第23話 袖振り合うも多生の縁②
「で、お前一体何モンなわけよ? 三つ目の種族なんて上位魔族くらいしか知らんけど、お前、魔族の血でも引いてるん?」
血に塗れた戦斧を突き付けている少年は、光よりも小柄だった。下手をすると小柄な女性以下の身長しか持ち合わせていない。
だが、声は骨太で男らしく、戦斧を構えるその腕も、大地を踏むその足も、明らかに
そしてその顔立ちも、光達と同年代に見える。ただ不精者なのか、口髭と顎髭をうっすらと生やしていた。
しかし、癖の強そうな髪は短くまとめられ、清潔な印象を受ける。
屈強短躯とでも言うのだろうか。そんな言葉が似合う少年であった。
光が破壊衝動も忘れ、呆気に取られていると、少年は「まぁいいか」と言いつつ戦斧を振り上げる。
「なんかヤバそうな感じだし、一応
などと物騒な事を言い出し、なんの躊躇も無く、まるで餅でも突くように「ほいっ」と戦斧を振り下ろす。
金属と金属が激しくぶつかり合う音が鳴り響いた。
そこで光が見たものは、盾を両手で構えて戦斧の一撃を防いだ
「へぇ……オイラの一撃を防ぐんだ。エルフの姉ちゃん」
「先輩は……やらせないっ」
真琴は力の限り踏ん張ると、少年の戦斧を押しのけた。少年はたたらを踏んで体勢を崩す。
そこに真琴は盾を鈍器代わりに使って、
だが、それはかなわなかった。
『風よ 疾く 疾く駆けよ 駆け抜けて その力もて壁となれ』
またもや美しい声が響き渡り、突風が壁となって真琴と少年の間に立ち塞がる。
そして、真琴と少年が見やった視線の先に立っていたのは、美しい少女だった。
背は高く、下手をすると光よりも高身長だった。そのわりに身体は起伏に乏しく、まるでしなやかな柳を思わせる肢体をしている。
長い髪は後ろで編んでおり、流れる金の様だ。
なにより、長く尖った耳に神秘的な
その少女はしずしずと歩いてきて、手に持った杖を振り上げると。
ポコン
まるで間抜けな音が響く様な勢いで、小柄な少年を殴る。
そして、すぅ……っと息を吸ったかと思うと、一気呵成にしゃべり出した。
「なんば考えちょるとねっ、あんたはっ! なんもいきなり殺すこともなかろうもん!!」
「でもよぅ、エル」
「デモもイモも無か! 何遍言うたら分かるとね!? こん、
長身の少女が見かけによらぬ勢いで、がうがうと少年を責め立てる。
それに対して少年は、バツが悪そうに頭を搔くだけであった。
そうしてひとしきりしゃべり終わったかと思うと、くるりと真琴の方に向き直り、ぺこりと頭を下げた。
「ごめんねぇ。ウチの
それを聞いて、真琴はポリポリと困ったように頬を搔き、「あー」だの「うー」だのと言って、返事を躊躇っている様子である。
そしてようやく出た台詞がこれであった。
「……ごめん。貴女の言葉、
それを聞いて、少女の端正な顔が驚愕に歪み、手から杖を落としてぐらりと身体をよろめかせた。
「そ、そげん、こつが……っ! ウチ
「いや、九州弁で話されてもなぁ~って」
「キューシューち、なんね?
「うん、まぁそんなとこ。あたしの国の南にある地方なんだけどね」
「ウチの森。クージュじゃみんなこげん話し方ばってんがねぇ。そげん似ちょると?」
「うんうん、似てる似てる」
そんなかしましい二人の少女の会話に、少年が恐る恐る口を出す。
「ところでエルよぅ……」
「なんね、
「
それを聞いてエルと呼ばれた少は「むぅ」と頬を膨らませて考え込むが、一呼吸したあと口調を改めた。
「コレでイイですカ? ワタシ
「てかよぉ。共用語もまともに話せないで、よく森を出ようなんて思ったよな? お前」
「ウルさいデス。ホトイてくだサイ」
ぷいとそっぽを向いたその様がなんだか子供っぽくて、真琴はもうすっかり毒気を抜かれ、忍び笑いを立てていた。
そして殺されかけた光はというと、徐々に元の姿を取り戻し、奇妙な二人組を呆気にとられて見つめ続けるのだった。
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