天使

モナムール

第1話

透明な眼球が、空を俯瞰していた。

空より、高い場所から。

そこには風が吹くより、ほかになく。


だからか、この少女はいつも風の音を聞いて育った。

宇宙の、より暗き世界

眼下の青い空。移り変わる、雲の波。


その町はシルビオといった。昔は穏やかに暮らしていたらしいけど、今では文明が開花して工業地帯に変わった。新聞ではその栄華を喧伝している。


この国はいつも曇り空だった。晴れ間は偶に。

ヨアンという名の少女はそんな激動の時代に生誕した。


17歳になる頃、背中が腫れるようになったけど、ヨアンは隠していた。異端視、されるのが怖かったのだ。


昔から、身の回りの人間はヨアンを不気味な子とした。


この地方には天使教がある。

その大昔、洪水という大変動がありし時、天使が現れ、よき人間に翼を授け、悪しき人間は亡び、

また人々は新しい大地で暮らしたという、言い伝えがある。


その日、ヨアンは教会で祈っていた。

彼女の、眼には暗い罅だらけのステンドグラスが、映る。

視線を転じる、と天使の少し、崩れかけた像がある。


そうなのだ。もうこの教会にはだれも訪れない。

理由は、よくわからないけれど、これも時代の趨勢だろうか。

町には時計塔が設置されて、みんな仕事に忙しい。

機械化された、文明は秒刻みのスケジュールを必要とする。

ヨアンも来年になったら大人の儀式に参加して、仕事に忙しなくなる。

そうしたら、もうここに来れる時間も。

ふいに思い出した、そうだ、来年にもこの教会は取り壊されるんだった。


沈むように祈る時、私は次第に風の音を聞く。

だんだんと、視界は透明になって気がつくと空より遥かに遠くから地上を眺めている。


私は目を瞑る。落ちてゆく感覚に委ねながら。


翌日、目を覚ました時、翼が背中から生えていた。

ヨアンはふいに、泣き叫んだ。

雨が、降り出した。

扉を開けて、灰の空より、遠くに羽ばたいて。


空を往く風の孤独が、私の半身だと、ふいに


その瞬間だった。視界に火花が飛んだ

飛行船が規則正しく並んだまま、鉄砲を撃ちだした。


落ちてゆくまま。

ヨアンは微笑んだ。


ああ、風が吹いている。

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天使 モナムール @gmapyon

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