第40話 破壊神降臨⑤

 みつるは頭を抱えそうになっていた。


 光自身、貞操観念は意外と古臭い。両親の教育の賜物であろうが、婚前交渉などもってのほかと考えている。

 無論年頃の男子だし、恋人の真琴に対して男の欲望が無いと言えば嘘になるが、それでも結婚するまでは行為に及ぶ気が殆どないのである。


 だが、『神形機ディヴァーター』へ変身すると、おそらくシステム的なものだろうが、擬似的に男女の営みの感覚を感じるのだ。

 幸いなことに今までは戦闘状態でそっちに気を取られていて、その感覚が乏しかったのだが、もしこの感覚が鋭敏になったとしたら?

 それで場合によっては世界を破滅させるなどと言われれば、頭痛は勿論のこと、眩暈めまいまでおまけで付いてきそうだった。


「んあー……話はわかった。取りあえず同時でなきゃ大丈夫なんだな?」

『その認識で間違いありません。しかしあなた方は相性が良さそうですし、強敵相手に戦っているうちに達する可能性も否定できませんが』


 本気で頭痛がしてきた。


 そもそも『神形機ディヴァーター』に装備されている動力源『シャクティジェネレーター』の原理自体が、インドで信仰されているリンガ・ヨニ信仰の偶像シンボルとよく似ているのが問題だ。

 男女の営みから神聖な力を生み出すと考えるこの信仰を、機械のように再現しシャクティという神の力にして疑似生命力を生成する。まぁここまでは良い。

 ここで問題になっているのが他でもない。リンガとヨニというシャクティを生成するパーツに、男女の感覚がリンクしている点だ。

 つまり『神形機ディヴァーター』と一体となっている間、二人は擬似的に男女の営みを行っているという事になる。

 今のところ光の方は問題ないが、どうやらパールバティの話を聞く限り、注意するに越したことはないようであった。


「はー……まさか変身する事で、そんなリスクがあるとは。わかった、精々我慢する事にするわ」

『そうなさい。破壊のあとの創造が行われる過程で、あなた達も破壊された後、新たな命として創造されることになるのですから』

「爆弾か!? 俺達はっ!!」


 もうふざけるなと言いたい。


『納得したか? 我が分身アバターよ』

「出来るわけあるかいっ!」


 いい加減疲れてきた。これはもう真琴にも相談しなければなるまい。


「あー、パールバティさん。悪いが真琴起こしてくれねぇ?」

『構いませんが、なぜです?』

「この状況、あいつにも説明しておきたいんだよ」

『わかりました、少々お待ちを』


 真琴パールバティは眼を閉ざすと、なにやらブツブツと唱える。

 そうしてふたたび眼を開くと、なにやら驚いた表情で周囲をキョロキョロと見回した。


「あ、あれ? あたし死んだんじゃ……って先輩!? なんでまたそんな姿になってんの?」

『落ち着いて下さい、勇ましくも愛らしいお嬢さん』

「だ、誰!?」

『私はあなた、あなたは私。私の名前はパールバティと申します』


 余計に混乱したらしく、真琴はオロオロし始める。


「あー、真琴落ち着け。今俺もお前と同じような状態だから」

「ど、どいうこと」

「今俺とお前の中にはインドの夫婦神が宿ってるんだよ。お前に喋っているのは奥さんの方」

「へ? 奥さんって誰の」

「俺の中に居着いている、シヴァっておっかない神様の奥さん」

『というわけで、奥が世話になっておる。乙女よ』

「は? えと。ど、どういたしまして?」


 なぜ疑問形になっているのだろう。だが多少は落ち着きを取り戻しているらしい。


『ごめんなさい。死んだあなた達を蘇生するには、私達の権能が必要不可欠だったから』

「あ、そうなんですか? ありがとうございます」

「順応性高いな。お前」

「そうでもないよ? 今あたしの中にも女神様がいるなんて、正直驚きだし」

『それよりも話す事があるのでは無かったのか?』


 シヴァの呆れたような声に、二人は顔を見合わせお互い頷きあった。


「ちょっと長い話になるし、正直俺一人で抱え込むには問題が大きすぎるんで、お前にも話をして相談したい」

「珍しいね? 先輩が誰かを頼るって」

「そうか?」


 言われてみれば、今まで人を頼った事など、あまり無かった気がする。


「でもま、良い傾向じゃないの? 先輩一人で何でも抱え込む所あるし」


 お前には言われたくねー。

 以前光との付き合いに嫉妬した上級生にいじめられても、光には告げず一度身を引いたこともあるのだ。この少女は。

 いらん所で似たもの同士な二人であった。


「じゃあお言葉に甘えて、これまでの経緯の説明やこれからの事を相談したい」




 そして光はこれまでの事。そして変身した時の大きなリスクについて真琴に話すのだった。

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