第3話
「エリオットの奴、次会ったらただじゃおかねぇ」
「私は次会う時まで待っていられないわ。レオ、今すぐにエリオットの奴を懲らしめに行くわよ」
「よし、分かった!シルヴィア行くぞ!」
精霊で俺とエリオットのやりとりを知った二人は我慢できないといった感じで、今すぐにでも飛び出して行きそうだ。まぁ、次も何も同じ会場内なのだからすぐに会えると思うけれど。
エリオットの実家であるオーグスト侯爵家は武の名門であり、シルヴィアの実家であるファレンティア侯爵家は魔法の名家である。
その中で子供の頃に剣の神童と呼ばれていたエリオットと魔法の申し子と呼ばれていたシルヴィアの実力は言わずもがな高いだろう
その上この二人は加減を知らないから、エリオットを誤って殺してしまうかもしれない。
「待って二人とも、エリオットはちょっと意地悪なとこもあるけどイイ奴だから、やめてあげて」
俺は二人を止める。
家を用意してくれているエリオットを失うのは、今後来るかもしれないスローライフに影響が出るかもしれないのだ。
「アル、あれだけ貶されて悔しくないのか?」
「そうよ。ほっておいたらさらに酷いこと言ってくるようになるわ。私たちに任して?生きていることを後悔するくらい痛めつけてやるから!」
俺の静止も二人には全然通じなない。
二人が俺の為に怒ってくれているのは分かるが、どうにか思いとどまってくれないかな?
「二人とも俺の為に怒ってくれてありがとう。でも、俺は気にしてないから大丈夫だよ。二人が相手だとエリオットがかわいそうだから、やめてあげて?ね?」
俺は必死にエリオットの事を庇う。
「アルがそこまで言うのなら、今すぐはやめといてやるか」
「そうね、アルに頼まれたら断れないものね」
しぶしぶといった感じだが、二人とも納得してくれたので良かった。
とりあえず今日はエリオットの近くには行かないようにしておこう。
「分かってくれてありがとう。あっ、そろそろ王族の方々がいらっしゃるみたいだね。じゃ、二人ともまた後でね」
会場を見渡せば父上や兄たちがいつの間にか会場入りしていた。それに、自然と会場が落ち着いて来ているのでそろそろ王族の入場なのだろう。
俺はレオナルドとシルヴィアから離れ、真っすぐに父上たちの所へ急ぐ。始まったら家格の高い家から王族に挨拶しに行く必要があるので、父上たちと合流しておかないと他の貴族達に迷惑をかけてしまうのだ。
「おぉ、アル、ちゃんと来たか。よかったよかった」
父上は人垣をかき分けるようにして来た俺を見つけて安心したようだ。
父上の名はレインフォリオで、ここアステット王国の騎士団の団長を務めている。
また、コネや人脈ではなく純粋な実力でその地位に就いたと言われている。
「あなた、私がいるのですからアル君も来ているに決まっているじゃない。私がアル君を置いてくると思っているのかしら?」
父上のそばにすでに控えていた母上が少し怒ったような口調で言う。
誤解のないように行っておくが、母上の発言は俺が母上と一緒に来る予定だったという事からの発言ではない。
俺が出ない社交界など出ないと母上は豪語していて、一度だけ俺が逃げ切り、社交界を休んだ時には宣言通り母上は社交界に出なかった。
俺がいれば母上もいて、母上がいるなら俺もいるという事なのだ。
「いや、そのような事は思っていないが、やはり心配になってしまうものなのだ」
「そこがあなたの良いところだわ。ここでアル君なんて心配しないって言われたら、あなたの事刺し殺していたでしょうね」
「父上、母上、遅くなり申し訳ございません」
父上のところまでたどり着いた俺は、すでに一家が勢ぞろいしていることに気付き謝罪する。
「なに気にすることはない」
「そうよ、アル君のためなら私は何年でも待てるのだから、気にしなくていいわ」
父上と母上は優しく微笑みながら言う。
「「やぁアル、元気そうでよかったよ」」
「ハルト兄さん、マルト兄さん、お久しぶりです。兄さんたちも元気そうでよかったです。あれ?兄さんたち、騎士のお仕事は?」
ハルト兄さんとマルト兄さんは双子で二人とも騎士団に所属している。
騎士団の寮で暮らしていて、なかなか会うことができない。
前に会ったのは半年くらい前だっただろうか。
他の騎士の人たちは警備で忙しそうにしているのに兄さんたちは良いのだろうか。
「いや、今日は貴族として参加しつつ騎士として仕事もするんだ」
「そうだよ、参加者に紛れて何人かが警備するんだ。覆面騎士とか言われたりするね」
ハルト兄さんが答えて、マルト兄さんが補足する。双子だからか息ぴったりだ。
おれはハルト兄さんとマルト兄さんの見分けは髪の分け目でしかできない。右分けがハルト兄さんで左分けがマルト兄さんだ。
小さいころ分け目を交換した兄さんたちを間違えてしまって悲しまれた事がある。
その後で、他の特徴を一生懸命に探したが見つからなかった。
「では、今日は近くに兄さん達がいるので安心ですね」
王城の中で何か起こるという事はないだろうが、兄さんたちが近くにいるなら安心だろう。
兄さん達は一人ずつでも強いが、二人揃えば国内最強なのではないかと囁かれているくらい剣と魔法に優れているからね。
「「アルはうれしいことを言ってくれるね。アルの事は僕たちがしっかりと守るからね!」」
そんな感じで家族と楽しく話していると、王族専用の扉が開き始める。
ようやく王族の入場だ。先ほどまで各々話していたが貴族たちも声を潜め、緊張感が生まれる。
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