータの口調は若返ったかのようだ。

  


『まだだ!俺にとどめを刺せ!』クルージーンの胸が露出する!そこから禍々しい眼がアナザーエイジを睨んでいる。

『……ヒレー!?』

『俺はヒレーじゃない。ヤリヒコだ』

『ヒレーだよ、あなたは。だって俺を知っているヤリヒコがヒレーなんだろ?』

『マキータ……おまえ……』

  


クルージーンが立ち上がって自らバスターソードに刺さりに行く!

『ヒレー!?』

『俺は……いい……。もういい』

『ヒレーなんで!?せっかくまた会えたのに!』

『それは……あの世にいる……本物に……言ってやれ……。俺は……』

クルージーンが消失していく。

『ヒレー!』

『へへ……ざまあみろだ……』

  


ヤリヒコは代替特異点だの特異点だのタイムスリップ教団だのどうでもよかった。自分が良いように使われるのがただ癪だった。自分がこういう人間だと勝手に思われて操られるのが嫌だった。だからそのすべてに背いた。禁じられた封印された記憶にだけ興味を持った。そして……。

  


『ヒレー、いやヤリヒコ。あなたは幻想の英雄なんかじゃない。本物の英雄だった。俺はあなたを目指していたんだ』

『へへ……ありがとよ……ヒレーの……亡霊も……報われるってんだ……』ヤリヒコは薄れゆく意識の中、ふと礼三郎を思い出す。

『あ……そうだ……俺の……弟子が復讐に来るかも……』

  



ヒレーは笑おうとしたが声にならない。

『最後に……全部……笑い話に……できれば……良いよなあ……』

クルージーンは完全に消失した。マキータはバスターソードの先にまだヒレーが居るのかのようにずっと見つめていた。

  


『ヒーロー・ファンタジー』終わり

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デイ・オブ・カタストロフ みぐだしょ @yosidagumi2000

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