第6話.リガルの実力
「へぇ、随分と自信満々なご様子ですね?」
少し挑発気味にリガルに声を掛けるレイ。
完全に
戦闘狂過ぎて、戦闘の事になると、理性を半分くらい失ってしまうようだ。
自分の主がリガルであったことが、幸いといったところだろう。
「まぁね」
リガルは軽く笑って受け流す。
「それでは、両者とも決闘のルールは頭に入っていますね?」
準備が出来たところで、審判役である講師がレイとリガルの2人に尋ねる。
「はい」
「え、あ、……はい!」
決闘のルールと言われて、リガルは一瞬「何のことだ?」と思ったが、記憶を掘り起こしてすぐに理解した。
――決闘のルール。
と言っても、地球における武道のように、禁止事項などがあるわけではない。
決闘は第三者の介入以外ならば、なんでもありだ。
そこらへんに転がっている石を、投げつけたりするのも問題ない。
もっとも、あまりに卑怯な手は
そのため、禁止事項という意味でのルールではない。
この場合、勝敗の付け方と言った方が正しいかもしれない。
本来、戦闘の決着は、当然どちらかの死ということになる。
しかし、決闘では、威力が出ない決闘用の杖を使用する。
だから死はあり得ない。
そこで、決闘では被弾した場合、死という判定になる。
だが、ここで問題が発生する。
攻撃用魔術にも、性能差が当然存在する。
例えば、ファイヤーボールは、弾速が遅い代わりに威力が高く、攻撃範囲が広い。
それに対して、ウィンドバレットは、弾速が早くて射程もそこそこ長いが、威力はかなり低い。
そんな2つの魔術のどちらを受けても、同じ死亡判定を受けるのはおかしいだろう。
実際、通常のウィンドバレット程度の魔術なら、実戦で被弾してしまっても、心臓部や頭部でない限り、大したダメージにはならない。
そこで、全ての攻撃魔術に、攻撃力を数値で設定し、合計10ダメージを受けたら死亡ということにしたのだ。
「それでは、構えてください」
講師の言葉に、レイとリガルは、互いに10mほど離れた距離に位置取り、戦う構えを取る。
それを確認した、講師がカウントダウンを開始した。
「3、2、1……」
2人の間で緊張感が高まる。
そして……。
「
戦いの始まりを告げる言葉が、審判役である講師の口から紡がれる。
それと同時に、2人が動き出す。
レイは、ファイヤーボールを連続で打ち出しながら、リガルに迫る。
対するリガルは、最初から距離を詰めることは無く、アースウォールを連続で使い、遮蔽物を複数創り出していく。
「くっ、そんな防御に偏った戦闘スタイルなんですね……」
やりづらそうに、レイが呟く。
しかし、リガルにとっては、それは心外な台詞だった。
確かに、リガルは防御魔術であるアースウォールを連発したが、防御に徹しているつもりは微塵もない。
むしろこれは、リガルにとって攻めの一手である。
「それはどうかな?」
突如、アースウォールによって生成された岩壁から、リガルがレイの前に姿を現す。
(距離はそこそこ近い。これなら貰った!)
リガルはファイヤーストームを放つ。
「……!」
しかし、間一髪のところで反応したレイに、避けられてしまう。
(クソ、はずしたか……!)
慌てて、一歩下がってアースウォールで作った岩壁の陰に隠れる。
止まっていては、居場所がバレてしまうので、その後もアースウォールをどんどん連発して、遮蔽物を作り、追撃しづらいようにする。
そして、ひとまず安泰となったところで、さきほどの失敗を悔やんだ。
(あそこはファイヤーストームではなく、ウォーターアロウで確実にダメージを与えるべきだったか)
ファイヤーストームは、射程がかなり短いが、その代わり当たれば必殺。
10ダメージだ。
それに対して、ウォーターアロウは複数の矢を放つ魔法だが、当たった矢一本につき、1ダメージしか与えられない。
上振れて複数本一気に刺さったとしても、せいぜい3ダメージくらいが限界だ。
そのため、リガルは勝ちを急いでしまったのだ。
(いや、反省は終わりだ。次からはじっくり攻めるとしよう)
その後は、距離を取って、ウィンドバレットでチクチク攻撃する作戦に出るリガル。
だが、速度が速いウィンドバレットと言えど、20m以上の距離を取っているため、中々当てることが出来ない。
しかし、それは決してリガルにとって無意味な行動ではなかった。
何故なら、リガルはこの膠着状態の間に、魔術での戦い方について、段々と理解し始めていたのだ。
(分かってきたぞ。FPSと、魔術戦闘の違いが)
例えば、速度の違いだ。
銃弾の初速は、遅い物でも時速1000㎞を余裕で超える。
それに対して、攻撃魔術の中で最も弾速が早いウィンドバレットですら、時速200㎞弱しか出ない。
時速200㎞と聞くと、随分と早く聞こえるかもしれない。
しかし、プロ野球のピッチャーが投げる豪速球が150㎞程度であることを考えると、ウィンドバレットの遅さが伝わるだろう。
つまり、何が言いたいかというと、距離が10m以上離れていると、どんな魔術でも結構簡単に躱されてしまうのだ。
FPSで、銃弾を反応して避けることは不可能だ。
だから、相手に狙いを絞らせないようにして、被弾を減らす「レレレ撃ち」などの技術が重要になってくる。
しかし、そんなことをせずとも、反応して避けることが可能ならば、そんな技術は全く必要ない。
当然であるが、全てのFPSの技術が使えるわけではないのだ。
(けど、それならそれでやりようはある)
リガルは頭の中で、新たな作戦を考える。
そして動き出した。
すでに周囲は、アースウォールによって創り出した岩壁だらけだ。
この岩壁は、時間経過によって消えてしまうが、リガルはそれよりも早く創っている。
リガルは、家の中だったり、小さな建物が沢山あるような場所での戦闘を、最も得意としていた。
そして、レイは逃げるリガルを真っすぐ追って、このアースウォール地帯に踏み入っている。
つまり、リガルのホームグラウンドが、戦いの舞台になるという訳だ。
リガルは思っていた。
魔術単体の技術では、自分はレイよりも劣っているだろうと。
しかし、レイはあまりに頭を使った戦闘というものを知らなすぎる。
(教えてあげるよ。立ち回りの重要性をね!)
