第25話 喧嘩するほど仲が良い①

「んで、結局お前ェ何モンなんだよ」

「んあ?」


 二度焼きした硬いライ麦パンと、やはり硬く塩気も無い干し肉に辟易しながら、みつるはドワーフの少年ダルゴの質問に妙な声で返事をしていた。


「あ? じゃねーよ。三つ目になったり牙生やしたり、挙げ句は全身に奇妙な化粧か? しやがって。武装もこの辺じゃみかけねー意匠だしよ。気にならないちゃ嘘だろがよ」

「言っただろ? 俺は東方から来た遍歴の剣士で、真琴こっちは俺の女房だってよ」

「東方ってとこにゃ、バケモンしか居ないのかよ」


 そうは言われても、正直返事に困る光であった。

 あの時、真琴が危険にさらされた時に感じた破壊衝動。あれが自分にどんな変化をもたらしたのか、自覚は無いのだ。

 そう言えば初めて鬼神『神形機ディヴァーター』化した時もそうだった。

 相手を殺戮する事への渇望が抑えきれず、暴走してしまっている。

 まるで体内に住む『何か』に、身体が支配されているように。

 

 そしてその『何か』が思い出せない・・・・・・

 思い出そうとすると頭がキリキリと痛み出すのだ。こちらの世界に来る途中に何かがあったのはうっすらと覚えているのだが。

 見聞きしたことは絶対に忘れないという、異能じみた記憶力を持つ光には、考えられない事であった。


 だから、今はそれに答えず、硬くて不味い昼飯を黙ってひたすら食うのであった。



※※※※※※



 夕刻もやや過ぎて、光達一行は宿場町として栄えている町にやってきた。

 もっとも町に入るには、身分証明がどうだの手形がどうだの、人頭税がどうだのと胡散臭げに言われたが、ザクールから「……例の宝剣を」と囁かれて取り出して見せたところ、下にも置かぬ応対をされて面食らった。

 そんな様子を見てダルゴが「ホント何モンだよ」と呆れているのか感心しているのか分からない、まるで珍獣扱いしている口振りだったが、それはこっちが聞きたい。

 

 とにかくも、無事宿場町で商人とは別れる事になった。

 護衛の料金は要らないと断ったが、それではスジが通らないと頑固に言うものだから、幾ばくかの金と、良心的な宿屋を紹介して貰うことで話はついた。それと、自分が所属している商会にも是非顔を出して欲しいと懇願された。ヌゥーザ一族との交渉に役に立てるからと。

 恐らく商いに関わってくる話なのだろうが、こちらとしては今の所痛くも痒くもないので、半ば社交辞令として受け取っておいた。


 まぁ、それはそれとして。


「……なんでお前らが俺達について来てるんだ?」


 商人に紹介された宿屋に向かうその後ろに、例の凸凹でこぼこカップルまでついて来ていたのである。


「なんだって、お前ェ。護衛は首になったし、お前ェらにくっついてりゃ、面白い事になりそうな予感がしたからでぇ」


 そりゃ護衛を放っておいて、賞金首に突っ込んでいたら信用無くすのも当たり前である。


「あのな……人のこと問答無用で殺そうとした奴に『面白い』なんて理由でついて来られたら迷惑なの。分かるか? おい」

「ホンと。ゴめン、なサイ」


 そう片言で謝っているのは、ダルゴの婚約者を名乗っているエルフの少女だった。エルレインといったか。

 エルレインはダルゴとは正反対に神妙な顔で俯いて一番後ろをトボトボと歩いている。


「……面白そうだから、とは命知らずですね。……このお二人が何をしようとしているか知っても、同じ事が言えますか?」


 なんだか気にはさわる言い方だが、光の内心としては「いいぞもっとやれ」とザクールを褒めてやりたかった。だが。


「お? 何々。やっぱ、なんか厄介ごとに首突っ込んでんだ? しかも金になりそうな事とみた」


 どうやらダルゴの方こそ厄介ごとに首を突っ込んで、そこから収入を得る事を生き甲斐としているタイプらしい。

 刹那的というか、少なくともトラブルメーカーの素養は十分ありそうな少年ではある。


「そうと分かったら、こいつは見過ごせねぇなぁ。はっきりくっきり喋ってもらおうか」

「……取り敢えず、俺は飯が食いてぇ。話すくらいならしてやる。それを信じるも信じねぇも自由。但し、首を突っ込ませるつもりはねぇからな」


 実際、光はこの物騒なドワーフの少年に首を突っ込ませる事はさせるつもりは無かったし、第一油断がならない。なにをやらかすか、分かったものでは無かったからだ。

 それにたった二人で黄金龍退治まがいの事をやろうとしていると聞けば、尻尾を巻いて逃げ出すだろうと考えていた。


 その考えが甘かったと思い知るのは、宿に入って食事を摂った時のことだった。

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