第41話 その名はマリオン①
「んーと、話は大体わかった、気がする」
「つまりさ、先輩が一番心配なのは、あのロボットみたいな姿になったとき、あたしたち二人同時にその……ね、き、気持ち良さがピークになったら、世界があたし達もろとも破壊されてしまうってことでしょ?」
全くその通りで、しかも敵が強くなればなるほどその確率が高まるという。
「そうだよ。馬鹿げた話みたいだけど、そこが問題なんだよな」
「でもさ? 黄金龍と戦った時、あたしも戦闘に集中出来てたよ? か、感じなかったって言えば嘘になるけれど、最初に変身した時程じゃ無かったしさ」
確かに二人で戦っていたときは、戦闘に意識が集中していたためか、快楽の波はそれ程感じなかった気がする。
「なら、現状問題無いんじゃない?」
「へ? なんで」
ことは世界の運命を決めるかもしれないというのに、問題が無いとどうしてこの娘は言えるのだろう。
「だってさ、黄金龍を解放したら、後はのんびりスローライフを楽しんでいくんでしょ? それも元の世界へ帰る方法が見つかるまで。ならもう戦う必要ないじゃん」
光はポカンと呆気に取られたが、考えてみればそうだ。
変身して戦う必要が不可欠なのは黄金龍だけ。仮にこの地方に住まう大型龍属系モンスター相手にするにしても、怨霊に取り憑かれた黄金龍相手をするのとは難易度がまるで違う。
それに成功して以降は、元の世界に帰るための方法をシヴァあたりに吐かせて、もとい教えを請うてとっとと帰るというのもいい。
長居は無用だし仮に手立てが見つからない一方通行でも、真琴さえいればなんとかなる気がする。
「それでも心配ならさ、特訓してみる?」
「は? 特訓て、なんの」
「じ、実際エッチな事してみる、とか?」
ブホッと光は吹き出してしまった。
「結婚もしてないのに、出来るか!」
「なにさ! あたしの胸やおしり揉んだくせにっ!」
「ばっか! あ、あれは変身するために必要な手段で……っ!」
それを聞いた途端、真琴の目に大粒の涙が浮かび、顔がリンゴのように真っ赤になる。
「あ、あれだって特訓だったんでしょ? だから殴るだけで許してあげたのに」
その表情に光は「しまった」と顔に大書した。
どうしても変身の極意がつかめなかった時、思いつきでやらかしたが、女の子にとっては不本意なことであったに違いない。
それをまたさせてくれると女の子から言ってくれるのだ。勇気がいっただろうに、頭ごなしに反論するのは無神経だった。
「わ、わかった。俺が悪かった。だから泣くな怒るな」
そんな修羅場の真っ最中だった。不意にシヴァが声をかけてきた。
『二人とも痴話げんかは構わんがいいのか?』
「なんだよ突然」
『先程から貴様らの仲間が我らを見ているのだが?』
「へ?」
仲間? 誰のことだろうと周囲を見回したら。
「兄弟ぇ……お前ぇ、またその姿になって。一体お前何モンなのよ」
そこには戦斧を構え警戒するダルゴと、その背後に隠れるエルレインの姿があった。
「先輩……これもう隠すの無理じゃ無いかな?」
「あー。ザクールさんにゃ悪いが、もう説明しておくのがいいよな」
光もため息混じり覚悟を決めて説明することにする。
「まず信じる信じないはお前らに任せる。けどこれから説明することは全て本当のことだ」
「能書きゃあいい。さっさと説明しろい」
「そうだな。まず──」
光は順序よく、そしてわかりやすく説明を始めた。
※※※※※※
「なるほど。お前ぇらはこの世界とは別の世界の人間で、結婚ゴッコをしてたら、お前ぇらの世界の神様が俺達の世界に飛ばして来たと」
「そうそう」
「んで? お前ぇらにはその神様の分身が憑いているって事でいいんだな?」
「その認識で構わん」
「んで、今回の旅の目的は黄金龍『デュラントー』を救いにいくためっと……」
ダルゴは腕を組んで深いため息をついた。
「信じられないし、信じたくもねぇが。……信じるしかねぇよな」
「わかってくれたか」
光は正直胸を撫で下ろしていた。ダルゴの気質ならすぐ「ぶっ殺す」と言う発想が出そうなものだが、今の所その様子は無かったからだ。
「それよりもダルゴ。この先はどうなっていた?」
「おう。おかげさんで目的のモンにはありつけそうだぜぇ」
ダルゴはよほど嬉しかったのか、ニヤリと凄味のある笑みを浮かべる。
