百合の花 ー23ー

A(依已)

第1話

 閉じた目を開き、老人を見上げ、

「謝謝」

と、礼をいった。わたしは老人の顔を改めて間近でよく見ると、どことなく懐しさを覚えた。かすかに、見覚えのある顔だった。しかも、つい最近―――。

「あれっ、誰だっけ?」

 しばらく考えた。

「あっ、そうだ!」

 思い出した。この老人は、最近わたしの夢に出てきたあの老人だ!と思った。服装こそ違えど、間違いなくあの老人だ。

 わたしが"死にたい"と打ち明けもしなかったので、現実世界に現れたこの老人は、わたしに怪しげな薬を渡すことなどしなかった。なんの見返りを求めるでもなく、一切の悪意もなく、ただただ親切だった。

 また、涙が溢れた。

 溢れた涙で霞んだ目に、老人の民族衣装に施された、いくつもの白いモチーフの刺繍が飛び込んできた。よく目を凝らすと、なんとそれは無数の百合の花だった。

 わたしは目を疑った。目を擦り、もう一度老人の服に目をやった。やはり間違いなく、それは確かに百合の花だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

百合の花 ー23ー A(依已) @yuka-aei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る