第4話
「ユーフィリア王女殿下、この度はおめでとうございます」
夜会が始まり、俺は父上たちと共に王族専用の席へきている。
「あら、アルベール。私たちの仲で、そんな他人行儀な挨拶をするの?」
「えぇ、ここは公の場ですからね」
幼い頃よりユーフィリアの遊び相手となっていた俺ではあるが、さすがに多くの貴族や騎士たちのいる中で粗相を起こせば打ち首になってもおかしくない。
「むぅ。じゃぁ、第一王女として命じます。他人行儀な挨拶はやめなさい!」
ユーフィリアは頬を膨らませ命令する。その姿は小動物のようだ。
「はいはい、少しの間だけな。ユーフィリア、お誕生日おめでとう」
王族の命令とあらば仕方ない。俺たちの会話が聞こえるところにいる騎士たちは、不服そうにしているが、王族の命令であるから何も言えずにいる。
口にはしないが、こんなことに王族の権威を使うなと言いたい。
「アルベール、ありがとっ!ねぇ?今年はプレゼントをくれないの?」
ユーフィリアは俺が口調を崩すと嬉しそうにする。
毎年手渡ししていたので、俺が何も持っていないことに気付いたユーフィリアは悲しそうだ。
「今回は手渡しが難しいかなと思ってさ。ちゃんとミリアに渡しといたから、後で確認して?」
「分かった。すぐ貰ってくる!」
ユーフィリアはそう言って会場の出口に向かおうとする。
「あっ、待って。今日の主役がすぐに抜け出してどうするのさ!」
俺は慌ててユーフィリアを引き留める。
「大丈夫。お花を摘みに行くって言えば許されるから」
確かに許されるだろうが、歴史上最速でトイレに行った女性として名を残すことになるかもしれない。
そんな不名誉な事になったら可哀そうだ。
「駄目だよ。ユーフィリアは歴代最速でお花を摘みに行った女性として、歴史に名を残すつもりなの?」
「でも、アルベールのプレゼントが今すぐに見たいんだもん!行かせてよ!」
「プレゼントは逃げないから、後からでもいいでしょ?今は我慢して?」
「むぅ、わかった。でも、落ち着いたらすぐに抜け出していい?」
ユーフィリアは少し上目遣いでそう懇願する。
何とか思いとどまってくれたが、その顔は可愛くて反則だと思う。
「落ち着いたらね、あまり早く行くのは駄目だよ」
よかった。ユーフィリアの不名誉は無事回避された。
いや、待てよ?俺の持ってきたのって鳥だったよな?逃げないとは限らないのでは?
大丈夫。きっと大丈夫。ちゃんと籠に入れてきたし大丈夫なはず。
俺は自分の持ってきたプレゼントを思い出して、内心焦ったのは内緒だ。
「相変わらずユフィはアルベールの事が好きなのだな」
そう言いながら、国王陛下のラインハートが話しかけてくる。
「お父様!」
急に声を掛けられたからびっくりしたのだろうか、ユーフィリアは声を荒げる。
「悪い悪い。二人があまりにも仲睦まじいから、つい言ってしまった。そうだ。レインフォリオ、お主の息子のアルベールの婚約相手にユフィはどうだろうか?」
「おぉ、それは光栄です。ユーフィリア様に釣り合うのは息子しかおりませんからな!」
他の貴族が言ったら無礼な言い分だが、陛下と父上は親友といっても差し支えのないくらいの間柄なので許されるのだろう。
それよりも、父上がすごく乗り気だ。このままだと俺のスローライフの夢が潰えてしまう。
無能とわかる前であれば飛んで喜んだだろう、なにせ初恋の相手であるのだから。しかし、今となっては無理な事だというのは言われなくても理解できる。
ユーフィリアも無能との婚約は嫌だろう。
ユーフィリアから何とか言ってくれと思い、チラリと彼女を見るが心ここにあらずといった感じで、「婚約、婚約、アルベールと婚約」とぶつぶつ呟いている。
駄目だ。頼りにならない。
自分で断るしかないな。俺は無礼打ちも覚悟の上に言葉を発する。
「恐れながら陛下、私は無能ですので、ユーフィリア様の隣にはふさわしくないかと。それにユーフィリア様には陛下のような幸せな婚姻をして頂きたいので、お断りさせていただけませんか?」
陛下の提案を断るなど言語道断だ。俺はいつ首を刎ねられるか内心冷や冷やしている。
「む、そうか。ユーフィリアすまぬ、アルベールとの婚約はまだ結べそうにない。違うプレゼントを用意するからそれで我慢してくれないか?」
「お父様。私こそわがままを言ってしまい申し訳ありませんでした。誕生日のプレゼントとしてお願いするようなことではありませんでしたね。やはりお父様やお母様のように、お互いに好意を持ってからでないといけませんね」
俺は、緊張のせいで二人が小さな声で話しているのは何となく分かったが内容は聞き取れなかった。
「レインフォリオ、そういうことだそうだ。婚約の話はなかったことにしよう」
「そうですか、承知しました。息子の無礼をお許しください」
「何気にするな。今日は祝いの席だ、楽しくやろうではないか」
「陛下、ありがとうございます。では、私たちはこれで失礼します」
よかった、俺の命はまだ続くようだ。
「これからはもっと攻めていくから、覚悟していてね」
ほっとしたのもつかぬ間、去り際にユーフィリアは俺の耳元でそう言った。
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