第60話 人さらい組織壊滅
宝箱が無造作に積み上げられている穴の所へ来た。
燭台が置かれ、穴の中の様子がはっきりと分かる。
無精ひげを生やした男と何故か縛られたシェードがそこにいた。
「【隷属】俺に従え」
「何にも起きないけど」
「やっぱり駄目か。ポンコツスキルめ」
「降参してくれると手間が省ける」
「分かった。降参だ」
男は腰に吊るしていた短剣を抜いて投げ、両手を上げた。
そして、男が目配せする。
突然、シェードがボウガンで男を撃った。
「シェード、何のつもりだ」
「何のつもりかだって、見て分からないかな。誘拐されたから、隙を見て反撃したんだ」
「誘拐されたわりには縛られても腕が自由になっている。おまけにボウガンを装填してそばに置いておく。どんな間抜けだ」
「間抜けだから、いま攻められているんでしょう」
こいつ惚けるつもりだな。
そうだ。
俺は男の腕を確かめた。
男が隷属スキルを使ったから分かっていたけど、いちおう確かめないと。
確かに髑髏の入れ墨がある。
「あくまで捕まっていたって、言い張るんだな」
「その通りだ。ところで、僕の部下になる気はないかな。無能は嫌いなんだ。有能は大好きさ」
こいつ口封じをした事を隠すつもりもないらしい。
「お断りだ。仕事の報酬がボウガンの矢なんて堪らないからな」
「はははっ、気が変わったら何時でも来てほしい」
クランメンバーが来たのでシェードの処置を任せた。
あーあ、シェードの言い分が通るのだろうな。
シェードの事だからここに入るのに顔を他の奴には見せていないだろう。
人さらいに仕事を依頼した証人がいない訳だ。
誘拐されたって証言が通ってしまう。
マリーの所に戻る。
「ディザ、隷属スキルが解けたわ」
「今回はハラハラした。こんなのはもう勘弁だ」
「ちょっと、甘い物が食べたい気分」
「街に帰ったら、マリーの好きな物を一緒に食べよう」
「そうね」
こうして事件は終わった。
次の日、冒険者ギルドで。
「ディザ君、ギルドマスターが話があるって。時間は取れる?」
「平気だよ」
受付嬢に連れられてギルドマスターの執務室に入る。
「はじめまして、ディザ。そしておめでとう」
「何がです」
「Sランク昇格だよ。今回、人さらいのアジトを突き止めた功績で、君をSランクにする事に決まった」
「大した手柄ではないように思えるんだけど」
「そこは運が良かったな。誘拐された子供のほとんどは権力者の子供だ。君には難しいかも知れないが政治だよ」
「貰えるのなら有難くSランクを貰っておく」
あっさりとSランクになれた。
帰り道、シェードが立ちふさがった。
こいつも最後のあがきをするのかな。
武闘派には見えないけど。
「まったく、予想をことごとく覆してくれたね。最後のは僕の自滅だけれど」
「決闘をするのか? 受けて立つぞ」
「まさか、僕の命は安くないんでね。目的は達成出来なかったから手を引こうと思う」
「そんな事をすると糞親父は怒るだろう」
「そうなんだよね。ちょっと憂鬱さ。父上もゼットが可愛いなら、手元に置いておけば良かったのに。可愛い子には旅をさせよなんて言われて真に受けちゃって」
「そうか、それで武者修行に出されたのか」
「馬鹿な子ほど可愛いのだろうね。有能な人間は嫌われる。まあ分からない話じゃない。自分に取って代わられるのが怖いんだろうね。僕は今回の件で無能だと判定されるだろう。怒られるのは憂鬱だけど、頭を高くして寝られる」
なるほど俺は謀反の兆候ありと思われているのか。
「ゼットも馬鹿だよね。逃げ足スキルがせっかく芽生えたんだから、軍にでも入って斥候をすれば良かったんだ。生還率100%なんて手柄を立て放題だろう」
「人さらいの事件はありゃ何だったんだ」
「あれね。ディザをさらって殺すか隷属させる計画でね。それで、カモフラージュに何人か子供をさらう予定だったんだ。やっぱり犯罪者は駄目だね。カモフラージュに本気になっちゃって、目的を忘れるんだから」
シェードがドジを踏んで助かった。
聞きたい事は聞いた。
「じゃあな、お前の顔は二度と見たくない」
「僕もだよ。しぶとい人間も嫌いさ」
シェードの野郎とはまたどこかで会うような予感がする。
それにしても糞親父はゼットの事を愛してたんだな。
俺はSランクになって益々嫌われる。
まあ、問題はないがな。
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