第32話 コンロを売る

「頼む。あの包丁を追加で200本売ってくれ」


 ギルドの買取所の職員が俺の家を訪ねて来て言った。


「お安い御用だ。他に足りない物はないか」

「塩の値段が上がっている」

「それはどうにもできないな」

「塩はなんに使うんだ」


「干し肉は塩を溶かしてハーブの粉を入れた液に漬けた後、乾燥させて作る」

「なるほどね」


 虫よけネットが売れそうだな。

 よし、作ろう。

 網を作るのなんて簡単だコピペであっという間に出来る。


「【具現化】虫よけネット」

「ほう、これは素晴らしいですが、必要ないと思います」

「なぜ」

「虫なんて気にしない」


 虫が集ったからといって忌避しないのだな。

 昔は日本もそうだったのだろう。

 これではポリゴン数は多いのに安くしないと売れない。

 これは失敗だな。

 俺達が食う干し肉だけに使おう。

 虫の卵入りなんて食う気にならないからだ。


「そうだ。燻製はどうだ」


 えっと、燻製器ってどういう仕組みだったっけ。

 覆いがあって火を燃やす所があってその上に網だったっけ。

 いかん使った事がないから分からん。


「ええい、【作成依頼】燻製器」

「作成料として金貨1枚を頂きます」

「いいよやってくれ」

「作成完了」


 安かったな今回は。


「【具現化】燻製器」


 なんだ、最初ので合ってたじゃないか。


「これは燻製器じゃないか。これなら各家庭に下請けに出せる。しかし、値段の方があまり出せそうにないな」

「銀貨1枚でいいよ」

「本当か」

「その代わり包丁を沢山買ってくれ」

「なら平気だ。包丁は余ったら冒険者に売りつければいい。よく切れるナイフは重宝するからな」


 更に追加で包丁500本をツケで売った。

 職員はホクホク顔で帰って行った。


 そうだ。

 コンロと水道が欲しい。


 魔法テクスチャーで作れないかな。


「【作成依頼】コンロと蛇口。火が点いて、水がでるので作ってくれ」

「作成料として金貨6枚を頂きます」

「分かった」

「作成完了」


 良い感じに出来たな。

 コンロは五徳もあるし、火力も調整できるみたいだ。

 蛇口は普通だな。


「【具現化】コンロ。マリー、コンロを作った」

「こういうのが欲しかったのよ」


 マリーはコンロの火力を調整したり、火を消したり点けたりしている。

 気に入ってくれたようだ。


 蛇口を漆喰で固めて固定する。

 蛇口に手を置いて念じると水が出て来た。

 うん、便利になった。

 これ、売りに出せないかな。

 でも魔道具という商売敵がいる。


「マリー、魔道具を見に行くぞ」

「いきなりだね」

「善は急げだ」


 魔道具店に入ると太ったおっさんが俺達を睨みつけ言う。


「冷やかしなら帰った。子供の小遣いで買えるような物は置いてない」

「コンロを見たい」

「駄目だ。帰んな」


「感じ悪いね」

「なんだとガキが」


 相場で売ろうと思ったが関係ない。

 俺は店の向かいに許可を取ってゴザを広げた。


 品物はコンロと蛇口と灯りだ。

 どれも銀貨3枚だ。


「おう、安いな。でも子供が売っているんじゃな」


 男の客が来た。


「試しに使ってみても良いよ」

「そうか」


 男は俺の説明を聞いてコンロを試すと、3種類全部を買って行った。

 それから火が点いた様に忙しくなった。


 一つ3000ポリゴンで作ったから、1000個ずつ作れるのに、今日のポリゴン数が無くなった。


「今日はもう作れない」

「じゃまた明日だね」


「俺が悪かった。勘弁してくれ」


 向かいの魔道具店の店員が詫びをいれてきた。


「俺の商品を売ってくれるなら許してもいいよ」

「ああ、扱ってもいい」

「値段は相場にしてくれよ」

「ああ、あんなにも安いと他の物が売れない」

「そうでしょ。物は相場で売らないとね。ちなみにコンロはいかほど」

「そうだな。金貨2枚と銀貨20枚ってところだ」

「いいね。取り分は7、3にしよう。俺が7ね」

「坊主、手慣れているな。実家は商売しているのか」

「いや、覚えた」


「そうか。これからよろしくな」

「おう」


 生産は楽しい。

 こんな生活が続くといいなと思わないでもない。

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