FPSガチ勢の俺が異世界の小国の王子に転生しました! ~ゲームの知識を生かして世界最強の大国へと成長させます~
不知火 翔
第1章.転生編
第1話.転生
無駄に広い室内。
精巧な模様が描かれた、材質の良さそうなカーテンがかかった窓からは、淡い陽光が差し込んでいる。
天井には光を放っていないシャンデリアが2つほど吊るされていて、壁には黄金の額縁に入った絵画がいくつか飾られていた。
肝心の室内の家具はというと、高級そうな椅子と机が何セットか。
そして、全体的に高級感を漂わせる装飾や家具の数々の中で、ひときわ存在感を放つ、天蓋付きの大きなベッドがあった。
「リガル殿下、起きてください。リガル殿下」
室内に、少女の透き通った綺麗な高い声が響き渡る。
声を掛けたのは、先ほど話した天蓋付きのベッドで眠る少年だった。
「んっ……」
少女の声に目を覚ましたのか、少年は薄く目を開けて声の聞こえる方を向いた。
「って……え?」
だがその瞬間、少年は眠そうな目を大きく開いて、ガバリと体を起こした。
一体何がどうなっている?
そんな間抜けな疑問が少年――
こんなメイド服を着た少女は見たことがなかった。
妹がいるわけでもないので、妹が変装していたなどという、しょうもないオチでもない。
夢か何かかと思い、目を擦ったり頬を叩いたりもしてみたが、効果はない。
少女は、そんな想也の様子に呆れたように……。
「もう、まだ寝ぼけてるんですか? いい加減起きてください。もう朝食も出来ているのですから」
声を掛けられて、想也は改めてそのメイド服姿の少女に目をやる。
(やっぱり見覚えがない。てか、よく見たらめちゃくちゃ幼くないか? 小学校低学年くらい……。少女と言うよりも幼女だよな……。こんなところを親にでも見られたら大変なんてレベルじゃないぞ……)
想也には、全く身に覚えのないことだが、第三者から見れば、想也が部屋に幼女を連れ込んでいるとも捉えられかねない。
そう考え、早急にこの事態を収めようと想也は動き出す。
「あ、あの、あなたは……?」
まずはこの子が何者かを知ることからだ。
自分よりもかなり年下である彼女に「あなた」というのも変な言い方だ。
だが、かといって初対面の異性に、「君」などと言えるほどの度胸を、想也は持ち合わせていなかった。
しかし……。
「またふざけてるんですか? もう起きる時間だって言ってるのに……」
(いやいや、ふざけてるのはどっちよ……)
お手上げとしか言いようがないこの状況に、想也は頭を抱える。
だが、そんなことをしていても状況は好転しない。
(てか、そういえばこの場所もおかしいんだよな。俺の部屋じゃないどころか、一般家庭の部屋ですらなさそうだし。まずは少し部屋を出てみるか)
結局、想也は少女の方を後回しにして、もう一つの方の問題の解決を試みる。
ベッドから降りて、扉の方へ向かう。
しかし……。
バタッ。
ベッドを降りて一歩を踏み出したところで身体の感覚がいつもと異なり、こけてしまった。
「いってぇ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
立ち上がろうとすると、すぐに少女が寄ってきて心配そうに声を掛けた。
「だ、大丈夫……」
醜態を披露した挙句に、こんな年下の女の子に心配されて、泣きたい気持ちになった想也だったが、心を強く持って再び歩き出す。
(クッソ、なんだこれ? 自分の身体がまるで自分のモノじゃないみたいだ。しかもなんか部屋の物がやけにデカく見えないか?)
今度はふらつきながらもこけることなく歩き出すことが出来た。
そんな想也の様子を心配そうに見ながら、少女はその後を追う。
しかし、想也としては少女についてこられたら困る。
先述したように、見知らぬ幼女と一緒にいる状況など、目撃されるというだけでたまらないからだ。
「あ、あのさ、別についてきてくれなくても大丈夫なんだけど……」
想也は、何とか少女に「ついてくるな」という意味を、オブラートに包んだ上で伝えようとするが……。
「そういう訳にはいきません」
少女は聞く耳を持たない。
きっぱりとはねつける。
「そこを何とか……!」
情けないほど悲痛な声音で頼み込むも、それでもだめだ。
数分の格闘の末、がっくりと項垂れながら無理だというとを悟った想也。
(仕方ない。諦めよう。もうここは気合で知らないふりを貫き通すしかない)
部屋の扉の前に辿り着き、決意を固める想也。
部屋から出ないという選択肢はない。
いや、そうしたい気持ちはあるが、それでは問題の先延ばしにしかなっていない。
そう自分に言い聞かせて、想也は力強く扉を開いた。
部屋の外へ踏み出し、部屋の外の様子を見て、想也は目を大きく見開いた。
「なんだこれ……」
部屋の中も、すでに何から何までおかしかった。
――天蓋付きのベッド。
――いかにも高そうな絵画。
エトセトラエトセトラ。
しかし、部屋の外――廊下は、そんなものではなかった。
まず、大きな白い縁の窓。
さらに、相変わらずの高そうな絵画。
だが、これだけならば、想也もここまで驚くことは無かっただろう。
想也を驚かせたのは、金を使って壁に施された複雑な模様だ。
