第16話 護衛依頼

 今日やるのは護衛依頼。

 隣の街まで行く馬車の護衛だ。

 集合場所の倉庫街に行くと既に商人は来ていた。


「こんちは」

「なんだ。私に用かね。伝言かな」

「護衛依頼に来た」

「冗談言っては困る」

「これ依頼票」


「チェンジだ。チェンジ。こんなの認められない」

「ディザはね。オークの集団もぷちっとやっちゃうの。護衛依頼なんて目じゃないんだから」

「ふん、ガキの言うことなんてあてに出来るか。くそっ、依頼に面接ありって書いておけば良かった」

「どうするんだよ。キャンセルするのか。俺はどっちでも良いけどな」

「ギルドに対して不味い対応は出来ない。くそっ、もう一組に期待するか。おい、お前らは水くみでもしてろ。護衛中はちょろちょろするなよ。大人しく馬車に乗ってろ」


「マリー、行こう。水くみだって」

「うん」


 俺は台車を作ってタルを馬車まで運んだ。

 台車ぐらい美術1でも作れる。


 商人はどこかに行って馬車の付近にはいない。

 水くみが終わって、モデリングをしていたら、商人が三人の男達を連れて帰ってきた。


「このガキ共が無謀にも護衛依頼を受けたって奴ですか」

「そうなんですよ。キャンセルするとギルドに対して受けが悪い」

「おい、ガキ共。よく聞けよ。今回は俺達のパーティ炎狼の遠吠えに寄生させてやる。だが、二度とこんな事をしているのを見かけたら、お尻をぺんぺんしちゃうぞ」

「分かったよ。護衛依頼は受けない」

「分かりゃ良いんだ」


「じゃ、人員も出そろったところで出発しましょう」


 俺とマリーは馬車に乗り、護衛の三人は徒歩で先導する。


「あの冒険者強いのかな」

「Dランクだって」

「へぇー、オークだと手こずるぐらいの実力か」

「雑魚だね」

「雑魚というのは可哀そうだ。駆け出しを卒業ぐらいに言わないと」


 突如、馬車が停まった。

 荷台から前方を覗くとゴブリンの群れが見える。


「数が多い。気を引き締めていくぞ」

「おう」

「了解」


 冒険者は剣を抜いてゴブリンの群れを蹴散らした。

 Dランクだもんな。

 ゴブリンぐらい楽勝か。


「リーダー、どじった。錆びたナイフで手を斬られた」

「それは、それは。こうなったのもあのガキ共のせい。ポーションを無料で提供します。なにお代はガキ共の依頼料から出しておきます」


 商人がもみ手してそう言った。


「そうしてくれると助かる」


 何勝手に俺達の依頼料をねこばばしてくれちゃってるの。


「ディザ、あんな事言わせておいていいの」

「そうだな。終わったらギルドに苦情を言ってやろう」

「チクるのね。密告は美しくないわ」

「じゃ、あいつの扱っている商品の性能の良いのをポリゴンで作って、売れなくしてやろう」

「うん、それが良い」


 それから、戦闘は何度か発生したが。

 かすり傷程度で勝利して、俺達の依頼料が減る以外には被害もなく進んだ。


 道がうっそうとした森に差し掛かる。

 なんか出てきそうだな。


 突然、森から矢が射かけられた。


「誰だ」


 炎狼の遠吠えのリーダーが誰何する。


「俺達か。俺達は剛腕のダムザ様が率いる盗賊団よ」

「リーダー不味い。覚醒者だ」

「どうする」

「撤退だ」


 あれっ、逃げ出すのかよ。


「逃がさねぇ【剛腕】」


 炎狼の遠吠えが逃げ出すとメキメキと音がして、森から根っこの付いた木が飛んできた。


「うわー」

「ぐわっ」

「ひゅう」


 三人は木の下敷きになり倒れ、盗賊が森から出て来た。


「がははは、生かしておく訳ないだろう。皆殺しだ」



 うん、覚醒者と生死を掛けてやるのは初めてだ。

 手加減抜きだ。


「【具現化】【アニメーション】落下」


 大岩が現れて、盗賊の頭に落下していく。


「しゃらくせぇ【剛腕】。ぐがっー」


 お頭は岩に潰され、ぺちゃんこになった。


「やべえ、お頭がやられちまった」


「【具現化】。エンペラー3号、盗賊をやってしまえ」


 ライオンが現れ、盗賊達を噛み殺す。


「うわー、こっちにくるな」

「なんだこの魔獣は」

「くそ、足を噛まれた」

「ぐわっ、俺の手が」


 阿鼻叫喚に辺りは包まれた。

 程なくして辺りは静かになり、口の周りを真っ赤に染めた、ライオンが戻ってきた。


「これはお前がやったのか。この化け物」


 商人が俺を恐怖の目で見る。

 ポリゴンを消して俺はうなだれた。

 やり過ぎなのか。


「震えないで。怖くないよ」


 マリーが俺を抱き寄せる。

 俺は自分が震えているのに気がついた。

 情けない。

 俺は大人だ。

 子供に慰められてどうする。


「商人さん、あのままでは皆殺しだった。その方が良かったのかな?」

「済まない、気が動転していた。君は英雄だ。ありがとう。くそっ、炎狼の遠吠えには騙された。逃げ出すとはな」

「手当してやれよ。商人さんの自腹でな」


 幸い炎狼の遠吠えは気絶していただけだった。

 たんこぶと打ち身を沢山こしらえて唸っている。

 彼らを馬車に乗せて、俺達はオープンカーで先導した。


 隣の街までは無事につき俺達は宿をとった。

 参ったな。

 震えが止まらない。

 眠気は訪れなかったが、マリーと抱き合って床に入った。

 マリーの暖かさを感じていると震えが止まり、眠る事が出来た。

 子供に助けられるとはな。

 俺もまだまだだ。

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