第40話 決闘する

 ゼットがこんな馬鹿な奴だったとは。

 真昼間に堂々と俺の家に押し掛けて来やがった。


「諦めて法の裁きに従え」

「俺様は貴族だぞ。平民などいくら殺しても構わん。いくらでももみ消せる。現に門番は買収されたぞ」


 どうやって城壁の内側まで入ってきたかと思ったらそういう事か。


「そうか。なんで会いに来たんだ」

「そもそもの躓きが貴様だと気づいたのだ」


 フライングソードを消した一件や、ティラノサウルスをボイコットさせた事がばれたのか。

 ここは開き直ろう。


「だから何だ」

「お前を殺しておかなかった事が、オークジェネラルに後れを取った原因だ。俺の実力が足りなかったのではない。絶風も大牙も人を見る目がないのだ。いや貴様を殺さなかった甘さが不味かったのだ」


 こいつ、俺の悪事に気づいてないな。

 鈍い奴だ。


「あれね。あれは俺が仕組んだんだ」

「何だと。ふっ見抜いていたさ。だからさっきから言っているだろ。殺さなかった甘さが招いたと」

「それで、俺を殺しに来たってか」

「そうだ。決闘だ」


 俺とゼットは家の庭で対峙した。


「マリー合図を」

「始め!」


 マリーが合図して離れる。

 俺は機関銃を乱射した。


「【逃げ足】安全地帯確保」


 前に進む速度より早くゼットは後ずさりした。


「【具現化】ライオンの群れ」


 ライオンが具現化されてゼットに群がる。


「【逃げ足】後退加速」


 逃げ足だけは早いな。


「【具現化】大岩【アニメーション】落下」


 大岩がゼット目掛けて落ちて来る。


「【逃げ足】安全地帯確保」


 ゼットは大岩をかわした。

 ライオンの半数が潰れて光になった。


「逃げているだけでは俺は殺せないぞ」

「ふっ、逃げている最中に毒をばら撒いた」

「相打ち狙いか」

「逃げ足は毒の範囲からも逃げる事が出来る。毒が回ったら俺様の勝ちだ」


「【作成依頼】ゼットがいる辺りの地面をコピーしろ」

「作成料として金貨28枚を頂きます」

「分かった」

「作成完了」

「【具現化】電撃の庭」


「何かしたようだが、俺様の逃げ足探知機に反応がないな。不発だな。運に見放されたか」

「くそう、毒が回ってきた」

「ふっ、止めを刺してやる」


 ライオンから逃げながら、ゼットが俺に近づく。


「【アニメーション】電撃」

「何っ」


 俺の電撃自爆攻撃が決まった。

 ライオンが電撃で全て光になる。


 俺の視界は暗転。

 目を開けると俺はマリーからポーションを飲まされているのに気づいた。

 ゼットの逃げ足は攻撃に対して逃げ道を与えると見た。

 要するに回避と変わらん。

 発動する暇を与えなければ攻撃が決まる。


「ゼット、年貢の納め時だな」

「ポーションを飲ませてもらうなんて汚いぞ」

「誰が決闘を受けるなんて言った。勝てばいいんだよ。極論を言えば死ななきゃ良い。さらばだ」


 俺は立ち上がると機関銃を連射した。


「【逃げ足】動け。動けよ俺様の足……」


 やっぱりだ。

 足が動かないとゼットのスキルは発動しない。

 機関銃に穴だらけにされてゼットは息絶えた。


 ゼットの一番の敗因は仲間がいない事だ。

 回復してくれる仲間がいればもっとしぶとくやれた。

 スキルを得て冒険者達から逃げ惑う内に、無敵だと勘違いしたのかもな。


「強敵だったね」

「俺の切り札はマリーだ。何物にも代えがたい」

「えへへ」


 ゼットの亡骸をライオン達に咥えさせて引きずって門番に渡した。

 門番の何人かが顔を青くする。

 ゼットが死なないと思ったのだろう。

 事が露見しないと考えたのだな。


 まあいい。

 門番の処分は門番の誰かがやるだろう。

 全員腐っている訳じゃないと思いたい。


 さて、そろそろこの街からもおさらばしないと。

 遠征の理由もなくなった事だしな。


「タルダに帰るの?」

「ああ、ここでの用は終わったしな」

「家はどうするの」

「置いていこう。なに、同じ形の家をタルダにも建てるさ」

「ならいい」


 クラン・デスタスのメンバーに別れを告げなくてもいいだろう。

 暴風には会いたくないが、冒険者をしていればまた会う時もあるはずだ。

 収納バッグに必要な家具を入れて出立した。

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