第11話
レインは『ふたりの秘密の場所』につながる路地裏で闇に身を潜めるようにして待っていた。
そこに男が入ってくる。
頼りない笑みを顔に貼りつけた二十代後半から三十代前半ほどの男だ。
長身痩躯な身体に細身の紳士服を身につけ、懐が不自然に膨らんでいる。そこには聖都警察標準装備である、六連発回転式拳銃――TK-56――通称ジャッジメントがおさめられているのだろう。
レインは闇から一歩でる。その手にあった新聞の記事を示すように男に見せる。
「どういうことだ?」
その記事は、市内の伝言――猫探しから、親族の訃報まであらゆる情報が載っていた。
その中に暗号めいた一文があった。
――夜の君へ、愛しの姫君が神隠しにあった。明朝『ふたりの秘密の場所』で待つ。
男――ダラス警部補は苦い笑みを浮かべながら頭をたれた。
「リディエータ警部の行方がわかりません。昨日ちょっと出てくると言ってから連絡もとれず、家にも帰っていません」
レインはイライラと前髪をかきあげながら舌を鳴らした。
「手がかりは?」
「リディエータ警部は、東地区を調べていた」
それだけでレインには大まかなことがわかった。視線を足元にむける。そこには黒猫がアタシは関係がないとばかりにそっぽを向いていた。
レインはため息をひとつ。
「どうして僕にリディのことを知らせてくれたんですか?」
彼は苦笑するように、首をかしげた。
「自分はロズモンド警部の最後の部下でしたし、君の父――先代夜の仮面を捕まえたときにもその場にいました。君とリディエータ警部が遊んでいるところにもいましたし、面倒を見たこともありましたが、憶えていませんか?」
「まったく覚えがないね」
レインは吐き捨てるように切って捨てた。
「僕がリディとふたりきりで遊びたかったのに、空気も読めずにその場にいた奴のことなんて覚えている価値もない」
彼は苦笑を深めたようだった。
「教えてくれたことには、感謝する」
「自分にはリディエータ警部を助けることはできませんから」
彼女をよろしくお願いします、とダラス警部補は頭を下げた。
レインは踵を返し、
「絶対に助けだす」
と言い残した。
歩を進めながら、足者と黒猫を睨みつける。
「ベル。余計なことをしてくれたみたいだな」
足元の黒猫は決して視線を合わせようとしない、そっぽを向きながらレインの隣を歩いている。
「……アタシは悪くないわよ」
悪魔のくせしてその存在意義を否定するようなことを言っている。
嘆息する。
「今夜決行だ。契約違反だが、直接的な協力をしてもらうぞ。お前のせいでもあるんだからな」
「……わかったわよ。でも……本当に今夜に行くの? まだ準備もたりないのに」
レインは夜色の瞳を鋭く細め、東を見た。
「ああ」
そこには清浄なる聖気に満ちている。ベルトリアは言っていた。この清冽までの気は尋常ではない。ただの天使ではなく、熾天使クラスがついているのかもしれない、と。
「このまま行けば──死ぬよ。それでも行くの?」
「当たり前だ」
レインは仮面をかぶる。
その手には新たな予告状が握られていた。
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