第11話 打ち上げ

「ご苦労様」


 俺は門番に挨拶する。


「これをお前らがやったのか。覚醒者は見かけによらないって本当だな」


 門のそばのギルドの買取所の職員がこちらに駆けてくる。


「はぁはぁ。今度から、収納バッグに容れて来て下さい。通行人の迷惑です。これだから冒険者はごろつきなんて言われるんだ」

「悲しいけど、金がないんだよ」


「ディザ、クランから借りて来たら」

「マリーはそう言うけど、あの婆さんに借りは作りたくないんだよ」

「クランの人はみんないい人じゃない」

「それとは別だ。まあいいや」

「今日はお祝いね」

「おう、そうだな」


 ブラッディベアは金貨1枚と少しで売れた。

 冒険者って儲かるんだな。


「ただいま」


 クランハウスに帰還した。


「お帰りなさい」

「リーナさん、丁度良かった。これから初依頼達成のお祝いをするんだけど、どうかな」

「喜んで行くわ」


「おい、坊主。剣の試し切りは終わったぜ。金貨10枚だ。取っときな」


 剣聖から小袋を投げられた。

 開けてみると中は黄金の輝きが。

 わおっ、鍛冶屋になろうかな。


「剣聖さんも、一緒にお祝いどうですか」

「これも縁だな。一緒に行くぜ」

「俺も参加して良いかい」

王打おうださんもどうぞ」


 マリーと世話になった先輩と共に酒場に行く。


「初依頼おめでとう」


 リーナさんが祝ってくれた。


「お前、ジェノサイドベアを仕留めたんだって。もちろん剣でだろうな」

「剣聖さん、無茶言わないでくれよ。子供に熊とタイマンしろって言うの」

「お前から売って貰った剣を使っているが、凄い切れ味だ。お前の腰のも同じだろ。使えよ。剣は使ってこそだ」


「いや、剣聖よ。格闘こそが神髄よ。男は拳で語るものよ」

王打おうださんも無茶言わないでくれよ。マリーも遠慮しないで食えよ。俺達が稼いだ金だから」

「うん」


「お前は見所がある。どうだ倍化剣の門弟にならないか」

「倍化剣って言うのがどういうのか分からないから、ちょっとね」


「よし、特別に見せてやる」


 剣聖はリンゴを掴むと空中な投げ、剣を抜いた。


「倍化剣いち、倍化剣に、倍化剣よん、倍化剣はち、倍化剣いちろく、倍化剣さんに、倍化剣ろくよん」


 掛け声を掛けるたびに剣が走る。

 何回切ったか目で追えない。

 リンゴはさいの目切りになった。


「掛け声のたびに斬る回数が倍になるのが、倍化剣の特徴だ。基本技にして奥義よ」

「へえ、凄いですね。最高は何回ですか」

「今の所8192回だな」

「俺のスキルとの相性はあまり良くないみたいだ。空中で剣を動かしても良いんだったらできる」

「おう、スキルを使うのは推奨している。俺のは斬撃強化だが。人によって個性が出るのはありだろう」


「じゃ、やってみます」


 空中で剣を振り、一回振る毎にスピードと回数を上げるアニメーションを作る。

 8192回に増えた所で編集を止める。


「行きますよ。【アニメーション】倍化剣」



 剣が空中でぴったと止まる。


「倍化剣いち、倍化剣に、倍化剣よん、倍化剣はち、倍化剣いちろく、倍化剣さんに、倍化剣ろくよん、倍化剣いちにっぱ、倍化剣にごろ、倍化剣ごいちに、倍化剣いちぜろにいよん、倍化剣にいぜろよんはち、倍化剣よんぜろくんろく、倍化剣はちいちきゅうにい」


 剣の振りに合わせて掛け声を掛ける。

 若干掛け声がずれた気もするが、こんなのは余興だ。


「俺の今までの修行は何だったのか。悪い冗談だぜ」

「でも、これ標的が動くと、当たらないんだよな」

「焦ったぜ。そうだよな。俺の領域に簡単に到達されちゃ困る」

「それでも、凄いような」


 リーナさんが感心したような声を出す。


「免許皆伝かな」

「馬鹿言うな。斬撃ってのは斬ってこそだ。標的が動くのにも対応しないとな」

「じゃ、門下生にはならないよ。剣を振るのはしんどそうだから」

「最近の若い者はこれだから」


「剣聖よ、お前の師匠も似たような事を言ってた気がするぞ」

王打おうださんは弟子をとらないの」

「なんだ拳で語る道を選びたいのか」

「無理無理。張りぼての拳で良いのならいくらでも打つけど」


「これだから若い者は。剣聖の気持ちが今、分かったぜ」

「だろ、楽をし過ぎなんだよ」

「そうかな。浮浪児から始まるのは苦労していると思うけど」


「聞いた話では生産系だったが、戦闘も行ける口だな。おそらく今でもAランクの実力はあるだろうが、慢心するなよ。油断で死ぬ奴は多い」

「はい、王打おうださん」


「お前のスキルは発展途上だろ。もしさっきの斬撃が目標が動いていても対応できるのなら、皆伝をやろう」

「その時は遠慮なく」


 マリーはとみるとリーナさんと何やら話していた。

 マリーの顔が真っ赤だ。

 何か、からかわれたのかな。


 俺の初依頼はこうして終わった。

 案外ちょろいな。

 いや慢心は良くない。

 上には上がある。

 次は集団戦闘をやってみたいな。

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