第8話.デュエル開始!?

「よーし、先攻は貰ったぁ! 俺のターン!」


 手札を並べ替えていると、グレンが突然、一番最初にカードを出す。


 当然これには一同……。


「ちょっと! なぁにが『先攻は貰ったぁ』ですか! ふざけないでくだ……って。ぷっ。ふふふ」


 グレンの暴挙に、まず怒りの声を上げたのはイリア。


 しかし、言葉の途中でイリアが笑いだす。


 その理由は……。


「んふふふふ! グレン、一番最初からAエースって!」


 大富豪において、一番最初に出すのは、弱いカードが基本。


 普通のルールの場合、革命や11バックのケアをして、3は残すとしても、4や5を出すだろう。


 だというのに、グレンが出したのは、スペードのAエース


 イリアとリガルが笑いだすのも無理はない。


 こう見えてグレンも、第二王子なので、立場の低いレイは笑いをこらえようとしているが、傍から見てもこらえきれていない。


「な、なんだよ!」


 焦ったように、少し荒く声を上げるグレン。


「いや、グレンってば、お兄様の説明聞いてなかったんですか? 一番弱いのは、1じゃなくて3ですよ」


「え、あ、そ、そうだった……。ははは」


「やり直すのは無しですよ?」


 自分のミスに気が付き、出してしまったAエースを戻そうと手を伸ばすも、それを察知したイリアにぴしゃりと止められてしまう。


「わ、分かってるって! んなせこいことするつもりねぇよ!」


 誰が見ても、戻すつもりだったのは明らか。


 しかし、イリアもリガルも、それを指摘するのは勘弁してあげるようだ。


 もっとも、ニヤニヤとした表情は浮かべているが。


「クッソー……。バカにしやがって……」


 その後は、平穏にカードの投げ合いが続き、試合は終盤の様相を呈してきた。


 レイの手札は4枚、イリアの手札は7枚、リガルの手札は4枚、グレンの手札が2枚。


 一見、アホのグレンが優勢に見えるが、大富豪において、カードの残り枚数で有利不利を断定するのは間違っている。


 グレンはちゃんとアホなので、序盤から強いカードを温存することなく、出せるカードを出せるときに出してきた。


 時には、3枚組や4枚組の札をばらしたりもしている。


 そのため、恐らく残った2枚は弱いカードが1枚ずつだろう。


 対して、リガルの手札は13が二枚に、3とエースが一枚ずつ。


 2が残っていないのが少し痛いが、戦える手札ではある。


「9の二枚組です」


「私は12の二枚組です!」


(来た!)


 イリアとレイが二枚組のカードを切る。


 勝負にきたようだ。


 しかし、リガルは手札に13の二枚組を持っている。


 これに、全員が勝てなければ、リガルあるは3を切ってエースで待つことが出来る。


 2とJOKERが全て場に出ていれば、エースから出して勝ちだが、残念ながらまだ2が二枚見えていない。


「13の二枚組!」


 リガルは祈るように、力強く場に2枚の紙きれを出す。


「クソー。パスだ」


 アホのグレンは、当然パス。


 問題はここから。


「うーん、パスです」


 イリアはクリア。


 残るは……。


「私もパスです」


(よしっ!)


 元高校生だというのに、心の中でめちゃくちゃ喜んでしまっているリガルだが、とにかく祈りが通じて勝ち筋が見えてくる。


「3だ」


 これで、グレンが2を持っていたら終わりではあるが、グレンに限ってそれはないだろうという少しメタい読みである。


 そしてそれは的中し……。


「やった! 6!」


 案の定持っている札は小さな数字だ。


 これなら、いくらグレンの手札が残り1枚だとしても負けることは無いだろう。


 リガルはすでにグレンなど眼中にない。


 その後の2人の動向が気になる。


「11です」


 イリアはクリア。


 これで、レイの手から、13以下のカードが零れれば、リガルの勝利である。


(頼む……!)


 しかし、そうは問屋が卸さない。


「2です」


 残った2枚の2のうち、1枚がここで切られる。


 まぁ、これくらいは、リガルも分かっていたことだ。


「パスだ」


 JOKERはすでに切られているので、当然全員パス。


 レイに手番が回ってくる。


 レイのカードは残り1枚。


「これで上がりですね」


 レイがにっこりと笑って、残った最後のカードを場に出す。


(負けたか。でも、これで俺は2番だ)


 レイが最後に出したカードは4。


 リガルの手札に残るのは、1。


「くっそー。パス」


 グレンは当然パス。


 これを上回る数、2を持っていなければ、自動的に手番がグレンに移って、イリアの敗北となってしまうが……。


「2です」


 1枚だけまだ2は残っている。


 そして、これ以上の数字は残っていない。


 当然……。


「……パス」


「5の二枚組です。やっぱりグレンが最下位でしたね」


「くそぉぉぉ!」


 試合は決着した。


 しかし、リガルは違和感を感じていた。


(何かがおかしい……)


