第168話.芽生えた自信
「おぉ、ご無事でしたか、陛下!」
遠方からハイネス将軍が駆け寄ってくる。
「あぁ。来てくれて助かったよ。ハイネス将軍」
久々に対面することとなった、ハイネス将軍とリガル。
リガルの無事に安堵するハイネス将軍に対して、リガルは礼を言う。
再会の喜びを、じっくりと分かち合いたいところだが、今はそんな呑気な状況ではない。
「さて、それはそうと、ゆっくりもしていられないので、早速仕掛けるぞ。ハイネス将軍には色々と聞きたいことが残っているが、それはひとまず後だ」
「……! 分かっています」
リガルの言葉に、ハイネス将軍はリガルの「聞きたいこと」というのを察したか、一瞬頬を引き
恐らく、リガルの聞きたいことというのは、ポール将軍を無断で自由にしたことだろう。
それについてはポール将軍自身も、許されない事だと分かっている。
元より罰を受ける覚悟はあった。
そのため、甘んじて受け入れようと、大人しく頷く。
そして、そのことは一旦頭の隅に追いやる。
今集中すべきは、目の前の敵だ。
まぁ最も、リガルに罰を受けると言うのは、完全なるハイネス将軍の思い込みで、リガルには処罰するつもりなど全く無かったのだが。
ハイネス将軍が、ロドグリス王国にその身の全てを捧げる覚悟を持つような、社畜精神を持った人間であることは、リガルもよく知っている。
いや、会社ではなく国家に仕えているのだから、社畜ではなく国畜だろうか。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
とにかくそんな訳でリガルは、ハイネス将軍がどんな行動を取ったとしても、それが国に
悪意を持っていない人間を処罰するなど、あまりに無意味だ。
まぁ時折、悪意無く迷惑行為を行う地雷人間もいるため、一概に悪意が無いからと言って全ての行為を
ただ、ハイネス将軍は、地雷人間ではないので問題ない。
もしくは、これまでずっと悪意をひた隠して来た可能性もある。
まぁ、御年40歳になるハイネス将軍が、これまでずっと悪意を隠して続けてきたとは考えづらい。
20年以上帝国に仕えていて、全くボロを出さなかったという事になるのだから。
もしもこれが現実となったら、リガルはむしろ賞賛したくなるほどだ。
まさしく、是非も無しと言ったところだろう。
まぁ、そんな可能性が低すぎる仮定は置いておいて……。
とにかくそんな訳で、リガルは今回の件について怒っている訳でなく、こんなことをした動機を、純粋に聞きたいだけなのだ。
しかし、今はその話は後回し。
ハイネス将軍もそう分かっているのか、この話については尋ね返したりすることはなく、遠方に見える帝国軍の方に向き直る。
「さて、それじゃあとりあえず真正面からぶつかってみようか。これだけの戦力が整えば、真正面からやり合ってもそう簡単には押し負けないはずだ」
「なるほど。確かにそれも
リガルの言葉に頷くハイネス将軍。
一見、兵力の上で負けているのに、真正面から戦うなんて、バカなんじゃないかと思うかもしれない。
しかも、地形も普通の平地で、特にリガルたちに有利な訳でもない。
実際、普通なら愚策と言えるだろう。
そう、
確かに、リガルたちロドグリス王国軍は、未だ兵力の上で帝国軍に大きく水をあけられている。
しかし、逆にそれ以外の要素では勝っているのだ。
まず、兵の質。
これは言うまでも無いだろう。
ロドグリス王国軍は世界でもトップレベルの軍隊だ。
それが、今は休息も十分に取って、本領を発揮できる。
もしもこの戦いが同数であったならば、間違いなく帝国軍を圧倒する事ができるはずだ。
そして、もう一つ帝国軍よりも優れている要素がある。
これも言うまでもない事で、指揮官の差だ。
これまでの戦いぶりからして、帝国軍の指揮官は平凡以下。
それに対して、ロドグリス王国軍側は、リガルとポール将軍がいる。
後、ハイネス将軍も。
この3人は、誰もが一流の将と言って良い能力を持っている。
だから、敢えて一番あり得ないような選択肢である、真正面からの攻撃というのを、
もちろん、失敗するリスクはあるが、それはそこまで大きいリスクではない。
逆に敵に隙が生まれるリターンも得られる可能性があることを考えれば、それほど悪い一手でもないだろう。
「よし、じゃあとりあえずハイネス将軍は、元々持っていたその1500の兵で左翼を指揮してくれ」
「分かりました。お任せください」
「あぁ、頼むよ」
リガルは軽いノリでハイネス将軍に指示を出す。
今回は、部隊を分けるわけではないが、指揮だけはハイネス将軍に任せる様だ。
当たり前のことだが、兵の指揮というのは大人数になればなるほど難しくなる。
管理しなければならない人数が増えるのだから。
もちろん、リガルの実力なら4500人だろうが3000人だろうが、問題なく指揮は執れるが、ミスをするリスクは人数が多い方が多少高まる。
だったら、せっかくいるハイネス将軍という優秀な指揮官を、使わない手は無い。
ということで、2人はそれぞれ自分の持ち場へと離れていく。
「よし、さっさと陣形を整えますか」
それから少しして、リガルがそう呟いた。
今は、リガルという援軍がやってきたのを見て、帝国軍は一度態勢を立て直そうとしているところだ。
そのため、慌てて陣形を整えなくてはならないという程、切迫した状況ではない。
だからこそ、これまでリガルは割とのんびりと戦いの準備を進めていたわけだが。
とはいえ、それもそろそろタイムリミットだろう。
向こうもそろそろ仕掛けたいはずだ。
リガルとしては、速攻で準備を整えて、敵よりも先に攻めたいところである。
そんな訳で数十分後。
リガルとハイネス将軍は陣形を整え終わり、すでにいつでも戦う準備が出来た。
また、少し離れた場所に控えるポール将軍は、とうの昔に陣形など構築し終えていた。
後歯リガルたちの方の準備が整うのを待つのみだったようで、そっちの方は心配ない。
しかし、対する帝国軍も、準備はすでに整ったようだ。
というより、帝国軍はロドグリス王国軍の準備が完了する前に、陣形を整え終えていたのだが、襲い掛かってこなかった。
陣形を整えている最中という、隙がある場面で仕掛けられたら、リガルとしても面倒だった。
そのため、流石にのんびりしすぎたかと、後悔したものである。
だが、結果は見ての通り。
帝国軍はロドグリス王国軍を警戒するばかりで、迎え撃つ準備まではしても、決して自分たちから仕掛けようとはしていない。
それが、何か狙いがあっての事ならば、それも良いかもしれない。
だが、単に臆しているだけなのだから、世話が無いと言える。
(能力だけでも負けてるのに、
客観的に見れば、今回リガルが敗北寸前まで追い込まれたのは必然であり、仕方が無いことだと、誰もが口を揃えて言うだろう。
だが、それでもポール将軍に勝利し、自信が芽生えて来ていたリガルにとっては、今回帝国軍に追いつめられたことは、かなり屈辱的な出来事であった。
とはいえ、そんなことを今思っても仕方がない。
負けは取り消すことが出来ないし、取り返すことも出来ない。
圧倒的な勝利を納めようと、その後何度勝利しようと、一敗は一敗。
だったらその悔しさは……。
(思う存分戦いの中で
――これからの戦いでその怒りをぶつけてやればいい。
そんな、だいぶ脳筋な発想に至るリガルであった。
かくして、戦いの幕が上がった。
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