第6話
先ほどまでの優雅な夜会はあっという間に、戦闘の音や逃げ惑う人々の悲鳴に包まれた。
「アル!危ない!」
シルヴィアに腕を引かれ、体ごと持っていかれる。
俺のいたところに、抜身の剣が飛んでくる。1歩遅ければ俺に刺さっていたかもしれない。
「ありがとう、シルヴィア」
俺は体勢を整えながら感謝を述べる。
あちらこちらで戦闘が始まっており、狙いがそれた魔法や弾き飛ばされた剣が飛び回っていた。
「アル!無事か?」
「レオ、あなたね!剣を弾き飛ばすにしても人がいない方向に飛ばしなさいよ!」
「ほんとすまなかった。アル、ごめんな」
シルヴィアがレオナルドに詰問すると、駆け寄ってきたレオナルドは心の底から申し訳なさそうに謝罪を述べた。
「いや、ありがとう。後ろから狙われていたのに気付いていなかったから、レオのおかげで助かったよ」
レオナルドがいなければ後ろから刺されていた。そう考えるとゾッとする。
「まだ気を抜くのは早いわ。早く安全なとこに行きましょう」
魔法で侵入者をけん制しながら、シルヴィアが言う。
「そうだな、ここだと危ないから、すぐに移動しよう」
俺たちがいるのは騎士たちの少ない窓際で、騎士の間を抜けてくる侵入者がちらほら出て来ている。
「ごめん、ちょっと待ってて」
俺は二人にそう言うと先ほどレオナルドが飛ばした剣を拾う。
「じゃ、二人とも行こっか」
「アルその剣を使うのか?刃こぼれがひどいぞ?」
心配そうにレオナルドが尋ねてくる。
「何もないよりは良いかと思ってね」
「アル、大丈夫よ。私とレオでしっかりあなたの事守るから」
「そうだぞ。アルが無理する必要は無いんだ」
シルヴィアとレオナルドは力強く、そして優しく俺に言ってくれる。
「うん、ありがと。でも一応ね、一応」
嘘である。俺は自分の剣が欲しくて拾った。
生まれてこの方、真剣を使ったことが無くて憧れがあったのだ。
剣をネコババしたなんて知られたらランスタッド侯爵家に泥を塗ってしまうので黙っておこう。
どうせ、侵入者は処刑されるのだから、もらってもいいはず。
俺がそんなことを考えながら、激戦となっている窓際から離れて、比較的安全そうな中心部に移動をしていると、俺は綺麗な剣が刺さっているのを見つけた。
「あっ、こっちのほうがいい剣だね」
刃こぼれもほとんどなく、新品のような剣だったので、どうせもらうならこっちのほうがいいと思ったので、先ほど拾った物と取替えておく。
刺さっていたから、拾ったやつも同じところに刺しておいた。
特に深い理由はないけどね。
「アル、そんなに私たちって頼りない?」
そんなことをしていたら、シルヴィアが悲しそうに言ってきた。
よく見るとレオナルドも心なしかしょんぼりしているな。
二人のプライドを傷つけてしまったかもしれないな。
「そんなことないよ。ただ、自分の剣が欲しくてさ」
二人に少し申し訳ないことをしたなと思ったので、しっかりと本当の事を話す。
「そんな拾った物より、ちゃんとした物を買ってもらったら?」
シルヴィアの言うことはもっともだけど、買えない深い事情があるんだ。
「いや、母上が俺に真剣を持たせたくないみたいでね。『いつも、アル君はそんな危険な物を持ってはいけません』って言うんだよ」
父上も母上には強く出られないので、母上を納得させないと買う事ができない。
「リリアナ様らしいわね」
「そうだな。でもせっかく鍛錬しているんだから欲しいよな」
窓際から離れたこともあり、そんな会話をする余裕も生まれていた。
レオナルドは真剣を使う事もあるからか、俺の気持ちへの理解が強い。
「レオ分かってくれるか。今度レオに買って来てもらうのもいいかもな」
「リリアナ様に怒られたくないから、俺は買わないからな」
レオナルドにこっそり買って来てもらうのが良いかもしれないと俺は思ったが、そう簡単にはいかないようだ。即答で断られた。レオナルドは母上に怒られるのがそれほど嫌なのか。
途中2回ほどちょっとした戦闘があったが、シルヴィアとレオナルドのおかげで切り抜けられた。
「「よかった。アル無事だったんだね」」
会場の中心部の人の集まりの外側には、ハルト兄さんとマルト兄さんがいた。
「ハルト兄さんにマルト兄さん。ここにいたんだね」
「すぐにアルの事を探したかったけど、これが騎士の仕事だから…。アルごめんね」
ハルト兄さんが申し訳なさそうに謝る。
「君たちも、アルを守ってくれてありがとう。あとは僕たちの仕事だから、休んでいて」
マルト兄さんはレオナルドとシルヴィアに話しかける。
会場の中心部付近には多くの人が集まっており、騎士たちも多くいてかなり安全といえる。
俺はひとまず助かったのだと、ホッとした。
「やばいやばい、なぜだ、なぜだ。計画はうまくいっていたはずなのに。どこに行ったんだ」
人込みの中には、ぶつぶつと不審な言葉を発している男がいるが、周囲の雑音に紛れていて、気に留める者はいなかった。
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