(やべーだろこれ……。中世ヨーロッパの王宮の廊下みたいだ。いや……)
みたいではなく、実際に中世ヨーロッパみたいな場所だったら……。
先ほどまでに体験した、異常な体験の数々。
想也の頭はそこからある仮説を導き出していた。
(まさか……異世界転生……とかだったりしてな)
「……って、バカか俺は」
しかし、すぐに自分への突っ込み呟きながら、一瞬思い浮かんだ仮説を排除する。
だが、異世界転生は
家族――いや、それどころか知っている人間が一人もいない可能性もある。
だとすると、どうすればいいのか。
一体何をどうすればこの謎の事態を解決させることができるのか。
想也の頭が再び混乱し始める。
そんな時だった。
「何を寝ぼけているんですか? ここですよ」
少女から想也に声が掛けられる。
「え? 何が?」
「え? お手洗いに行かれるのではないんですか?」
「え、あ、あー、そうそう! 考え事してたら通り過ぎちゃったよ。ははは」
トイレを目指していたわけではないが、別に何か明確な目的地があるわけではない。
ちょうど、少女に言われてトイレにも行きたくなってきた想也だったので、ちょうどよかった、とばかりにトイレだと少女が言う場所に入る。
(1人になって冷静になる時間も欲しかったしな。ちょうどいい)
1分ほどで用を足すと、洗面台で手を洗う。
その時、何気なく想也は鏡を見た。
そして、驚愕した。
「は……?」
乾いた疑問の声が、誰もいない部屋に短く響く。
何故、想也がここまで驚いたか。
それは、自分が自分でなくなっていたからだった。
意味が分からない、と思うかもしれない。
だが、この意味を複雑に捉える必要はなく、想也は文字通り、自分でなくなっていたのである。
彼の姿は、まず身長が120㎝ちょっとくらいまで縮んでいた。
さらに、顔も変わっていた。
それも、僅かな変化ではない。
純粋な日本人であったはずの想也の顔は、ヨーロッパ人のような顔だちになっている。
髪の色も黒だったはずが銀になっているし、眼の色も黒から澄んだ青に変わっている。
(いやいやいや、おかしいってレベルじゃねぇぞ……。異世界転生……マジで本当っぽいな……)
自分であって自分でない。
鏡の向こうに映る、そんな不思議な顔を、想也はまじまじと見つめながら、異世界転生というあり得ない現実を受け入れ始める。
西洋のものとしか思えない、高級な広い部屋。
さらに謎のメイド服姿の幼女。
極めつけに、豪華過ぎるヨーロッパの宮殿のような廊下。
どれも想也には見覚えの無いものだ。
これだけのあり得ない現実を突き付けられたのだ。
もはや、異世界転生も馬鹿な話と一蹴することはできないだろう。
(しかし、これがもしも異世界転生だとすると、ここは王城とかか? もしかして俺、王子に転生しちゃってたりする?)
異世界転生だと半ば確信した想也だったが、意外に取り乱したりすることは無かった。
それどころか、早速現実を受け入れて分析を開始していた。
(でも冗談じゃなく、この線は濃厚なんだよな。俺が王子だとすれば、メイドが俺を起こしに来ることも、天蓋付きのベッドで寝ていることも、部屋や廊下に高級感がありすぎることも、全てにおいて説明が付く)
しばらく鏡の前で頭を悩ませていた想也だったが、突如ある疑問を抱く。
(待てよ? そういえばこの身体の持ち主自身の記憶とかって残ってないのか? その記憶を俺がもし覗くことが出来るのならば、現状への理解が完全と言っていいほどに深まるはずだ)
通常、この手の異世界転生系の物語では、転生した先の身体の持ち主本人の記憶が覗けるケースはあまり見ない。
だから、想也も「一応試してみよう」程度の気持ちしかないが……。
(そうだな……。今のところ気になる疑問は、この身体の主の名前と、この国の名前とかか?)
しかし、そう思ってから、ふと根本的な問題に気が付く。
(あれ? てかでも、そもそも記憶なんてどうやって掘り起こせばいいんだ?)
当然人の身体に転生した経験などある訳ないし、物語以外では聞いたこともない。
想也が分からないのも当然だ。
だが、想也はすぐに解決策を思いつく。
(いや、普通に思い出そうとしてみればいいのか? 自分の記憶を探るように……)
目を瞑り、記憶を探ることに集中する想也。
そして数秒で、想也が目を開く。
「思い出せる!」
思わず口に出して、驚きと喜びを
この身体の主の名前は、リガル・ロドグリス。
そして、この国の名前は、ロドグリス王国。
当然、地球にこんな国は無い。
これまでは、地球の中世ヨーロッパにタイムスリップした可能性も、僅かに残っていたが、これで完全に異世界転生が確定したわけだ。
しかし、想也に負の感情は殆どなかった。
当然、今も漠然とした恐怖が、想也の身の内を
それでも、異世界に一度くらいは憧れを持ったことのある男として、恐怖以上に楽しみであるという感情が上回るのは、不自然なことではないだろう。
こうして、ひとまず粗方の謎が解明されたことで、晴れやかな気持ちになった想也――いや、リガルはトイレを出るのだった。
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