 リガルが3を出した時、状況はグレンの手札が2枚、リガルの手札が1枚、イリアの手札が4枚、レイの手札が2枚だ。


 その後、グレンは手札を切って1枚となり、イリアは11を出した。


 しかし、この11を出す手が、どう考えてもおかしい。


 イリアの手札は、この時11が一枚、2が一枚、5が二枚だ。


 ここで問題になってくるのが、残った一枚の2は誰の手にあるかだ。


 しかし、これは簡単にわかる。


 グレンとリガルはあり得ない。


 2を最後に出すのは反則だ。


 となると、残ったレイしかない。


 つまり、この時点で、レイの手札に二枚組が無いことが確定している。


 だから、リガルが3を出した時点で、イリアは2を出せば勝てていたのだ。


 2を出して手番を貰い、その次に二枚組の5を出せば、それに対抗できる人間は誰もいないのだから。


(読み逃し? まぁ、そこそこ複雑だし、子供じゃあの勝ち筋は逃してもおかしくないか)


 辛うじて、違和感に納得がいったリガル。


 それじゃあ次の試合を……、とリガルが思っていたところで……。


「てか! イリアお前、偉そうに言っておきながら3位じゃねぇか! しかも僅差の!」


「手札の枚数だけで『僅差』とか言ってるから、グレンはアホなんですよ」


「なんだと!」


 再びいつもの騒ぎをおこす2人。


(この2人は本当に仲がいいな……)


 どこか遠い目で2人の様子を見つめるリガル。


 しかし……。


「てか、グレンの事なんてどうでもいいんですよ。それよりもお兄様」


 グレンといつもの言い争いを繰り広げているかと思ったら、突然にイリアの矛先がリガルに向く。


「ん?」


「発案者だというのに、あまり大した実力じゃありませんね。これならお兄様に勝てちゃうかもなー……なーんて」


 イリアは、挑戦的な笑みを浮かべながら、リガルに言う。


 これには、リガルも黙っていない。


 いかに可愛い妹でも、兄の威厳という物は守らなくてはならないのである。


「へぇ……。そこまで言うなら、少し本気を出させてもらおうかな」


 リガルもその挑発を受けて立つ。


(どこか得体の知れなさがあるものの、あの程度の読みを見逃すような実力なら、返り討ちだ)


 そして、カードをまとめてシャッフルを始めた。


 リガルの放った、「本気を出す」という言葉は嘘ではない。


 かといって、さっきまでのに、本気を出していなかったわけではない。


 一見矛盾してるように思えるが、そんなことはない。


 これからリガルが行おうとしているのは、ディール中のイカサマだ。


 幼女相手に何をムキになっているんだ、といった感じではあるが。


 イカサマといっても、やり方は非常に簡単だ。


 まず、JOKERが一番上に来るように、カードを集める。


 そのまま裏返すと、今度はJOKERが一番下に来る。


 この状態で、デック(カジノ用語で、トランプの束の事を指す)を左手に持つ。


 その後、デックの下側4/5ほどを右手に取る。


 そして、右手に持った束の上にある何枚かを左手に持った束に移す。


 また、何枚か取り、移す。


 それを繰り返す。


 ここまでは、普通のシャッフルである。


 だが、重要なのは、これを左手に持った束が1枚になるまで繰り返すことだ。


 つまり、左手にJOKERだけが残る状態にするということだ。


 すると、あら不思議(当たり前すぎるんだけど)。


 なんと、JOKERがデックのトップに来るではありませんか。


 しかし、1回しかカットしないのは、怪しすぎるので、もう少しカットする。


 今度は、右手にある束のうち、一番上一枚を除いて、残りの全てを左手で抜き取る。


 あとは、そのまま適当にシャッフルすればいいだけ。


 すると、一番下にJOKERが来る。


 後は、これを繰り返せば、好きな回数シャッフルしつつ、好きなカードをデックのトップに持ってくることができるのだ。


(ふふふ、これでJOKERが俺の元に……。イリア、悪く思わないでくれ。挑発したりするのが悪いんだもんねー)


 リガルは、5回ほどシャッフルをしてから、自分を最初にしてカードを配り始める。


 配り終えると、すぐさまJOKERが入っているかを確認し……。


(よし、当然JOKERがある。しかも、2が一枚に、1が三枚! これは流石に勝ったんじゃないか?)


 しかも、それに加えて3や4といった弱いカードもない。


 手札がかなり強いことに気が付き、早速勝利を確信する。


 革命がないこのルールにおいて、初手の強さは絶対的。


 リガルの判断は間違っていない。


 残りの2が三枚とも誰か1人の手に偏っていたり、四枚組を1人がいくつも持っていたりしない限り、負けることはほぼあり得ない。


「負けたグレンが一番最初でいいぞ」


 リガルがそう言うと……。


「弱者には慈悲を……ってことですね? お兄様!」


 グレンの方をチラリと見やりながら、リガルに話しかける。


 こういう、すぐに人を挑発したりするところは、やはり子供らしい。


「なんだとイリアぁ……!」


「はいはい、さぁグレン、初めて。イリアもあんまり煽らないように」


 いい加減このやりとりも、くどくなってきたので、リガルが制してさっさとグレンにゲームを始めるように促す。


「くっ……。兄上がそう言うなら」


「……すみません。お兄様」


 リガルの言葉には、グレンもイリアも従ってくれるのが唯一の救いだろう。


「じゃあ、2回戦のスタートだ!」


 そして、リガルの言葉によって、2回戦の幕が上がった。

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