「有ったんだよ。目的の人形がずらりと」
※※※※※※
「これが……」
光と真琴はダルゴに案内されて階下にある小さな回廊へと足を踏み入れた。
ちなみにシヴァ神は「用は済んだんで寝る」とか言ってダルゴとの話し合い以来口出しする事も無かったし、光の姿も元に戻っている。
それにしてもまあ、と呆れてしまう。
小さな回廊の左右にはなんと厚手のアクリル板に似た材質で囲われた少女人形が、合計20体ほど飾られていたのだ。
しかも試行錯誤したのか顔の作りから体型。果ては種族まで様々な造形が試みられている。
加えて言えば総じてみな胸が豊かだった。
「ねぇエル。この人形、今まで戦って来た人形とは違うんだよね?」
真琴が気安くエルレインに話しかけると、エルレインは「私はエルレイン、でス」と不満そうに訂正していたが、怒っている様子では無かった。
「死霊が憑イていル痕跡ナイです。ダジョーブ」
「しかし作りも作ったりだな。ダルゴのご先祖達も結構ノリノリで作ったんじゃないのか?」
「オイラとしちゃ、あんまり認めたくねぇけどな……と、こいつだ」
ダルゴは回廊の突き当たりにある人形の前に一同を案内した。
一目で他の人形とは違うとわかる。
魔力か何かの輝きなのか、アクリルケースの中には青い輝きが満たされ、長い銀の髪が揺らめいている。
なにより特徴的なのは、胸部中央と額にクリスタルが輝き、まるで生きているように明滅しているのだ。
なにより顔の造形が素晴らしかった。
目鼻や口、その一つ一つの美しさもさることながら、その配置のバランスが絶妙で、美しさの中に愛らしさが感じられる、ある意味万人が認め求める理想的な少女像だった。
光とダルゴでさえ見とれてしまい、二人して恋人達から頬をつねられるありさまである。
「んでダルゴ。持って行くのはこいつでいいのか?」
「おう、兄弟ぇ。こいつが一番当たりみたいだ」
「んじゃ、あの
光は腰だめに村正を構える。
そして居合いの要領で村正振るい、アクリルケースを切り裂いていった。
すると正面のアクリル板が開口し、そこから水のように青い粒子が流れでて、人形がフラリと倒れてくる。
「おっと、危ない」
光は咄嗟にその身体を支えようと手を伸ばす。そしてその手が胸に。正確には胸にあるクリスタルに触れてしまった。
その時異変が起きた。
「な、なに!? どうしたのっ!?」
人形の長い髪がふわりと広がると、舞い散った青い粒子を吸収し、額と胸のクリスタルが、人間の鼓動のように明滅し始めたのだ。
そして人形のまぶたがまるで人間の様に痙攣したかと思うとその双眸が開き、琥珀色の瞳が露わになる。
さらに人形はその目で光を認めると、甘い吐息を漏らしながら、あろう事か抱きついてその唇に情熱的な口づけした。
ちなみにやられた当の光はと言えば、目を白黒させて軽くパニック状態に陥っている。
「もがっ!? ちょ、ちょっと……っ、むぐ!!」
「こ の っ! 離れなさーい!!」
人形の暴挙を止めるべくいち早く動いたのは真琴だった。
人形を後ろから羽交い締めにし、光から引き離そうと必死に引っ張る。
だが人形はテコでも動かぬとばかり、光をさらに抱きしめ唇を求め続けた。
「いい加減っ! しつこい!!」
相変わらずこのスレンダーな身体のどこにこんな力があるのかという腕力で、強引に人形を引き剥がした真琴は、羞恥心など知った事かとばかり下着が見えるのも構わずバックドロップをぶちかました。
「ふぅー……なんなのよ。この人形」
パンパンと服に付いた埃を払いながら、何事も無かったように立ち上がった真琴は、ブーツのつま先でツンツンと人形をつつく。
だが、人形を仕留めるには至らなかったらしい。
人形は屈伸した足の反動を使って何事も無かった様に立ち上がり、再び光の前に来て
「覚醒に成功しました、マイマスター」
「ま、マスター?」
混乱している光をよそに、人形は流暢な発言で自己紹介を続ける。
「イエス、マスター。わたくしはライオネル式セクサロイド第二十八号。個体名マリオン」
そして立ち上がってそっと光に抱きつきこう言った。
「わたくしはあなたの嫁です。マイマスター」
と。
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