逃げるのをやめて、レイの魔力を探ることに意識を向ける。
実は、魔力というのは、感覚を研ぎ澄ますことで感知することができる。
つまり、敵の位置はおおよそではあるが分かるわけだ。
FPSの足音の代わりのようなものだ。
数秒ほど経過しただろうか。
(大体位置は把握できた)
リガルが再び動き出す。
そして、ついにリガルがレイの姿を捉えた。
「「見つけた!」」
だが、レイとてリガルの位置くらい補足していた。
アースウォール一枚を挟んで向かい合う。
距離は5mほど。
すぐにレイがファイヤーボールを打ち込んでくる。
リガルはそれを、アースウォールの陰に隠れることによって、回避する。
そして、リガルもすぐさまアースウォールの右側からひょっこりと顔を出し、牽制としてウォーターアロウを撃ち返す。
これには流石のレイも、たまらずリガルのアースウォールを利用して射線を切る。
それに対して、今度は左側から顔を出すリガル。
「……!」
さきほど、右側からの射線を切るために、大きく左側に移動していたレイは、これを避けきれない。
水の矢を2発体に受けて、残りライフが8となる。
(さてはレイのやつ、防御魔術をセットしてないな?)
今の状況でも、防御行動を行わなかったのを見て、リガルはそう確信する。
(これは簡単に決着が着きそうだな)
今度は右側から顔を出して、またウォーターアロウ。
そしてその次は左側から。
レイはこれに対応できず、ライフが3まで減らされてしまう。
だが、レイもいつまでも同じ手が通用する相手ではない。
「もうその手は覚えましたよ!」
ここまで、右、左、右、左と交互に来たので、今度は右に来る。
そう予想をつけて、リガルが顔を出す直前に、岩壁の右側にファイヤーボールを打ち込む。
もしもこれが頭や心臓に直撃すれば終わりだ。
「うまい……!」
審判として、決闘を眺めていた講師も声が出る。
勝負あったか。
そう、この場の全員が思った。
ただし、リガルを除いて。
「残念! そう来ることくらい予想済み!」
リガルが顔を出したのは、岩壁の右側ではなかった。
そして、左側ですらない。
「え……」
一体どこに……。
そう、レイが思って視線を
待ち構えていれば、避けることが出来たかもしれない。
しかし、完全に不意を突かれたレイに、弾速が最も早い攻撃魔術であるウィンドバレットを躱す余裕はなかった。
仮に、防御魔術を杖にセットしていたとしても、防御行動を行うことは出来なかっただろう。
それほどに、リガルの攻撃は完璧に決まっていた。
レイの身体にウィンドバレットが3発ヒットする。
攻撃力特化であるウィンドバレット(type2)のダメージ量は2。
レイの残りライフは、さっきの時点で3だった。
つまり、今の合計6ダメージを受けて、残りライフは0である。
「それまで! 勝者! リガル殿下!」
決闘の終了を告げる、審判の講師の言葉が、訓練場内に響く。
「右でもなく、左でもなく。まさかの上とは……。あまりに予想外でした……」
悔しそうに呟くレイ。
そう、リガルはあの時、右でも左でもなく、アースウォールで出した岩壁の上によじ登り、攻撃したのだ。
リガルの前だから抑えているが、今にも暴れ出しそうなほどに拳をギュッと握りしめている。
可愛い見た目とは裏腹に、相当な負けず嫌いのようだ。
そんなレイの様子を見て、少し意地悪をしたくなったリガルは……。
「
得意げな表情で、レイにアドバイスを送る。
「……まぐれで勝っただけでいい気にならないでください」
リガルに負けて、おまけにドヤ顔で敗因を指摘されたことで、完全に不機嫌になってしまったレイ。
下っ端の悪役キャラが言いそうな、かなり失礼な台詞をリガルに言ってしまう。
もはや、ここには朝に「一緒に食事を取るなんて恐れ多い」などと言っていたレイはどこにもいないようだ。
こっちの方が年相応で、第三者からすると微笑ましいが。
「ははは、それはどうかな?」
そして、もちろんリガルは、それに不快感を示したりはしない。
実に楽しそうに、笑って受け流すのだった。
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